アゴッシはベニンとフランスの血を引く、72年フランス生まれの女性シンガーだ。UK名ジャズ・プロデューサーのアラン・ベイツのキャンディド(往年の硬派ジャズ・レーベル。近年は、ジェイミー・カラムとかステイシー・ケントなどを最初に送り出したりも)から何作かアルバムを出していたが、新作は仏のナイーヴからのリリースとなっている。ま、ジャズ・シンガーという範疇に入るのかもしれないが、エスニック・ミュージックの要素もロック/ポップの要素も、またパリ的キャヴァレー・ミュージックの要素が出るときもあって、総体としては我が道を行くヒューマン・ミュージックというものをやっていると言いたくなるか。そして、そこからは、カミーユ(2008年10月3日)がそうであるように、フランス人ならではの自由主義/独創性が透けて見えたりもする。

 飯田橋・日仏学院ラ・ブラスリー。奔放に、思うままに歌い、着地する。そのテクニッックや発想を支えるのはやはりジャズだが、そこから自分を中央において舞い上がろうとする様が感動的。自作曲もスタンダードも、ポップ系カヴァーもやったのかな。今回のバッキングはウッド・ベース奏者とドラマー。両者とも幅広い奏法を見せ、広がろうとするアゴッシを適切にサポート。ベース奏者は一部サンプラーを用いて、伴奏に多彩さを出していたか。ドラマーはもう何年も彼女とやっていて、そのアルバムにも参加している小野江一郎。かつては東京のジャズ・シーンで活動していたこともあったはずだが、今はパリに住んでいるらしい。ちょっと休憩時にお話したが、やはり人間的な感じの人。彼はアゴッシにふられて、ドラムを叩きながら日本語でスポークン・ワードを披露したりもした。


<今日のラ・ブラスリー>
 日仏学院ではよくフランス関連アーティストの公演をやっているが、その際に会場となるのが、その名もラ・ブラスリーという名の、お洒落なお食事処。少し前に店内が改装され、ちゃんとステージが作られ、またトイレの位置が変えられたりと、より音楽公演をやるのに吉な建物となった。この日はヴァレンタイン・デイなため、きっちりコースの食事/飲み物つきでショウが持たれる。最初はシャンパン、魚介の皿までは白、それ以降は赤ワインと次々に飲み物もサーヴしてくれて、うれしい。
 実演の途中にゆっくりと食事の時間が取られていたため、開演は19時半ながら、終わったのは22時半を回っていたか。確か午前中は晴天だったがいつのまにか雨天になり、18時頃には雪に変わり、終演するころにはけっこう雪がつもり……。ほんと帰り道は、別世界の感。
 なお、3月20日に日仏学院では<フランコフォリー祭>と題して、ギニアの電気コラ・グループのバ・シソコ、女性フレンチ・ポップ歌手のコンスタンス・ヴェルカ、そしてチェコやスイスなどを拠点とする妄想サイバーエスノ集団であるDJオルガ&Dr.シュナプス ジプシー・サウンド・システムの3組が中庭で無料公演を行う。また、同19日には別枠で、ハッサン・クヤテというグリオとカリファ・ジョバルテというコラ奏者の無料公演もあるよう。