何度も来日公演もしているし、名前は聞いてはいたが、オランダのアコースティック・プログ(レッシヴ)・ロック・バンドのフレアークの音楽や実演には触れたことがなかった。今回の彼らの夏のツアーは、そのスペシャル拡大版。にして、よりロマ音楽妙味を経由したものを志向する、と言えるのか。その編成は、5人のアコースティック・ギター、ツィンバロム/アコーディオン、フルート/サンポーニャ/横笛、3人のヴァイオリン、コントラバス、カホン/シンバル……全12人。バジリー姓の奏者が4人もいるが、それはオランダのロマの有名苗字であるようで、彼らは血縁関係にあるという。

 メンバーの国籍はオランダ8人、メキシコ、ルーマニア、インドネシア、ハンガリー。うち、女性は2人。ふむ、確かにグローバルな編成ではあるな。ステージ上に弧を描くように座った面々はきわめて自然、私たちはいるべき所にいますよという風情を出している。会場は、後楽園・文京区シビックホール。今回彼らはMIN-ON主宰のもと、立派なホールが会場となるツアーを全国13会場で行う。

 メンバーのオリジナル、ジャンゴ・ラインハルト曲(「マイナー・スウィング」)、工夫ある編曲がほどこされた各所トラッド曲が、長目の尺とともに送りだされる。すぐに了解できるのはリーダーのエリック・ヴォセル(ギター)をはじめ、皆腕が立つ。そして、音の重なりに準備が行き届いているということ。起伏を持つ曲のなかには、ミニマル・ミュージック基調と言えるものも散見。なんか、音大出身者もそれなりにいそうだよな、なんてことも思ったか。

 だが、その一方かしこまっていたり、お高くとまっているいるところは皆無。もう下世話というしかなく、客に両手を広げまくり、笑いの要素を随所に盛り込みまくる。実はそこらあたりの、臭い仕草や二人羽織状態でギターの掛け合いをしたり(その手の所作はいろいろとあった)とかいうエンターテインメント性表出については、ぼくは退いてしまうところもあるのだが、お客さんへのアピール度はめっぽう高い。ヴィセルは最初のほうと終盤に、延々と日本語でMCをする。彼、他は英語で行った。山あり谷あり、重厚洒脱、その総体は遊園地のよう。それが、王道のダンス音楽やポップスではなく、ちょいひねくれた視点も持つ、変な楽器も用いるアコースティック表現でまっとうしているのだからすごいっちゃすごい。子供でも飽きずに、彼らのことを笑顔で見通せちゃうはずだ。

 アンサンブルや随所組み込まれる娯楽性を持つ各楽器ソロは精緻に(予定調和的にとも、書ける)編み込まれている。そこらへんは、やはりプログ・ロック的と指摘できるだろう。そういえば、とくにヴィセルはロック畑の人物と思わせるものを出して、ある曲ではザ・ローリング・ストーンズ(2003年3月15日)の「無情の世界」のフレーズを出した場面もあり。前半部のトラッドをアレンジした曲はななんかストーンズの「アンジー」の哀愁と重なった?

 手が行き届きすぎる=臭いところも含めて、プロのステージ。1部45分、2部はアンコールを含めて、1時間15分ぐらいやったかな。

▶過去の、ザ・ローリング・ストーンズ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-3.htm

<今日の、疑問>
 地下鉄後楽園駅直結(とか言いつつ、少しは時間がかかるが。でも、ときに強い雨も降った今日は、直結はありがたかった)の文京区の建物内にあるシビッック・ホールには10年ぶりに来る(2004年のボビー・マクフェリンやウェイン・ショーター公演いらい、だな)が、ここも立派なクラシック用途のホールだな。ときに、他の官設のもので、クラシック用途をばっさり切ったホールってどのぐらいあるのだろう? 
 そして、クラシック用途ホールがあちこちにって状況は、トラックなどの陸上競技施設をいれた競技場ばかりを自治体が作る(……そういうの込みで利ざやを稼ごうとする業者が幅を利かせてもいるのだろう)ことと同じなんだろうなと思った。たとえばサッカー観戦において、陸上競技トラックがある会場とないスタジアムを比較すると、その見え方のストレートさ/受ける感興の高さは見る位置にもよるが最低でも3倍は差がつく。だから、チケット代も会場によっては3倍ほど値段の差を付けなければおかしい。というのはともかく、クラシックを除く音楽公演や催しにあんなに高い天井や生音音響を考えぬいた会場設計などは必要ではないだろう。PAを用いる公演だと、逆に音が悪くなる場合もある(→例、東京芸樹劇場でのカエターノ・ヴェローゾの公演〜2005年5月23日〜)。高尚なクラシック公演は他所にまかせ、より大衆を相手にできるPA仕様公演のためのホールを持ちますという、合理性を持った自治体があってもいいと思うが。しかし、ホールは民営のものも沢山あるわけで、それよりも日本で球技専用スタジアムがなかなか増えないことに、ぼくはすこし暗くなる。どこの自治体もツブシの効かない野球場はけっこう作るくせにぃ。ごめんよー、クラシック愛好家、非サッカー・ファンの方々〜。
▶過去の、カエターノ・ヴェローゾ
http://43142.diarynote.jp/200506021846130000/