台湾原住民パイワン族の血統にあるシンガー・ソングライターの公演を、青山・月見ル君フで見る。アコースティック・ギターを弾きながら歌う当人をエレクトリック・ギター奏者とベーシストとドラマーがサポート。彼らは現地で活動するガガバンドというサポート用途バンドの選抜員のようで、ドラマーは日本人だったようだ。バライのはいていた赤色基調のパンツはパイワン族に伝わるものだったのだろうか。彼、言葉はパイワン語や北京語で歌っていたようだ。

 へ〜え。1曲目はほぼバライ一人の弾き語りの曲だったのだが、個性と訴求力に富む声量の大きな歌声に触れて少々びっくり。見た目は、普通の青年なのだが、声の深さは40過ぎのおっさんもびっくり、という感じ。もう無条件で、ある固有の文化を引き継いでいると、それは感じさせる。また、曲調もまちがいなくパイワン族の何かを受けているナと、感じてしまう。

 一部トラッド曲もやったようだが、巧みなコードの置き方をしているからかもしれないが、雄大さや風の感覚を持ちつつ、掛け声や詠唱的な雰囲気までもが無理なく“洋楽耳”になじむ。で、その伝承曲を聞いてぼくが思い出したのは、米国先住民の血を弾くジャズ・サックス奏者であるジム・パッパーの牧歌名曲「Witchi-Tai-To」。いや、なんか固有文化に対するこだわりは不思議な親和性を持つのか。

 十分に西欧音楽文脈とは異なる何かを抱えつつ、一方では今様なロック流儀も持つ(電気ギタリストは、今のUKロック型響きのスタイルを示す)。いい聞き味は、いろいろ。かなりうきうきしながら、ぼくは彼に触れる。台湾に対する興味もまたあがった。彼はMCはコタコトの日本語でこなす。けっこう単語を覚えたのだろう、つっかえつつも自分の気持ちを伝えようとしているのが、よく伝わりました。台湾で肌の色が黒い人がいたら声をかけてください、その80%が先住民族ですから、みたいなMCも彼はしたか。

 そんな彼がパフォーマンスする前には、大阪のインストゥルメンタル・バンドのjew’s-earが演奏。リード、キーボード/フルート、ギター、ベース、ドラムという編成の5人組。ときにジャム・バンド的なところも感じさせる、間口が広く敷居が柔らかい、しっかりとした演奏を披露。ほんの少し、エチオピア。ジャズぽくなる局面もあったか。ジャズ研流れのコンボなのかなと思ったら、MCで自ら<喫茶プログレ・バンド>と紹介する。プログ・ロック流れのバンドなのかしらん。とすれば、カンカン言っていたスネア音はビル・ブラフォードから来た? なんか、その音に接しながらP-ヴァインからアルバムが出されても驚かないなと思ったら、彼らは何年か前に同社からアルバムを出しているらしい。また、DCPRG(2001年9月22日、2011年7月31日)の解散ツアーにも前座で出た事があるという。そんな彼らはバライの曲をイビツなビート感覚のもとカヴァーしていて、それを披露するときバライは出て来て1曲歌った。バライの実演のとき叩いたのは、ここのドラマー? 

 そのあと、青山・プラッサ・オンゼに。<ラテン・ジャム、vol.11>という出し物をやっていて、出演者は高井汐人(テナー・サックス)、柴田亮太郎(ギター)、安西創(アコーディオン)、酒井タカフミ(パーカッション)。過去の回はベーシストやドラマーも入っていたようだが、今回は新たな設定で実演に望んでいるとのこと。ラテンと謳っているものの、参照する世界は広く、柴田(2011年6月7日)はフラメンコ・ギターをヘレスに居住して学んでいたこともあり、適切なフラメンコの薫りが入る場合もある。ぼくが見たセットでは、スティーヴィ・ワンダーの「リボン・イン・ザ・スカイ」やスティングの「イングリッシュ・マン・イン・ニューヨーク」といったポップ曲も無理なく取り上げていた。

 通常はアルトやソプラノも吹くという高井(2011年7月31日)はテナー・サックスに専念していたが、その安定と豊かさを持つ吹き味には感心。2日前にジョシュア・レッドマンの丁寧なそれを聞いたばかりでもそう感じるので、かなりの実力者と見た。聞けば、普段はラテンものを中心にやっているものの、再結成後のDCRPG(2011年7月31日)に彼は加わっているという。菊地成孔(2001年9月22日、2002年11月30日、2004年7月6日、2004年8月12日、2005年6月9日、2006年1月21日、2007年11月7日、2009年7月19日、2010年3月26日、2011年4月22日、2011年5月5日、2011年7月31日、2013年3月26日、2013年7月27日、2014年2月20日、2014年4月3日)も彼の実力を認めているのね。

▶過去の、DCPRG
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-9.htm
http://43142.diarynote.jp/?day=20110731
▶過去の、柴田
http://43142.diarynote.jp/201106202134077974/
▶過去の、菊地
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-9.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-11.htm
http://43142.diarynote.jp/200407062149440000/
http://43142.diarynote.jp/200408120238330000/
http://43142.diarynote.jp/200506120644360000/
http://43142.diarynote.jp/200601271857530000/
http://43142.diarynote.jp/200711101236210000/
http://43142.diarynote.jp/200907221011377741/
http://43142.diarynote.jp/?day=20100326
http://43142.diarynote.jp/?day=20110422
http://43142.diarynote.jp/?day=20110505
http://43142.diarynote.jp/?day=20110731
http://43142.diarynote.jp/201303290751204240/
http://43142.diarynote.jp/?day=20130727
http://43142.diarynote.jp/201402210802184994/
http://43142.diarynote.jp/201404050818444425

<今日の、注釈>
 文中に名前を出したジム・ペッパー(1941〜92年)はエンヤやアンティルズ/アイランド他にリーダー作を残すとともに、ポール・モーシャンやチャーリ・ヘイデン(2001年11月20日、2005年3月16日、2009年9月10日)の表現にも関与してきているテナー主体のサックス奏者で、自らヴォーカルをとってもいる「Witchi-Tai-To」は彼の1971年作や1984年作で聞くことができる。そして、同曲はヒューマンな楽曲として一部のジャズ・マンからも愛されていて、ヤン・ガルバレク(2002年2月13日、2004年2月25日)は1974年ECM発の同名タイトルのアルバムでカヴァー。他にも、オレゴンやジャック・ディジョネット(2001年4月30日、2007年5月8日)などもこの曲を取り上げている。

▶過去の、チャーリー・ヘイデン
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/LIVE-2001-11.htm
http://43142.diarynote.jp/200503240453290000/
http://43142.diarynote.jp/200909120650273142/
▶過去の、ガルバレク 
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-2.htm
http://43142.diarynote.jp/200402251031510000/
▶過去の、ディジョネット
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-4.htm
http://43142.diarynote.jp/200705181807060000/