まず、代官山・リキッドルームで、再結成したマイアミ州拠点のエモなんてジャンル名で括られたりもするパンク・ポップの5人組を見る。その音楽性はぼくにとってはストライク外だが、メンバーにフィドル奏者がいること(残念ながら、多くの曲ではあまり音が聞こえず。聞こえるときは、笑えるほのかな異化作用を導く)やドラマー(力いっぱい、タイトなビートを供給)がブレイズ頭の非白人であることは興味をそそらせるネタとなっているか。とともに、この手のバンドは忠実と言う形容も用いたくなる熱心なファンを抱える傾向にあって、そうした観客のありかたにも触れたかった。

 恵比寿・リキッドルーム。面々はちゃんと観客に向き合おうとし、終始働きかけつつ、ショウをすすめる。ぼくにとっては激しさや吹っ切れた情緒をそれに覚えることはないが、モッシュやダイブは頻繁に。そして、オーディエンスが皆で従順に拳を突き上げたり一緒にリフレインを歌う様は、ぼくが普段接するロック公演とは少し手触りを異にする。「フォー・ユー、アンド・ユア・ダィナイアル」という、3月に出す4年ぶりの新作収録曲も彼らはやった。曲はどれもコンパクトにまとまり、本編はほぼ1時間。ぼくは次もあるのでホっとしたが、ファンは短いと感じるのかな。

 そして、南青山・ブルーノート東京に移動し、1984年生まれの異能シンガー/ベーシスト(2008年9月5日、2008年12月1日、2010年9月4日)の2年半ぶりの自己名義公演を見る。見事にフル・ハウス。3、4日前に発表されたグラミー賞で<ベスト・ニュー・スター>賞を獲得したばかりだが、それも集客には関係ありのよう。バークリー音楽大学在学中からエスペランサはジャズ界ではけっこう話題の存在で、彼女はすでに現在まで3作もアルバムを出している。なのに新人賞とは、グラミー賞っておっとりしているのだな。

 昨年出た新作『チェンバー・ソサエティ・ミュージック』(テラーク)はそのアルバム・タイトルにあるように、室内楽的弦音をうまく私の奔放なヴォーカル表現と交錯させた意欲作だったが、チェロ、ヴァイオリン、ヴィオラ奏者を擁する今回の公演はもろにその行き方を開かれた場で出さんとする。エスペランサは歌とウッド・ベース、さらにピアノ(エスペランサの側近奏者のリオ・ジェノヴェーゼ。そういえば、男性は彼だけ。アルバムでピアソラ・ビヨンド的なタンゴもやっていたが、それはピアニカで伴奏。意外に合っていた)とドラム(仲のいいテリー・リン・キャリントン。2010年9月4日、他)とバック・コーラス担当者もつく。ちょい高尚な感じも抱えつつ、迷宮のなかをすいすいと動いて行くような独自表現を見事に再送出。全員でやったり、そのなかの選抜メンバーでやったり、エスペランサはベースを手にせず歌に専念したりとか、いろいろな設定でオルタナティヴな私を解き放っていた。しかし、彼女の歌うラインは本当に天衣無縫で難しいと思わずにはいられず。だが、それこそが、エスペランサ!

<今日のアフロ>
 昨年9月の前回来日時はトレイドマークだったアフロ・ヘアーをやめていたエスペランサだったが、今回はめでたく“こんもりアフロ”が復活していた。可愛らしさは60%増し。小顔で痩身(さらにやせた? 腕なんてとても細く、よくなんなくコントラバスの弦を押えたり弾いたりしているなと、思わずにはいられません)で小柄な彼女なんだけど、なぜかとっても似合う。アフロ・ヘアーが似合うミュージシャンは? そう問われたら、まっさきに彼女の名前を挙げたくなるか。そんな彼女、ステージにソファーを置き、小さなテーブルにはワインのボトルを置き、グラスにあけてのんだりとか、ちょいシアトリカルな行き方を見せたりもしていた。いろいろ、考えているようです。話は飛ぶが、前回の来日時には取材をしたのだが,ホテルの取材部屋のドアを開けたとたん、彼女のしなやかな鼻歌が聞こえてきたっけ。それ、妖精のようと言いたくなるものであったし、そうした日常的所作が曲となり、肉付けされて、CDや実演で披露されているのだなと、痛感させられた。