在NYのミュージシャンのリーダー公演を二つ、見る。南青山・ブルーノート東京と、丸の内・コットンクラブ。この晩にぼくと同じ順序ではしごした人、ミュージシャン2名、同業者1名を確認。

 マリア・シュナイダー・オーケストラ(2012年12月17日、2013年12月17日)を、最初に見る。自作曲をうれしそうに指揮する当人に加え、アルト・サックスのスティーヴ・ウィルソン(2013年12月17日)とデイヴ・ピエトロ(2012年12月17日、2013年12月17日)、テナー・サックスのリッチ・ペリー(2012年12月17日、2013年12月17日)とダニー・マッキャスリン(2012年12月17日、2013年12月17日、2017年2月2日)、バリトン・サックスのスコット・ロビンソン(2012年12月17日、2013年12月17日)、トランペットのグレッグ・ギスバート(2012年12月17日、2013年12月17日)とジョナサン・ハイムとナージャ・ノールドハウスとマイク・ロドリゲス、トロンボーンのキース・オークイン(2012年12月17日、2013年12月17日)とライアン・ケペール(2012年12月17日、2013年12月17日)とティム・オルブライトとジョージ・フリン(2012年12月17日、2013年12月17日)、アコーディオンのゲイリー・ヴェルサーチ(2012年12月17日、2013年12月17日)、ピアノのフランク・キンブロー(2012年12月17日、2013年12月17日)、ギターのベン・モンダー(2005年7月3日)、ベースのジェイ・アンダーソン(2012年12月17日、2013年12月17日)、ドラムのクラレンス・ペン(2012年12月17日、2013年12月17日、2015年3月5日)という陣容での実演。毎度けっこう固まった顔ぶれでことに当たっているが、トランペット・セクションは安定していないんだな。

 今まで見た中で一番、辛口の曲をやっていた(けっこう、各ショウごと別曲で披露する意向であるよう)と言えるか。そのぶん、かつての彼女の実演で感じさせた柔和さや温もりは減じ(いや、ある種の柔らかさはしっかりとあるのだが、そこらへんの説明は難しいなあ)、もっと攻めていると思わせる。とくに終盤にやった2曲(うち一つは新曲と言っていた)はそうで、その二つがぼく的にははしっくりきた。

 ジャズのビッグ・バンド編成を基本に起き、プラスしてエレクトリック・ギターとアコーディオンを入れる編成をずっと取っているのはこだわりか。より表現の枠を広げようとするなら、楽器構成を変わったものにするのが手っ取り早い。木管系楽器も増やすとか、チューバなども入れて低音をより強調するとか、打楽器系楽器を増強するとか、肉声担当者も入れるとか。でも、ライヴでの彼女はそういうことはせず、ラージ・アンサンブルによるジャズ表現の書き増しにあたる。まあ、それは考え方か。姿勢の太さは出るかもしれぬ。

 そういえば、各管楽器奏者たちのソロを聞きながら感じたのだが、旧来の文脈にあるソロから少し離れるそれをシュナイダーは構成員に要求しているところがあるのではないか。そうした方策も、音色やリズムの革新とともに、現代ジャズの成就の一つの鍵になるんだろうなと、ぼくは思った。新しいサウンドを導入しても、ソロについては生音勝負なために、サックス奏者のそれは割と過去の奏法(それは、フリー・ジャズ的イディオムも含む)との繋がりの度合いが大きかったとぼくは感じるが、そう言う部分、少しづつ動いてきているかな。

▶過去の、マリア・シュナイダー
http://43142.diarynote.jp/201212190844487864/
http://43142.diarynote.jp/201312181034409673/
▶︎過去の、スティーヴ・ウィルソン
http://43142.diarynote.jp/201312181034409673/
▶︎過去の、デイヴ・ピエトロ
http://43142.diarynote.jp/201212190844487864/
http://43142.diarynote.jp/201312181034409673/
▶︎過去の、テナー・サックスのリッチ・ペリー
http://43142.diarynote.jp/201212190844487864/
http://43142.diarynote.jp/201312181034409673/
▶︎過去の、ダニー・マッキャスリン
http://43142.diarynote.jp/201212190844487864/
http://43142.diarynote.jp/201312181034409673/
▶︎過去の、バリトン・サックスのスコット・ロビンソン
http://43142.diarynote.jp/201212190844487864/
http://43142.diarynote.jp/201312181034409673/
▶︎過去の、トランペットのグレッグ・ギスバート
http://43142.diarynote.jp/201212190844487864/
http://43142.diarynote.jp/201312181034409673/
▶︎過去の、トロンボーンのキース・オークイン
http://43142.diarynote.jp/201212190844487864/
http://43142.diarynote.jp/201312181034409673/
▶︎過去の、ライアン・ケペール
http://43142.diarynote.jp/201212190844487864/
http://43142.diarynote.jp/201312181034409673/
▶︎過去の、ジョージ・フリン
http://43142.diarynote.jp/201212190844487864/
http://43142.diarynote.jp/201312181034409673/
▶︎過去の、アコーディオンのゲイリー・ヴェルサーチ
http://43142.diarynote.jp/201212190844487864/
http://43142.diarynote.jp/201312181034409673/
▶︎過去の、ピアノのフランク・キンブロー
http://43142.diarynote.jp/201212190844487864/
http://43142.diarynote.jp/201312181034409673/
▶︎過去の、ギターのベン・モンダー
http://43142.diarynote.jp/200507061225530000/ 名前は出していないが、同行
▶︎過去の、ベースのジェイ・アンダーソン
http://43142.diarynote.jp/201212190844487864/
http://43142.diarynote.jp/201312181034409673/
▶︎過去の、ドラムのクラレンス・ペン
http://43142.diarynote.jp/201212190844487864/
http://43142.diarynote.jp/201312181034409673/
http://43142.diarynote.jp/?day=20150305

 その後は、ジェラルド・クレイトン(2007年9月10日、2008年9月16日、2009年6月7日、2009年9月3日、2011年10月6日、2017年1月18日)のカルテットを見る。2017年新作『ヴィジョンズ・テイル』(モテマ)のタイトルを掲げてのもの。同作はいろんな奏者たちが関与したうえで、様々な音楽形態がモザイクのように重なり合う表現を作っていた。実は、今年の頭に、彼にあんなエクレクティックで重層性を持つアルバムの内容を少人数のライヴに持っていくのは大変じゃないのかと問うたことがある。そしたら、「10人でやっていたことを3人でやることに対する心配はない。1年間通してずっとライヴをやっているし、まったく心配していない」と、彼は答えた。

 仲良しの奏者たちを揃えるカルテットは、ピアノと電気ピアノを弾くジェラルド・クレイトンに加え、アルト・サックスのローガン・リチャードソン(2016年2月3日)、ダブル・ベースのジョー・サンダース(2013年9月11日、2017年1月23日)、今年3度目の来日となるドラマーのケンドリック・スコット(2009年3月26日、2013年2月2日、2013年8月18日、2013年9月11日、2015年2月4日、2015年11月10日、2016年3月1日、2017年1月18日、2017年1月23日)という顔ぶれ。リズム隊の二人は、PCを横に置く。サンダースはちょい鍵盤ベースも用いプリセット音も少し出した。なお、高校時代からのジャズ仲間であるサンダースとリチャードソンは現在パリに住んでいる。

 ある種の美意識やムードに貫かれた(←やはり、それは一筋縄でいかない透明感のある混沌を導く)、今のリアル・ジャズを見事に展開。一言で言えば、複雑でもあり、集中力を必要とする。もちろん、アルバムの聞き味からも、それはスタイリッシュに離れていた。そして、それぞれいい奏者だと思わせられるし、プレイヤー同士の横の関係も緊密で、これは確かな技量を持つ奏者たちが集まったバンドの表現だとも痛感。今回、とくにリチャードソンはいい奏者であるとおおいに見直す。彼のリーダー公演時は根暗な曲をやるのに閉口しちゃったからな。彼もまた、先のシュナイダー・オーケストラのところで触れた奏法の見直しに留意するところはあるはずで、そのストラグルの様が見える。また一方、彼はジョン・コルトレーンの演奏をアルトに持ってきたような過去とも繋がるブロウも示すわけで、、。他の3人の演奏も、それぞれに自ら課した課題と問題意識と現代感覚をはかりにかけた行き方でそれぞれに耳をひく。あっぱれ、であった。

 それから、面白かったのは、アンコールを含めた終盤の2曲がゴスペル応用曲(新作のなかで一番メロディアスな曲だった「ソウル・ストンプ」)とブルース曲(こちらではリチャードソンがセロニアス・モンクの「ブルー・モンク」の引用も行う)であったこと。なんせ、クレイトンは伝統的な黒い語彙を用いるタイプではない。ターニング・ポイントは聞いて、まず最初に「大学に入る前まで、リンダ・バックという先生にクラシック・ピアノを10年習ったこと。その10年は大きかった」なぞと、彼は言う人なのだ。その2曲にしても過剰なブラック感覚を放つものではない(やはり、メロウだよね)が、そこにはトランプ政権下におけるアフリカン・アメリカン知識層のモヤモヤが投影されていたと、ぼくはとりたい。そういえば、クレイトンは米国黒人音楽の根っこにあるブルースがどのような意味を持ち、それはいかに広がりを持ってきたかということを音楽で求める<Piedmont Blues>という歌手付きプロジェクトもやっている。そして、そのプロジェクトには、ケンドリック・スコットも参加している。

▶過去の、ジェラルド・クレイトン
http://43142.diarynote.jp/200709171108570000/
http://43142.diarynote.jp/200809171409066704/
http://43142.diarynote.jp/200906091637138003/
http://43142.diarynote.jp/200909120646397236/
http://43142.diarynote.jp/201110091258307349/
http://43142.diarynote.jp/?day=20170118
▶過去の、ローガン・リチャードソン
http://43142.diarynote.jp/?day=20160203
▶︎過去の、ジョー・サンダース
http://43142.diarynote.jp/?day=20130911
http://43142.diarynote.jp/?day=20170123
▶過去の、ケンドリック・スコット
http://43142.diarynote.jp/?day=20090326
http://43142.diarynote.jp/201302041827243806/
http://43142.diarynote.jp/201308191407221107/
http://43142.diarynote.jp/201309161510164697/
http://43142.diarynote.jp/201502051100298160/
http://43142.diarynote.jp/201511120022503788/
http://43142.diarynote.jp/?day=20160301
http://43142.diarynote.jp/201701191854055570/
http://43142.diarynote.jp/201701240949045953/

<今日の、とりあえず>
 通常の生活、復帰です。でも、タクシーはいろいろ使っている。そう言えば、松葉杖を返却する際、保証金の8000円が戻ってきた。+−ゼロなわけだけど、ほんの少しうれしい心持ちを得る非論理的な自分がいる。