驚いた。やっぱ、現米国きってのジャズ・セレブ。そして、それに見合う、実力と品格をこれでもかと示す実演であったな。新宿文化センター・大ホール。

 ウィントン・マルサリス(2000年3月9日) 、テナー・サックスを主に吹くウォルター・ブランディング、ピアノのダン・ニマー(2014年4月24日)、ベースのカルロス・エンリケス(2014年4月24日) 、弟であるドラムのジェイソン・マルサリス(2009年11月2日) という陣容のクインテットが定時に出てくると、ものすごい歓声。18年ぶりの来日となるが、この湧き上がりの様は破格。ずっと来日していなかった当人、私はこの国で待たれていたんだと思ったに違いない。面々はネクタイの色やスーツの色はバラバラなものの、皆ビジネス・スーツをしっかり着用。ファンキーな物腰を取る卓エンジニアもネクタイとジャケット着用しており、それは御大の指示か。 
 
 広いステージ中央にこじんまりと面々の楽器が置かれ、それを照明が凝らずにクリアーに照らす。その様に往年のホールでのジャズ・コンサートのありようを思い出し、甘酸っぱい思いを得た人もいたに違いない。ようは、かつてのジャズ公演、ひいてはジャズが米国の秀でた黒人芸術/文化として崇められていた頃の“ライヴ・イン・ジャパン”の誉れのようなものも、そこにはあった。こういう場合、この1800人規模の会場の基本的な設計の古さもマイナスにはならない(かも。やっぱり座席配置は狭い)。

 冒頭、ウィントンが楽器音を出すや否や、これは激うまいと思わせる。フレイジングといい音色といい、第一線のジャズ・アーティストの凄さを瞬時に了解。即、聞く者を持っていく。その瞬時に分かる肌触りを体験できただけでも、これはこの公演に来た価値があったと思わせた。そして、腕の立ち様は他の奏者も同様。たとえば、テナー・サックスの音は深めでスモーキー。今、テナーなのにアルト・サックスのような軽さを出す御仁も散見されるなか、これには膝を打つ。かようなことに触れ、マルサリス・バンドに起用されたという事実は、一流という証明書をもらうようなものなのかもしれないナとも思った。マルサリスというと今はコンボよりいろんなテーマにあたるリンカーン・ジャズ・センター・オーケストラのほうがよく知られるかもしれないが、今回はカルテット編成で本当に良かった。オーケストラだと、個人の能力ははどうしても埋もれてしまう。

 1部45分、休憩をはさみ2部45分。尺としては休憩を入れなくてもいいのにとも思う〜事実、当初の予定では休憩なしだったよう〜が、2部に入るとその設定にも納得。1部はニューオーリンズの語彙とかなりつながったことをやり、2部は普通に王道にあるジャズをやったから。一度、区切りをつけたというのは分かる。

 そして、より頭を垂れたのは1部の方。だって、レトロな語彙を巧みに料理し、機知に富みまくるプログ・ジャズというものになっていたから。リズムの転換をふくめた凝ったアレンジにせよ、そこから浮き上がるソロにせよ、これはすごい。過去の巨人の名場面や雰囲気を適材適所で抜き出してモザイクのように組み込むウィントン・マルサリスの手法はまっくもってサンプリング的であり、温故知新派のウィントンのやり方はヒップホップの手法につながると昔から書いてきたが、1部を見ながら、そういう回路を経て今アトラクティヴな創造をしているという感を強く持った。それ、旧来のニューオーリンズ・ジャズ愛好者が聞いたら、否定したくなるものかもしれないが。

 2部はもうすこし素直なモダン・ジャズ表現を開く。とはいえ、2管でテーマを提示し、その後にソロ回しみたいな常識にして平板な作法を取ることはあまりせず。で、ソロは随所で披露されるものの、曲はそれほど長い尺にはなっておらず、きっちり行き方や器楽ソロが吟味されていたのは間違いない。そういうところも、何気に今様(だらだらと手癖のソロを垂れ流すのは、昔のやり方なり)。ベース演奏から始まったアンコール曲は、少し娯楽度の高いラテン調ビートによるブルース・コード進行曲だった。楽器構成や音質などは基本オールド・ウェイヴであり、変わらなくてもいい王道。だが、その奥には今がしっかりある。久しぶりのウィントンに唸りました。

▶過去の、ウィントン・マルサリス
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-3.htm
▶︎過去の、ダン・ニマー
https://43142.diarynote.jp/201404260901127573/
▶︎過去の、カルロス・エンリケス
https://43142.diarynote.jp/201404260901127573/
▶︎過去の、ジェイソン・マルサリス
https://43142.diarynote.jp/?day=20091102

<今日の、説>
 昼間はかなり暑い日が続いている。そういうなか、知人との話で題材に上がるのは、今夏も暑いのかなあということ。その場合、その見解はおおまかに2パターンに分かれる。タイプA:「今でこれだけ暑いんだから、とうぜん猛暑でしょう」。タイプB:「今暑いと、逆に冷夏になるかもネ」。タイプAの方が多数派。でも。ぼくはタイプB。素直な人や常識的な人は前者で、ひねくれもので定石外しを好む人が後者であると、即分析した人もいた。なるほど。まあ、ぼくは暑くなって欲しくない願望があるだけかもしれません。