京橋テアトル試写室で、ジョアン・ジルベルト(2003年9月12日)を題材に置くスイス/ドイツ/フランス映画(原題「Where are you, João Gilberto? 」)を見る。監督はマリア・ベターニアらを扱うブラジル音楽ドキュメンタリー映画をすでに3本撮っているという、フランスとスイスの国籍を持つジョルジ・ガショ。とっても真面目そうな外見を持つ1962年生まれの彼は、この映画に案内役として前面に出てくる。ドイツ語、ポルトガル語、英語、そしてぼくは気づかなかったがフランス語も、この映画には使われているようだ。

 ベースとなるのは、ドイツ人のジャーナリスト/作家である1970年生まれのマーク・フィッシャーの「Ho-ba-la-lá:A Procura de João Gilberto」(2011年刊行。ドイツ語版とポルトガル語版が出ている)という本。それは、フィッシャーが大好きなジルベルトとの出会いを求めてブラジルに数度渡り、いろいろ動くも夢叶わず、という顛末を綴った内容。著者は書籍発売の1週間前に亡くなってしまい、それは自殺であったよう。フィッシャーはポップ・ミュージック系のものを書いたりもし、自らパンク・バンドを組んだこともあったとのこと。そんな彼がジルベルトにハマったのは、東京で友人のアオキさんから彼の初期曲「Ho-ba-la-lá」を聞かされたのがきっかけであることも、映画では語られる。Where are you, アオキさん?

 刊行3年後にこのフィッシャーの本と出会ったガショ監督は、フィッシャーと自分の接点も感じ、彼の本を介する“ジルベルトの肖像”を描くことを決意。映画中にはジルベルトの85歳の誕生日を祝う路上の集いを映した場面もあるので、撮影は2016年になされたと思われる。

 フィッシャーのブラジルでの足取りや心境(書籍の文章が、ト書きのようにドイツ人役者により語られる)をガショが辿り、また自ら持つブラジル人コネクションも使い(ジルベルトのマネージャーも出てくる)、ジルベルトに取り憑かれたリオの欧州人の様とジルベルトの常人ではない姿が浮き上がっていく。映画にはフィッシャーが撮った写真群や一部取材テープも使われている。

 取材相手として出てきてジルベルトのことを語るミュージシャンは、昨年暮れにお亡くなりになった元奥さんのミウシャ(娘のベベウ・シルベルト〜2014年11月28日〜の話も何度か出てくる)、ジョアン・ドナート(2008年8月18日、2009年6月7日、2009年9月29日)、ホベルト・メネスカル(2012年7月23日)、マルコス・ヴァーリ(2002年11月7日、2003年10月24日、2008年4月28日、2010年5月25日、2014年4月22日、2016年10月8日)。みんな、いい感じ。

 つまるところ、このロード・ムーヴィ調ドキュメンタリー映画の指し示すのは、人智を超えた表現を作り上げたジョアン・ジルベルトはいかにブラックホールな、手の届かぬ存在であるか、ということ。また、サウザーヂはブラジル外の人間にとっては、未知〜ミステリアスなという意味も持つのだようなあとも、ぼくは思った。

 ところで、今日はジルベルトの88歳の誕生日であったのか。会場で会った、字幕監修をしている中原仁(2011年2月11日、2013年2月11日、2014年12月1日、2015年2月11日、2016年2月11日、2016年9月29日、2017年2月11日、2017年8月24日、2018年2月11日、2019年2月11日 )から教えられる。蛇足となるが、まだ見ぬ音楽アイコンとの出会いを求めて欧州人が現地を奔走するということでは、スライ・ストーン(2008年8月31日、2008年9月2日、2010年1月20日)を扱った2015年オランダ映画「SLY STONE スライ・ストーン」と少し重なる部分があるかもしれない。映画は8月下旬から公開が始まる。

▶過去の、ジョアン・ジルベルト
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-9.htm
▶︎過去の、ベベウ・ジルベルト
https://43142.diarynote.jp/201412011333568989/
▶︎過去の、ジョアン・ドナート
http://43142.diarynote.jp/200808221741070000/
http://43142.diarynote.jp/200910021138591223/
http://43142.diarynote.jp/200906091637138003/
▶︎過去の、ホベルト・メネスカル
http://43142.diarynote.jp/201207241453476557/
▶過去の、マルコス・ヴァーリ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-11.htm  11月7日
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-10.htm 10 月24日
http://43142.diarynote.jp/200805031401060000/
http://43142.diarynote.jp/201006031537221581/
http://43142.diarynote.jp/201404260858553785/
https://43142.diarynote.jp/201610140945007657/
▶︎過去の、中原仁
http://43142.diarynote.jp/201102121002078478/
http://43142.diarynote.jp/201302181123344904/
http://43142.diarynote.jp/201412031621332692/
http://43142.diarynote.jp/201502140823232703/
http://43142.diarynote.jp/201602120856568973/
http://43142.diarynote.jp/?day=20160929
http://43142.diarynote.jp/201702120725278375/
http://43142.diarynote.jp/?day=20170824
https://43142.diarynote.jp/201802131131538961/
https://43142.diarynote.jp/201902141412599444/
▶過去の、スライ・ストーン
http://43142.diarynote.jp/200809011923060000/
http://43142.diarynote.jp/200809071428140000/
http://43142.diarynote.jp/201001211346277187/
http://43142.diarynote.jp/201505201630381899/ 映画「SLY STONE スライ・ストーン」

 南青山・ブルーノート東京(ファースト・ショウ)で、ビル・フリゼール(2000年7月21日、2006年5月14日、2009年5月8日、2011年1月30日、2017年1月12日、2017年1月13日、2017年6月19日)、トーマス・モーガン(2012年6月24日、25日、2013年9月7日、2017年3月2日、2017年6月19日、2019年5月17日 )、ルディ・ロイストン(2017年6月19日)のワーキング・トリオの公演を見る。あれ、彼もテレキャスターを弾く人であったか。

 思うまま、それなりの尺を取りながらいろんな曲をつなぎ、約80分。セロニアス・モンクの「ミステリオーソ」やバート・バカラックの「ホワット・ザ・ワールド・ニーズ・ナウ・イズ・ラヴ」等々を切れ目なしに、生理的には淡々と演奏していく。基本はフリゼールがギターを爪引き出し、それにリズム・セクションがおっとり刀でついていく。とも、説明できるか。でも、実はそこには、絶妙にして鋭敏なインタープレイが存在しているわけだ。この手のアメリカーナ的な手触りも与えるジャズ・ビヨンド表現を取るようになってもう20年ほどたつが、このリズム隊を擁する今、この流れにおいてフリゼールは一番バンド内インターアクション性の高い表現を行なっているのではないかとも思った。昨日のギラッド・ヘクセルマンもそうだったが、彼も曲の終盤にギター演奏をループさせ重ねたりもした。

▶過去の、ビル・フリゼール
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-7.htm
http://43142.diarynote.jp/200605160543260000/
http://43142.diarynote.jp/200905101005501321/
http://43142.diarynote.jp/201102091715522875/
http://43142.diarynote.jp/201701131141476377/
http://43142.diarynote.jp/201701141241544133/
https://43142.diarynote.jp/201706190940184750/
▶︎過去の、トーマス・モーガン
http://43142.diarynote.jp/201207031323242844/ 菊地雅章
http://43142.diarynote.jp/201210271744294415/ 菊地雅章
http://43142.diarynote.jp/?day=20130907 リー・コニッツ
https://43142.diarynote.jp/201703081443314613/
https://43142.diarynote.jp/?day=20170619
https://43142.diarynote.jp/?day=20190517
▶︎過去の、ルディ・ロイストン
https://43142.diarynote.jp/201706190940184750/

<今日の、CD>
 寒く、豪雨の1日(ときに、風も強い)。来日中のポーランド人の知人より、お土産をいただく。ワルシャワは30度になったりして、異常気象とか。ダーク・チョコレートにミカンのかけらがまぶされたチョコレートはクリスピーな食感を持つとともに酸味がいい感じ。ポーランドの若手No.1ジャズ・アルト・サックス奏者のクバ・ヴィエンツエック(2018年11月7日)・トリオの2019年新作『Multitasting』(Polish jazz 01902 9 54759 8)もいただくが、ヴィエンツエックのぼく宛のメッセージ付きサインが内ジャケに書かれていてかたじけない。内容は、おおっ。一応、アルト・サックスの1ホーンのトリオなんだが、旧来のジャズ構造を踏襲していなくて、あんたあっぱれと思わせる。まず、アルト・サックスの演奏が耳に入る。アルト演奏+普通にリズム音という部分がほとんどなく、一部エレクトロな効果も使いつつも、最終的にはテクノやエスノをちゃんと消化した人間的な手作りサックス音楽という像を独創的に結んでいるのだから、これは感心する。平たく言えば、昨年東京で見せていた実演の模様をみずみずしく音盤に落としたとも言えるのだが、これもまた現代ジャズの一つのカタチを示す際に不可欠な1枚となるだろう。全曲、オルジナル。メロディにある哀愁には、やはりオーネット・コールマン(2006年3月27日)の影あり。クレジットを見たら、録音は今年に入ってポーランドでなされているが、マスタリングはオノセイゲン(2000年3月12日、2009年1月17日、2011年8月4日、2012年6月7日、2013年1月30日、2014年4月20日、2014年7月28日、2014年9月23日、2014年10月8日、2014年10月11日、2015年4月17日、2015年9月13日、2015年9月24日、2015年10月9日、2016年3月14日、2016年5月22日、2016年7月26日、2017年5月7日、2018年6月7日)が東京でやっている。今年は何気にセイゲンと会う機会が少なくないのだが、働き者だな。

▶︎過去の、クバ・ヴィエンツエック
https://43142.diarynote.jp/201811081231284665/
▶︎過去の、オーネット・コールマン
http://43142.diarynote.jp/200603281335030000/
▶過去の、オノセイゲン
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-3.htm
http://43142.diarynote.jp/200901181343426080/
http://43142.diarynote.jp/201108101630438805/
http://43142.diarynote.jp/201206110945571082/
http://43142.diarynote.jp/?day=20130130
http://43142.diarynote.jp/201404251643448230/
http://43142.diarynote.jp/?day=20140728
http://43142.diarynote.jp/201409261635077130/
http://43142.diarynote.jp/201410210814495715/
http://43142.diarynote.jp/201509250943244179/
http://43142.diarynote.jp/201603151140427186/
http://43142.diarynote.jp/?day=20160522
http://43142.diarynote.jp/201608020801362894/
http://43142.diarynote.jp/201705081232023349/
https://43142.diarynote.jp/?day=20180607