映画「Us アス」。映画「ブラインド スポッティング」
2019年6月18日 音楽 一番町・東宝東和試写室と渋谷・ショウゲート試写室で、2本の映画試写を見る。ともに、アフリカン・アメリカンが主役であり、監督も非白人。また、両方とも試写状に米映画批評サイトで94%の大評価という能書きが出されている。それぞれ、9月上旬と8月下旬に公開される。
まず、2019年米国映画である映画「Us アス」。一応、ホラー映画という括りに入るのだろうが、これは格調高く、お金も使われている。オレ、ホラーってどこかチャラいという偏見を持っているのだが、この仕上がりはすごい。
監督/脚本/プロデュースは、1979年NY生まれの俳優もしてきたジョーダン・ピール。アフリカ系の彼は人種差別を扱った2017年作「ゲット・アウト」でアカデミー賞脚本賞を受けたそうだが、ここでの主人公は金持ち黒人4人家族(職業は分からないが父親はハワード大学出で、メルセデスのワゴンに乗り、立派な別荘を持っている)とし、今回は人種ではなく持つ者と持たざる者の乖離をベースに置く。知らない所にいたそっくりな私たち/ドッペルゲンガーが主人公たちを殺そうとする存在に置き、主人公たちは鋭利なハサミを持ち現れた同じ4人に対し誰なのと尋ねると「アメリカ人よ」と答えるシーンがあるので、“Us”とはユナイテッド・ステイツのことも指し示すと考えていいだろう。そして、同じルックスを持ちながら離れまくった境遇にいる私たちの戦いを描く本映画は富裕層と貧困層が広がり、階級制が出来上がった米国は今どうしようもない状況になっており、どんな悲劇が起こっても不思議がないことを、描こうとしているように思える。
ストーリーの発端は1986年、それはロナルド・レーガンの時代(副大統領は、次の長となるジョージ・W・H・ブッシュ)だ。また、一世を風靡した1985年音楽慈善プロジェクト“USAフォー・アフリカ”を企画した団体が同年にやった米国横断ユナイト企画“ハンズ・アクロス・アメリカ”(そんなのが、あったのね。知らなかった)が不気味なアクションとして扱われ、後半の視覚的な底上げに活用されたりもする。重要な場となる、海岸沿いの遊園地は実在するサンタクルーズ・ビーチ・ボードウォークという歴史のある施設だ。メタファー視覚要素を絡ませた最後のほう、ぼくはもう少し整理できなかったかとも思えたが、その部分があればこそ、勝ち組も負け組も表裏一体にあり、明日はどうなるか分からなく今の幸福もすぐに崩れるものかもしれないという警鐘を見る者に与えよう。そして、そんな薄っぺらい社会である米国に対する困惑や嫌悪も……。
繰り返すが、映画の仕上がりはあまりに立派であり、120分近い長さを持つそれを緊張感とともに見せきる。1962年生まれの白人でクラシック畑でありながらゴスペルやヒップホップにも理解を持つマイケル・エイブルズの音楽も品格ありでばっちり。彼は「ゲット・アウト」のそれも担当しているようだ。また、ザ・ビーチ・ボーイズ(2014年3月28日)の「グッド・ヴァイブレーション」やN.W.A.の「フ*ック・ザ・ポリス」ら“あり曲”の使い方も巧みで、それは笑いも誘う。最後に使われる、ミニー・リパートンのソロ・デビュー作収録の1970年曲「レ・フラワー」の効果もすごい。この美曲がそこで使われると、悪魔が扉を開いているようにも感じ不穏な曲だと思わずにはいられない。「Les fleurs 」ではなく、「Les fleurs du mal」だな。蛇足だが、その曲はチェス・レコードのスタッフ・ライター/アレンジャーを務めていたチャールズ・ステップニーがジャズ・ピアニストのラムゼイ・ルイス(2008年7月2日、2009年8月29日、2010年9月28日、2011年8月22日、2013年2月21日)のために1965年に書き下ろした曲。両曲ともシカゴ録音でステップニーが陣頭指揮を取り、ともにE.W.&F. (2006年1月19日、2012年5月17 日)のモウリス・ホワイトがドラムを叩いている。
▶︎過去の、マイク・ラヴ/ザ・ビーチ・ボーイズ
http://43142.diarynote.jp/201403291149242320/
▶︎過去の、ラムゼイ・ルイス
http://43142.diarynote.jp/200807031119590000/
http://43142.diarynote.jp/?day=20090829
http://43142.diarynote.jp/201009290720426339/
http://43142.diarynote.jp/201109100857091783/
http://43142.diarynote.jp/201302281043262653/
▶過去の、E.W.&.F.
http://43142.diarynote.jp/200601271855390000/
http://43142.diarynote.jp/201205301252113538/
一方、2018年米国映画の「ブラインド スポッティング」の脚本を書き、主役を演じているのは、ラッパーでもある俳優のダヴィード・ディグス(黒人)とスラム・ポエトリーの担い手でもあるライターや役者でもあるラファエル・カザル(白人)。そして、監督はこれが初長編作品となるカルロス・ロペス・エストラーダ。その名前が示唆するように、エストラーダはメキシコ生まれで、12歳のときに米国に移住した。
そして、舞台となるのは西海岸オークランド。主役の二人は同じ環境で育ち、長年ツルみ、一人は暴力によりブチこまれたのちの保護観察開け間近で、実は子供もいるのにもう一人はもっとDQNかもしれない。そして、二人は引っ越し会社に勤めペアを組んでいて、その彼らにまつわる3〜4日間を描いた“バディ映画”とも言えるわけだが、バディながらも人種で異なる見方の違いが出てくるのがこの映画と主題となるのか。なんにせよ、米国における人種差別をベースに置く作品であり、紋切り型の描写も見られるが、その難しさは出されている。
主役が肉声づかいのプロだけに、その部分は迫力、訴求力あり。映画中にも二人によるラップ曲はいろいろ出てくるのかな。またオークランド・ファンクの雄であるタワー・オブ・パワー(1999年11月4日、2002年8月11日、2004年1月19日、2008年5月18日、2008年5月19日、2010年5月11日、2011年3月10日、2012年9月9日、2014年5月6日、2016年7月10日、2018年9月4日 )の曲が喧騒の場で使われるときもある。ある意味、そんな本作は差別を生む雑多にして厄介な米国都市環境が導く肉声音楽映画と言うこともできるだろうか。また、別な言い方をすれば、ヒップホップやスラムはどういう背景から出てきているのかというのを示してもいるだろう。
映画にはオークランドの風景も映されるが、ザ・フォックス・シアターは同地を象徴する場のようにも複数ちらり出される。テデスキ・トラックス・バンド(2014年2月11日、2016年4月1日、2019年6月14日)は2016年9月9日にそこで録音をしたライヴ盤を出していますね。<オークランドの中心部にある同劇場は、2800席を持つコンサート・ホールで、もともとは映画館として1928年に開館。その後紆余曲折があり、2009年から音楽向けのホールとなった。立派な外観を持つザ・フォックスは歴史的建造物米国登録がなされているという>というのは、ぼくが書いたライナーノーツからの引用だ。
▶過去の、テデスキ・トラックス・バンド
http://43142.diarynote.jp/201402121439433317/
https://43142.diarynote.jp/201604020743314542/
https://43142.diarynote.jp/201906151238565701/
▶過去の、タワー・オブ・パワー
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/movember1999live.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/framepagelive.htm
http://43142.diarynote.jp/200401190000000000/
http://43142.diarynote.jp/200805201629180000/
http://43142.diarynote.jp/200805201631280000/
http://43142.diarynote.jp/201005121331016518/
http://43142.diarynote.jp/201103171348262145/
http://43142.diarynote.jp/?day=20120909
http://43142.diarynote.jp/201405071616599721/
http://43142.diarynote.jp/201607111518214717/
https://43142.diarynote.jp/201809071706397376/
<今日の、そうか>
先に触れた“ハンズ・アクロス・アメリカ”への参加は、レコード店が受け付けていたよう。おお、まだレコードに力があった時代! 関係ないが、CD/デジタル・メディアの登場によりレコード=音楽産業は衰退したという考え方もできるのかもしれない。そういえば、「ブラインド スポッティング」にはIT流れの新住民とネイティヴな主役二人との距離感も描かれている。
まず、2019年米国映画である映画「Us アス」。一応、ホラー映画という括りに入るのだろうが、これは格調高く、お金も使われている。オレ、ホラーってどこかチャラいという偏見を持っているのだが、この仕上がりはすごい。
監督/脚本/プロデュースは、1979年NY生まれの俳優もしてきたジョーダン・ピール。アフリカ系の彼は人種差別を扱った2017年作「ゲット・アウト」でアカデミー賞脚本賞を受けたそうだが、ここでの主人公は金持ち黒人4人家族(職業は分からないが父親はハワード大学出で、メルセデスのワゴンに乗り、立派な別荘を持っている)とし、今回は人種ではなく持つ者と持たざる者の乖離をベースに置く。知らない所にいたそっくりな私たち/ドッペルゲンガーが主人公たちを殺そうとする存在に置き、主人公たちは鋭利なハサミを持ち現れた同じ4人に対し誰なのと尋ねると「アメリカ人よ」と答えるシーンがあるので、“Us”とはユナイテッド・ステイツのことも指し示すと考えていいだろう。そして、同じルックスを持ちながら離れまくった境遇にいる私たちの戦いを描く本映画は富裕層と貧困層が広がり、階級制が出来上がった米国は今どうしようもない状況になっており、どんな悲劇が起こっても不思議がないことを、描こうとしているように思える。
ストーリーの発端は1986年、それはロナルド・レーガンの時代(副大統領は、次の長となるジョージ・W・H・ブッシュ)だ。また、一世を風靡した1985年音楽慈善プロジェクト“USAフォー・アフリカ”を企画した団体が同年にやった米国横断ユナイト企画“ハンズ・アクロス・アメリカ”(そんなのが、あったのね。知らなかった)が不気味なアクションとして扱われ、後半の視覚的な底上げに活用されたりもする。重要な場となる、海岸沿いの遊園地は実在するサンタクルーズ・ビーチ・ボードウォークという歴史のある施設だ。メタファー視覚要素を絡ませた最後のほう、ぼくはもう少し整理できなかったかとも思えたが、その部分があればこそ、勝ち組も負け組も表裏一体にあり、明日はどうなるか分からなく今の幸福もすぐに崩れるものかもしれないという警鐘を見る者に与えよう。そして、そんな薄っぺらい社会である米国に対する困惑や嫌悪も……。
繰り返すが、映画の仕上がりはあまりに立派であり、120分近い長さを持つそれを緊張感とともに見せきる。1962年生まれの白人でクラシック畑でありながらゴスペルやヒップホップにも理解を持つマイケル・エイブルズの音楽も品格ありでばっちり。彼は「ゲット・アウト」のそれも担当しているようだ。また、ザ・ビーチ・ボーイズ(2014年3月28日)の「グッド・ヴァイブレーション」やN.W.A.の「フ*ック・ザ・ポリス」ら“あり曲”の使い方も巧みで、それは笑いも誘う。最後に使われる、ミニー・リパートンのソロ・デビュー作収録の1970年曲「レ・フラワー」の効果もすごい。この美曲がそこで使われると、悪魔が扉を開いているようにも感じ不穏な曲だと思わずにはいられない。「Les fleurs 」ではなく、「Les fleurs du mal」だな。蛇足だが、その曲はチェス・レコードのスタッフ・ライター/アレンジャーを務めていたチャールズ・ステップニーがジャズ・ピアニストのラムゼイ・ルイス(2008年7月2日、2009年8月29日、2010年9月28日、2011年8月22日、2013年2月21日)のために1965年に書き下ろした曲。両曲ともシカゴ録音でステップニーが陣頭指揮を取り、ともにE.W.&F. (2006年1月19日、2012年5月17 日)のモウリス・ホワイトがドラムを叩いている。
▶︎過去の、マイク・ラヴ/ザ・ビーチ・ボーイズ
http://43142.diarynote.jp/201403291149242320/
▶︎過去の、ラムゼイ・ルイス
http://43142.diarynote.jp/200807031119590000/
http://43142.diarynote.jp/?day=20090829
http://43142.diarynote.jp/201009290720426339/
http://43142.diarynote.jp/201109100857091783/
http://43142.diarynote.jp/201302281043262653/
▶過去の、E.W.&.F.
http://43142.diarynote.jp/200601271855390000/
http://43142.diarynote.jp/201205301252113538/
一方、2018年米国映画の「ブラインド スポッティング」の脚本を書き、主役を演じているのは、ラッパーでもある俳優のダヴィード・ディグス(黒人)とスラム・ポエトリーの担い手でもあるライターや役者でもあるラファエル・カザル(白人)。そして、監督はこれが初長編作品となるカルロス・ロペス・エストラーダ。その名前が示唆するように、エストラーダはメキシコ生まれで、12歳のときに米国に移住した。
そして、舞台となるのは西海岸オークランド。主役の二人は同じ環境で育ち、長年ツルみ、一人は暴力によりブチこまれたのちの保護観察開け間近で、実は子供もいるのにもう一人はもっとDQNかもしれない。そして、二人は引っ越し会社に勤めペアを組んでいて、その彼らにまつわる3〜4日間を描いた“バディ映画”とも言えるわけだが、バディながらも人種で異なる見方の違いが出てくるのがこの映画と主題となるのか。なんにせよ、米国における人種差別をベースに置く作品であり、紋切り型の描写も見られるが、その難しさは出されている。
主役が肉声づかいのプロだけに、その部分は迫力、訴求力あり。映画中にも二人によるラップ曲はいろいろ出てくるのかな。またオークランド・ファンクの雄であるタワー・オブ・パワー(1999年11月4日、2002年8月11日、2004年1月19日、2008年5月18日、2008年5月19日、2010年5月11日、2011年3月10日、2012年9月9日、2014年5月6日、2016年7月10日、2018年9月4日 )の曲が喧騒の場で使われるときもある。ある意味、そんな本作は差別を生む雑多にして厄介な米国都市環境が導く肉声音楽映画と言うこともできるだろうか。また、別な言い方をすれば、ヒップホップやスラムはどういう背景から出てきているのかというのを示してもいるだろう。
映画にはオークランドの風景も映されるが、ザ・フォックス・シアターは同地を象徴する場のようにも複数ちらり出される。テデスキ・トラックス・バンド(2014年2月11日、2016年4月1日、2019年6月14日)は2016年9月9日にそこで録音をしたライヴ盤を出していますね。<オークランドの中心部にある同劇場は、2800席を持つコンサート・ホールで、もともとは映画館として1928年に開館。その後紆余曲折があり、2009年から音楽向けのホールとなった。立派な外観を持つザ・フォックスは歴史的建造物米国登録がなされているという>というのは、ぼくが書いたライナーノーツからの引用だ。
▶過去の、テデスキ・トラックス・バンド
http://43142.diarynote.jp/201402121439433317/
https://43142.diarynote.jp/201604020743314542/
https://43142.diarynote.jp/201906151238565701/
▶過去の、タワー・オブ・パワー
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/movember1999live.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/framepagelive.htm
http://43142.diarynote.jp/200401190000000000/
http://43142.diarynote.jp/200805201629180000/
http://43142.diarynote.jp/200805201631280000/
http://43142.diarynote.jp/201005121331016518/
http://43142.diarynote.jp/201103171348262145/
http://43142.diarynote.jp/?day=20120909
http://43142.diarynote.jp/201405071616599721/
http://43142.diarynote.jp/201607111518214717/
https://43142.diarynote.jp/201809071706397376/
<今日の、そうか>
先に触れた“ハンズ・アクロス・アメリカ”への参加は、レコード店が受け付けていたよう。おお、まだレコードに力があった時代! 関係ないが、CD/デジタル・メディアの登場によりレコード=音楽産業は衰退したという考え方もできるのかもしれない。そういえば、「ブラインド スポッティング」にはIT流れの新住民とネイティヴな主役二人との距離感も描かれている。