ニーボディ。スタンリー・クラーク
2015年9月30日 音楽 ニーボディ(2013年8月22日)、2度目の来日公演は、丸の内・コットンクラブ。もともとはLA拠点の5人組バンドであったが、現在メンバーの3人はNYに居住。主にMCもこなすベースのケイヴァー・ラステガー(プレシジョンを多様な右手遣いで弾く)、フェンダー・ローズだけを弾くエイドリアン・ベンジャミン、春のアントニオ・サンチェス公演のときにも来日しているテナー・サックスのベン・ウェンデル(2015年4月16日)、トランペットのシェイン・エンズリー、今様な叩き口をもつわりには頭が禿げているネイト・ウッドという顔ぶれなり。
基本のノリは現代ジャズ志向をそれなりに抱えるが、ベーシストがエレクトリックというのはポイントかな。それが、ジャズ側に過度に入り込むのを妨げる。彼らのことをジャム・バンドと言う人がいるのもそこらへんの手触りがあるからだろう。すでに次作のレコーディングを済ませていて、そこからの曲も演奏。前よりも、ガチンコ疾走感を減らし、バンド演奏の陰影や機微を追求していると思わせるところはあったか。なんか、憎めない風情を感じさせるところが面々にあるのはいいな。
▶過去の、ニーボディ
http://43142.diarynote.jp/201308251333326263/
▶過去の、ベン・ウェンデル
http://43142.diarynote.jp/?day=20150416
その後は南青山・ブルーノート東京に移動して、大御所ベーシストのスタンリー・クラーク(2008年9月8日、2010年12月3日、2012年12月5日)公演を見た。のだが、なんじゃこりゃ。ギャハハハ。
乱暴者の、阿呆ジャズ。コクも滋味も奥行きも、なんもなく、イケイケのみ。力づく、あるのみ。はったり上等100%、という実演だったのだ。本人も、一部ブレインフィーダー系列とも繋がる若いプレイヤー(キーボード奏者はカマシ・ワシントン〜2014年5月28日〜作に名前が見られる)も、皆そう。当人、ベカ・ゴチアシュヴィリ(ピアノ。東欧出身、結構弾きまくる)、キャメロン・グレイヴス(キーボード。ピッチ・ベンド多用で、多くは右手だけで弾き、一人でフュージョン濃度を増させる演奏をする)、マイケル・ミッチェル(ドラム。滅茶、パワー・ドラマー。先に、ネイト・ウッドの生理的に美味しい綻びを持つビートに触れた後だと、旧態依然としたノリを持つ非ジャズ・ドラマーであると思わせられた)。そういえば、ドラマーは普通の眼鏡をかけていたが、クラーク他3名はサングラスをかけて演奏していた。
野放し。曲の長さは、当然長い。いい歳こいて(でも、二十歳ぐらいでエリート奏者として世に出ているので、クラークはまだ60代半ばなんだよな。しかし、彼の1974年セルフ・タイトル作は若さの迸りや意欲と音楽的充実が綱引きしていて、本当に素晴らしい。ぼくにとっては、あれが彼のベスト作か)、マジよくやるわ。このショウ、ぼくが10代だったら、こんな吹っ切れたパワー・ジャズがあるのかと感激し、ジャズにもっと興味を持たなきゃと思うはず。だが、10代ではないぼくは、苦笑をしっぱなし。だけど、気取ったり、思慮を効かせたりするジャズがあるなか、こういう単純なエンターテインメント性で固まったものがあってもいいと思ったのは確か。実際、お客には受けていた。
???と言えば、途中で出て来て1曲だけ歌った非アフリカ系女性歌手のナターシャ・アグラマも謎。クラークがEPを制作(ブルーナー兄弟〜2009年9月15日、2014年9月10日~らも参加している)し、クラークの新作『UP』にもコーラスで参加している女性だが、歌声はデカいものの力量もルックスも平凡な人。彼女が歌ったのは、エリカ・バドゥ(2000年11月19日、2006年4月2日。2012年3月2日)の2008年茫洋電波曲「ザ・ヒーラー」。これ、マッドリブが作ったラップの入らないヒップホップ讃歌だが、狙いの分らないものになっていたなー。バドゥだからこそ映えるとも言える曲をよくぞ選んだ。あ、イケイケだもの、難しいこと考えていないか。
クラークは全編アコースティック・ベースで通した。これも、謎。ロン・カーター(2001年6月7日、2004年1月14日、2010年5月6日、2011年1月30日、2012年3月3日、2012年12月11日、2014年1月19日、2014年9月7日)の酷いときのブースターをかけた音を凌駕するそれで、スラッピングをしたりもし、まったくもって俺様ノリで力づく……。『UP』ではエレクトリック・ベース主体でやっており、ステージには2本のエレクトリック・ベースも置かれていた。オープナーの故ジョージ・デューク「ブラジリアン・ラヴ・アフェアー」をはじめ曲だって、エレクトリックを弾いても成り立つものだったわけであり。なんか流れで、ベースを代えるの面倒くさい、このまま行っちゃえとなったのか。別のセットでは電気ベースを弾き倒し、ぜんぜん違うことをやったりして……。あ、おもしろそう。
突っ込みどころ満載、というか、笑いをとることを第一義においていたパフォーマンス。見終わり、ぼくがまだ出会っていなかったライヴのパターンかもと少し思った。
追記)ブレインフィーダー所属のサンダーキャット(2017年4月27日)の実演を見て、そうなのかあ。クラークの子供っぽい”過剰”はサンダーキャットの作法を参照したものではないか。
▶過去の、スタンリー・クラーク
http://43142.diarynote.jp/?day=20080908
http://43142.diarynote.jp/201012051906481605/
http://43142.diarynote.jp/201212131141531884/
▶︎過去の。カマシ・ワシントン
http://43142.diarynote.jp/?day=20140528
▶過去の、ロナルド・ブルーナーJr.
http://43142.diarynote.jp/200909181206531984/
▶過去の、エリカ・バドゥ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-11.htm
http://43142.diarynote.jp/200604050124430000/
http://43142.diarynote.jp/?day=20120302
▶過去の、カーター
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-6.htm
http://43142.diarynote.jp/200401140000000000/
http://43142.diarynote.jp/201005071023536171/
http://43142.diarynote.jp/201102091715522875/
http://43142.diarynote.jp/201203062005542291/
http://43142.diarynote.jp/201212141028575543/
http://43142.diarynote.jp/201401221302405299/
http://43142.diarynote.jp/201409100930206205/
▶︎過去の、サンダーキャット
http://43142.diarynote.jp/201704280745098662/
<今日のお馬鹿さんは、かつてキース・リチャーズに魔法を吹き込んだ……。そして、ニーボディの付録>
キース・リチャーズ(2003年3月15日)の23年ぶりの新作『クロスアイド・ハート』は相変わらず、黒人プロデューサー/ドラマーであるスティーヴ・ジョーダン(2005年11月13日、2006年11月20日2006、年12月22日、2010年10月26日)との二人三脚状態で制作。そのアルバム発表受けてシンコー・ミュージックから現在出ているムック「キーズ・リチャーズ」に<何ゆえに御大は、ジョーダンたちを必要としたのか>という4.500字の原稿を書いてマス。なんで、ここにそんなことを記したかというと、その奥にはスタンリー・クラーク(と、ジガブー・モデリステ〜2007年2月3日〜)の馬鹿演奏の魔力が働いたのかも……ということも、そこには書いているから。
▶過去の、ザ・ローリング・ストーンズ/キース・リチャーズ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-3.htm
▶スティーヴ・ジョーダン
http://43142.diarynote.jp/200511130413390000/
http://43142.diarynote.jp/200611221236140000/
http://43142.diarynote.jp/?day=20061222
http://43142.diarynote.jp/201010301012548114/
▶過去の、ジガブー
http://43142.diarynote.jp/?day=20070203
ついでに、ニーボディのメール・インタヴューを付けちゃおう。以下は、前回の日本公演の1ヶ月半後の2013年秋口に、彼らに答えてもらったたもの。トランペッターのシェイン・エンズリー、テナー・サックスのベン・ウェンデル、フェンダー・ローズのアダム・ベンジャミン、ベースのケヴィー・ラステガーの4人が答えている。
—— CAYでのパフォーマンスを見て、興奮しました。フロントの二管の噛みも抜群で、失礼ながら、“甘さを排した、コンテンポラリーかつエッジィなザ・ブレッカー・ブラザーズ”なんて、感想も持ってしまいました。
SHANE: ほんとうにありがとう。ザ・ブレッカー・ブラザーズと比べてもらえるなんて本当に光栄だ。ベンと僕は結構長い間一緒にやってきたっていうこともあって、ここまで来ると兄弟っていう感じがするんだ。
——もう10年以上、同じメンバーで活動しているんですよね。どういうメンバーが集まっているのでしょう?
KAVEH: バンドを始める前は、とても仲の良い友達同士たった。音楽的にお互いを尊敬しているだけではなく、人として共に成長してきたっていうこともあるから、その特別な絆が僕たちの音楽に反映されていると思うよ。
——普段、メンバーはブルックリンとLAと別れて住んでいるのですよね。その利点は何かありますか?
BEN: 僕たちは2001年、ロスに暮らしている時にこのバンドを始めた。テンプル・バーっていう素晴らしいヴェニューがあって、最初の数年そこが僕たちのホームになった。駆け出しでやっている頃は外からのプレッシャーもなかったという意味で、ロスは最高の場所だった。音を作り上げて、バンドとしてのアイデンティティーを築き上げることに集中できるチャンスを与えてくれたんだ。今は3人がニューヨークに暮らしている。ニューヨークは、世界でもミュージシャン密度が高い場所だから、クリエイティヴなエネルギーもインスピレーションにも溢れている。これはバンドにとってもとてもいい影響になった。
——リーダーはおらず、まったく対等な関係でバンドは運営されていると聞きましたが、それは本当ですか。
SHANE: そう、僕たちは共同体なんだ。たとえばパフォーマンスをするときも、メンバーの誰しもがその時のリーダーになれるような、そんな秘密の回路がある。そんなリーダーとしての役割は音楽を通して変わりうるものでもある。これがあるからこそ、とても民主的にやれるんだ。バンドとしてのクリエイティヴな決断も、ビジネス上の決断も、話し合いと投票によって決められる。皆がお互いのことを信用し、またお互いのアーティストとしてのヴィジョンを尊重し、共通の価値観を持っているから、リーダーを必要としないグループなんだ。
——グリーンリーフ(トランペッターのデイヴ・ダグラスが持つレーベル)からのアルバム、ウィンター&ウィンターからのアルバム、ライブ盤等、いろんなアルバムを出しています。そして、『The Line』(2013年。今のところ、これが新作)はコンコードからの1枚目となるんですよね。
KAVEH: そう、これがコンコードからの初リリース。このレーベルに所属できて本当に嬉しいし、彼らの手助けを得ながら、日本と世界中で僕たちの存在を知ってもらいたいね。
——どんな経緯で、コンコードと関係を持つようになったのでしょう? コンコード発ということで、一般のリスナーがあなたたちのCDに触れる機会は増えたと思いますが。
BEN: もう何年も前、ロスのアメーバ・レコード(ものすごく大きな、有名レコード店)でアルバムのリリース・イベントで演奏していたんだけど、そこにたまたまコンコードのクリス・ダンがいたんだ。彼は流れていた音楽を聞いてCDの音だと思ったんだけれど、それが実はライブ演奏だって気付いて驚いたみたい。それで、彼は僕たちの音にとても興味を持ってくれて、すぐに仲良くなった。何年もの間コンコードとやろうっていう話があったんだけど、今年になるまでタイミングが合わなかったんだ。
—— クリス・ダンは新作の共同プロデューサーとしてもクレジットされていますが、どんな人物ですか?
SHANE: クリスはジャズと音楽全般に対しての知識と愛情を持っている、僕たちの業界ではとても珍しいタイプ。彼は一緒に仕事をする前からニーボディのファンだった。僕たちの初期のアルバムに対しての彼のインプットもとても気に入っていたし、実際に2作品では曲順で手を貸してもらっていたんだ。『The Line』をレコーディングすることになったとき、彼こそこのアルバムの共同プロデューサーにぴったりの人間だって思った。レコーディングをする中で彼は、バランスのとれたアルバムにする必要性を理解させてくれる客観性を与えてくれる、本当に素晴らしい耳を提供してくれた。
——それで、新作はどんなものにしようと思いましたか。
KAVEH: 僕たちの音楽は、緊張感と解放感を中心に据えていることが多い。僕たちは、僕たちにできることの両極端を探求したかった。音楽が重くてエネルギッシュな時もあるし、同じように平静と美の瞬間とバランスをとらせることも好きなんだ。このアルバムを素晴らしいスタジオでレコーディングすることがとても重要なことだった。だからこそ、僕たちのお気に入りのロック・アルバムの多くがレコーディングされたハリウッドのサンセット・サウンドを選んだ。伝説的エンジニアのトッド・バークの助けも借りると同時に、とても仲の良い友だちであるトッド・シッカフースにミックスしてもらった。彼は長年尊敬してきた人であり、そして最高のミュージシャンでもあり、作曲家でもある。
——ジャズの流儀や衝動を根に持ちつつ、エレクトロ、ヒップホップ、現代ロックなど、様々な非ジャズの要素があなたたちの表現には入り込んでいます。それは、あなたたちのやりたいことですよね。また、それを成就させるため、気に留めていることはあったりしますか。
ADAM: 僕たちの周りを取り囲む幅広い音楽が原動力になったりインスピレーションになったりする。僕たちは皆オープン・マインドでやるようにしているし、知っている音楽だろうと知らない音楽だろうと、そこからアイディアを探したりするんだ。僕たちは、パンク、フュージョン、オペラ、ヒップホップ、グランジ、ビバップなど本当にいろいろな種類の音楽を聴いてきたから、もともと好きなものに対して扉を閉めたいとは思わない。作曲したり演奏したりするとき、僕たちの音楽がジャズか否かなんか考えないけれど、僕たちの音楽は21世紀に向けて、ジャズのごくごく自然な進み方だと感じている。
—— CDブックレットには曲ごとにソング・ライターによる説明がちゃんとのせられています。そういうことをするアーティストは珍しいと思いましたが。
ADAM: それぞれの曲の解説が載っているような古いジャズ・アルバムへの回帰みたいなものだね。僕たちは皆物凄い音楽オタクで、レコード狂だから、何時間も何時間も他者のアルバム・ジャケットやライナーについて細かいところまで話し合うんだ。それと同じことを僕たちのファンが僕たちの音楽に対してしてもらえたなら光栄だよね。特に今は音楽がいろいろなところで手に入るから、僕たちのファンやオーディエンスが僕たちのCDを手にした時には完全なもの、フル・パッケージを提供したいんだ。
—— 過去と現在、やりたいことは変化してきているのでしょうか?
ADAM: 年もとったし今は家族もいるから、もっと良く、長続きするようなキャリアを築かなければならなった。だから、現実的にならなければならないから、僕たちのビジネスでのゴールは変わった。でも音楽的ゴールはほぼ変わっていない。僕たちが楽しめる音楽を、お互いのために共に作る、そしてそれが誰だろうとも興味のある人と僕たちの作品を共有するっていうものだ。
—— 今、自分たちとスタンスが似ていると思える人は誰かいたりしますか。
ADAM: 多くの最近のアーティストに対して芸術的な共感を抱いているよ。The
Claudia Quintet、Meshell Ndegeocello、 Ahmir Thompson、 Kurt Rosenwinkel、
D’Angelo、 Dave Grohl、 Laura Mvula、 Art Lande、 Ralph Alessi、 Ambrose
Akinmusire、 David Byrne、 Dave Douglas、 Flying Lotus、 Kendrick Lamar、
Van Dyke Parks、 Tom Jenkinson.......。
——今後、どんなふう進んでいけたらいいと思っていますか?
ADAM: まずは、「既に改宗した」連中だけのためにやるのではなくて、より幅広いオーディエンスに届くことだね。僕たちの熱烈なファンは大好きだけれど、既に僕たちの音楽を知っている人だけのために演奏することは危険なこと。僕たちの音楽は複雑で珍しいものかもしれないけれど、幅広い層の人たちにも興味を持ってもらえて楽しめるものにしたいんだ。音楽的には、僕たちの音楽が僕たちの音楽的概念をより良く表現できるように日々努力している。さらなる明確さと集中、自然発生的な感じ、そして知恵のある感じにしたいんだ。これは人生を通してずっとやっていくことだって分るけれど、学びの最初の段階に常にあり続けられる状態っていうのはとても気持ちの良いものなんだ。
基本のノリは現代ジャズ志向をそれなりに抱えるが、ベーシストがエレクトリックというのはポイントかな。それが、ジャズ側に過度に入り込むのを妨げる。彼らのことをジャム・バンドと言う人がいるのもそこらへんの手触りがあるからだろう。すでに次作のレコーディングを済ませていて、そこからの曲も演奏。前よりも、ガチンコ疾走感を減らし、バンド演奏の陰影や機微を追求していると思わせるところはあったか。なんか、憎めない風情を感じさせるところが面々にあるのはいいな。
▶過去の、ニーボディ
http://43142.diarynote.jp/201308251333326263/
▶過去の、ベン・ウェンデル
http://43142.diarynote.jp/?day=20150416
その後は南青山・ブルーノート東京に移動して、大御所ベーシストのスタンリー・クラーク(2008年9月8日、2010年12月3日、2012年12月5日)公演を見た。のだが、なんじゃこりゃ。ギャハハハ。
乱暴者の、阿呆ジャズ。コクも滋味も奥行きも、なんもなく、イケイケのみ。力づく、あるのみ。はったり上等100%、という実演だったのだ。本人も、一部ブレインフィーダー系列とも繋がる若いプレイヤー(キーボード奏者はカマシ・ワシントン〜2014年5月28日〜作に名前が見られる)も、皆そう。当人、ベカ・ゴチアシュヴィリ(ピアノ。東欧出身、結構弾きまくる)、キャメロン・グレイヴス(キーボード。ピッチ・ベンド多用で、多くは右手だけで弾き、一人でフュージョン濃度を増させる演奏をする)、マイケル・ミッチェル(ドラム。滅茶、パワー・ドラマー。先に、ネイト・ウッドの生理的に美味しい綻びを持つビートに触れた後だと、旧態依然としたノリを持つ非ジャズ・ドラマーであると思わせられた)。そういえば、ドラマーは普通の眼鏡をかけていたが、クラーク他3名はサングラスをかけて演奏していた。
野放し。曲の長さは、当然長い。いい歳こいて(でも、二十歳ぐらいでエリート奏者として世に出ているので、クラークはまだ60代半ばなんだよな。しかし、彼の1974年セルフ・タイトル作は若さの迸りや意欲と音楽的充実が綱引きしていて、本当に素晴らしい。ぼくにとっては、あれが彼のベスト作か)、マジよくやるわ。このショウ、ぼくが10代だったら、こんな吹っ切れたパワー・ジャズがあるのかと感激し、ジャズにもっと興味を持たなきゃと思うはず。だが、10代ではないぼくは、苦笑をしっぱなし。だけど、気取ったり、思慮を効かせたりするジャズがあるなか、こういう単純なエンターテインメント性で固まったものがあってもいいと思ったのは確か。実際、お客には受けていた。
???と言えば、途中で出て来て1曲だけ歌った非アフリカ系女性歌手のナターシャ・アグラマも謎。クラークがEPを制作(ブルーナー兄弟〜2009年9月15日、2014年9月10日~らも参加している)し、クラークの新作『UP』にもコーラスで参加している女性だが、歌声はデカいものの力量もルックスも平凡な人。彼女が歌ったのは、エリカ・バドゥ(2000年11月19日、2006年4月2日。2012年3月2日)の2008年茫洋電波曲「ザ・ヒーラー」。これ、マッドリブが作ったラップの入らないヒップホップ讃歌だが、狙いの分らないものになっていたなー。バドゥだからこそ映えるとも言える曲をよくぞ選んだ。あ、イケイケだもの、難しいこと考えていないか。
クラークは全編アコースティック・ベースで通した。これも、謎。ロン・カーター(2001年6月7日、2004年1月14日、2010年5月6日、2011年1月30日、2012年3月3日、2012年12月11日、2014年1月19日、2014年9月7日)の酷いときのブースターをかけた音を凌駕するそれで、スラッピングをしたりもし、まったくもって俺様ノリで力づく……。『UP』ではエレクトリック・ベース主体でやっており、ステージには2本のエレクトリック・ベースも置かれていた。オープナーの故ジョージ・デューク「ブラジリアン・ラヴ・アフェアー」をはじめ曲だって、エレクトリックを弾いても成り立つものだったわけであり。なんか流れで、ベースを代えるの面倒くさい、このまま行っちゃえとなったのか。別のセットでは電気ベースを弾き倒し、ぜんぜん違うことをやったりして……。あ、おもしろそう。
突っ込みどころ満載、というか、笑いをとることを第一義においていたパフォーマンス。見終わり、ぼくがまだ出会っていなかったライヴのパターンかもと少し思った。
追記)ブレインフィーダー所属のサンダーキャット(2017年4月27日)の実演を見て、そうなのかあ。クラークの子供っぽい”過剰”はサンダーキャットの作法を参照したものではないか。
▶過去の、スタンリー・クラーク
http://43142.diarynote.jp/?day=20080908
http://43142.diarynote.jp/201012051906481605/
http://43142.diarynote.jp/201212131141531884/
▶︎過去の。カマシ・ワシントン
http://43142.diarynote.jp/?day=20140528
▶過去の、ロナルド・ブルーナーJr.
http://43142.diarynote.jp/200909181206531984/
▶過去の、エリカ・バドゥ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-11.htm
http://43142.diarynote.jp/200604050124430000/
http://43142.diarynote.jp/?day=20120302
▶過去の、カーター
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-6.htm
http://43142.diarynote.jp/200401140000000000/
http://43142.diarynote.jp/201005071023536171/
http://43142.diarynote.jp/201102091715522875/
http://43142.diarynote.jp/201203062005542291/
http://43142.diarynote.jp/201212141028575543/
http://43142.diarynote.jp/201401221302405299/
http://43142.diarynote.jp/201409100930206205/
▶︎過去の、サンダーキャット
http://43142.diarynote.jp/201704280745098662/
<今日のお馬鹿さんは、かつてキース・リチャーズに魔法を吹き込んだ……。そして、ニーボディの付録>
キース・リチャーズ(2003年3月15日)の23年ぶりの新作『クロスアイド・ハート』は相変わらず、黒人プロデューサー/ドラマーであるスティーヴ・ジョーダン(2005年11月13日、2006年11月20日2006、年12月22日、2010年10月26日)との二人三脚状態で制作。そのアルバム発表受けてシンコー・ミュージックから現在出ているムック「キーズ・リチャーズ」に<何ゆえに御大は、ジョーダンたちを必要としたのか>という4.500字の原稿を書いてマス。なんで、ここにそんなことを記したかというと、その奥にはスタンリー・クラーク(と、ジガブー・モデリステ〜2007年2月3日〜)の馬鹿演奏の魔力が働いたのかも……ということも、そこには書いているから。
▶過去の、ザ・ローリング・ストーンズ/キース・リチャーズ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-3.htm
▶スティーヴ・ジョーダン
http://43142.diarynote.jp/200511130413390000/
http://43142.diarynote.jp/200611221236140000/
http://43142.diarynote.jp/?day=20061222
http://43142.diarynote.jp/201010301012548114/
▶過去の、ジガブー
http://43142.diarynote.jp/?day=20070203
ついでに、ニーボディのメール・インタヴューを付けちゃおう。以下は、前回の日本公演の1ヶ月半後の2013年秋口に、彼らに答えてもらったたもの。トランペッターのシェイン・エンズリー、テナー・サックスのベン・ウェンデル、フェンダー・ローズのアダム・ベンジャミン、ベースのケヴィー・ラステガーの4人が答えている。
—— CAYでのパフォーマンスを見て、興奮しました。フロントの二管の噛みも抜群で、失礼ながら、“甘さを排した、コンテンポラリーかつエッジィなザ・ブレッカー・ブラザーズ”なんて、感想も持ってしまいました。
SHANE: ほんとうにありがとう。ザ・ブレッカー・ブラザーズと比べてもらえるなんて本当に光栄だ。ベンと僕は結構長い間一緒にやってきたっていうこともあって、ここまで来ると兄弟っていう感じがするんだ。
——もう10年以上、同じメンバーで活動しているんですよね。どういうメンバーが集まっているのでしょう?
KAVEH: バンドを始める前は、とても仲の良い友達同士たった。音楽的にお互いを尊敬しているだけではなく、人として共に成長してきたっていうこともあるから、その特別な絆が僕たちの音楽に反映されていると思うよ。
——普段、メンバーはブルックリンとLAと別れて住んでいるのですよね。その利点は何かありますか?
BEN: 僕たちは2001年、ロスに暮らしている時にこのバンドを始めた。テンプル・バーっていう素晴らしいヴェニューがあって、最初の数年そこが僕たちのホームになった。駆け出しでやっている頃は外からのプレッシャーもなかったという意味で、ロスは最高の場所だった。音を作り上げて、バンドとしてのアイデンティティーを築き上げることに集中できるチャンスを与えてくれたんだ。今は3人がニューヨークに暮らしている。ニューヨークは、世界でもミュージシャン密度が高い場所だから、クリエイティヴなエネルギーもインスピレーションにも溢れている。これはバンドにとってもとてもいい影響になった。
——リーダーはおらず、まったく対等な関係でバンドは運営されていると聞きましたが、それは本当ですか。
SHANE: そう、僕たちは共同体なんだ。たとえばパフォーマンスをするときも、メンバーの誰しもがその時のリーダーになれるような、そんな秘密の回路がある。そんなリーダーとしての役割は音楽を通して変わりうるものでもある。これがあるからこそ、とても民主的にやれるんだ。バンドとしてのクリエイティヴな決断も、ビジネス上の決断も、話し合いと投票によって決められる。皆がお互いのことを信用し、またお互いのアーティストとしてのヴィジョンを尊重し、共通の価値観を持っているから、リーダーを必要としないグループなんだ。
——グリーンリーフ(トランペッターのデイヴ・ダグラスが持つレーベル)からのアルバム、ウィンター&ウィンターからのアルバム、ライブ盤等、いろんなアルバムを出しています。そして、『The Line』(2013年。今のところ、これが新作)はコンコードからの1枚目となるんですよね。
KAVEH: そう、これがコンコードからの初リリース。このレーベルに所属できて本当に嬉しいし、彼らの手助けを得ながら、日本と世界中で僕たちの存在を知ってもらいたいね。
——どんな経緯で、コンコードと関係を持つようになったのでしょう? コンコード発ということで、一般のリスナーがあなたたちのCDに触れる機会は増えたと思いますが。
BEN: もう何年も前、ロスのアメーバ・レコード(ものすごく大きな、有名レコード店)でアルバムのリリース・イベントで演奏していたんだけど、そこにたまたまコンコードのクリス・ダンがいたんだ。彼は流れていた音楽を聞いてCDの音だと思ったんだけれど、それが実はライブ演奏だって気付いて驚いたみたい。それで、彼は僕たちの音にとても興味を持ってくれて、すぐに仲良くなった。何年もの間コンコードとやろうっていう話があったんだけど、今年になるまでタイミングが合わなかったんだ。
—— クリス・ダンは新作の共同プロデューサーとしてもクレジットされていますが、どんな人物ですか?
SHANE: クリスはジャズと音楽全般に対しての知識と愛情を持っている、僕たちの業界ではとても珍しいタイプ。彼は一緒に仕事をする前からニーボディのファンだった。僕たちの初期のアルバムに対しての彼のインプットもとても気に入っていたし、実際に2作品では曲順で手を貸してもらっていたんだ。『The Line』をレコーディングすることになったとき、彼こそこのアルバムの共同プロデューサーにぴったりの人間だって思った。レコーディングをする中で彼は、バランスのとれたアルバムにする必要性を理解させてくれる客観性を与えてくれる、本当に素晴らしい耳を提供してくれた。
——それで、新作はどんなものにしようと思いましたか。
KAVEH: 僕たちの音楽は、緊張感と解放感を中心に据えていることが多い。僕たちは、僕たちにできることの両極端を探求したかった。音楽が重くてエネルギッシュな時もあるし、同じように平静と美の瞬間とバランスをとらせることも好きなんだ。このアルバムを素晴らしいスタジオでレコーディングすることがとても重要なことだった。だからこそ、僕たちのお気に入りのロック・アルバムの多くがレコーディングされたハリウッドのサンセット・サウンドを選んだ。伝説的エンジニアのトッド・バークの助けも借りると同時に、とても仲の良い友だちであるトッド・シッカフースにミックスしてもらった。彼は長年尊敬してきた人であり、そして最高のミュージシャンでもあり、作曲家でもある。
——ジャズの流儀や衝動を根に持ちつつ、エレクトロ、ヒップホップ、現代ロックなど、様々な非ジャズの要素があなたたちの表現には入り込んでいます。それは、あなたたちのやりたいことですよね。また、それを成就させるため、気に留めていることはあったりしますか。
ADAM: 僕たちの周りを取り囲む幅広い音楽が原動力になったりインスピレーションになったりする。僕たちは皆オープン・マインドでやるようにしているし、知っている音楽だろうと知らない音楽だろうと、そこからアイディアを探したりするんだ。僕たちは、パンク、フュージョン、オペラ、ヒップホップ、グランジ、ビバップなど本当にいろいろな種類の音楽を聴いてきたから、もともと好きなものに対して扉を閉めたいとは思わない。作曲したり演奏したりするとき、僕たちの音楽がジャズか否かなんか考えないけれど、僕たちの音楽は21世紀に向けて、ジャズのごくごく自然な進み方だと感じている。
—— CDブックレットには曲ごとにソング・ライターによる説明がちゃんとのせられています。そういうことをするアーティストは珍しいと思いましたが。
ADAM: それぞれの曲の解説が載っているような古いジャズ・アルバムへの回帰みたいなものだね。僕たちは皆物凄い音楽オタクで、レコード狂だから、何時間も何時間も他者のアルバム・ジャケットやライナーについて細かいところまで話し合うんだ。それと同じことを僕たちのファンが僕たちの音楽に対してしてもらえたなら光栄だよね。特に今は音楽がいろいろなところで手に入るから、僕たちのファンやオーディエンスが僕たちのCDを手にした時には完全なもの、フル・パッケージを提供したいんだ。
—— 過去と現在、やりたいことは変化してきているのでしょうか?
ADAM: 年もとったし今は家族もいるから、もっと良く、長続きするようなキャリアを築かなければならなった。だから、現実的にならなければならないから、僕たちのビジネスでのゴールは変わった。でも音楽的ゴールはほぼ変わっていない。僕たちが楽しめる音楽を、お互いのために共に作る、そしてそれが誰だろうとも興味のある人と僕たちの作品を共有するっていうものだ。
—— 今、自分たちとスタンスが似ていると思える人は誰かいたりしますか。
ADAM: 多くの最近のアーティストに対して芸術的な共感を抱いているよ。The
Claudia Quintet、Meshell Ndegeocello、 Ahmir Thompson、 Kurt Rosenwinkel、
D’Angelo、 Dave Grohl、 Laura Mvula、 Art Lande、 Ralph Alessi、 Ambrose
Akinmusire、 David Byrne、 Dave Douglas、 Flying Lotus、 Kendrick Lamar、
Van Dyke Parks、 Tom Jenkinson.......。
——今後、どんなふう進んでいけたらいいと思っていますか?
ADAM: まずは、「既に改宗した」連中だけのためにやるのではなくて、より幅広いオーディエンスに届くことだね。僕たちの熱烈なファンは大好きだけれど、既に僕たちの音楽を知っている人だけのために演奏することは危険なこと。僕たちの音楽は複雑で珍しいものかもしれないけれど、幅広い層の人たちにも興味を持ってもらえて楽しめるものにしたいんだ。音楽的には、僕たちの音楽が僕たちの音楽的概念をより良く表現できるように日々努力している。さらなる明確さと集中、自然発生的な感じ、そして知恵のある感じにしたいんだ。これは人生を通してずっとやっていくことだって分るけれど、学びの最初の段階に常にあり続けられる状態っていうのはとても気持ちの良いものなんだ。