真実のヴォイス・インプロヴァイザー(2008年8月24日、2009年1月8日、2010年9月11日、2014年7月22日、2014年9月25日)が、来日が偶然重なった(のかな?)欧州人の知己2組とがっつり、リッチな出し物。新宿・ピットイン。彼女は各ユニットともに、それぞれ各所でギグをやったよう。

 まずは、ユーロ(内訳はスイス人2人、ドイツ人1人のよう)・クラリネット・トリオのポルタ・キウーザと重なるの巻。リーダー格の普段はレバノンのベイルートに居住しているらしいパエド・コンカが書いた45分の曲を悠然と4人で奏でる。ヴォーカルのパートも含め、全部譜面になっている(!)らしいが、この微妙な変化が連なる一部始終をなんと説明していいものか。クリネット音は音質も微妙に変えるが、それも譜面での指示か、それとも個人の裁量に委ねられているのか。その繊細にしてどこか素っ頓狂な部分も持つクラリネット音群はなんか雅楽の笙の音をもっと幽玄にしたようなというか、禅という言葉を用いたくなる手触りも持つ。そして、それらは見事に即興を孕む感覚をも持つわけで、そこに涼しい顔して重なる蜂谷もすごい。その様に触れると、根っこにある蓄積が多大と思わされる。いやはや。

 休憩を挟んで、次の約40分は、フランス人チェロ奏者のユーグ・ヴァンサンと蜂谷のデュオ。二人は共演作『メビウスの鳥』(Airplane)を出したばかり。で、こっちはイケイケの丁々発止。二人ともエフェクトをかけて対峙するが、音色はいじってもサンプリングの類いは用いず、実際に出す声と楽器音のみで勝負する。それにしても、ヴァンサンの種々様々な腕の立つ演奏には笑っちゃう。高尚な感じからエフェクト全開の“チェロ・ヘンドリックス”と言いたくなる狼藉演奏まで、自然な動きで技と発想を繰り出す。コード弾きもするし、はてはギターのように横に抱えて演奏しちゃう。イエイっ。終盤は蜂谷が弾くピアノとチェロのデュオ演奏となったが、その際はとても美しいサウンド・スケイプを描いた。

 そして、3つ目は、以上の5人による、一発ものセッション。ポルタ・キウーザ(イタリア語で、密室という意味のよう)の音だしで始まったため、大人っぽい手触りのもと、五者の創意は交錯した。もう1曲、やってほしかったなー。

 全3曲が、演じられた一夜。皆豊かにして、澄んでいる。実際はどうか知らぬが、音楽上ではとても健全高潔で、耳や生理の洗濯ができたとも思えた。この後、蜂谷は渡欧。今日の二組と、それぞれの楽旅を持つそうだ。

▶過去の、蜂谷
http://43142.diarynote.jp/200808260821260000/
http://43142.diarynote.jp/200901091437341082/
http://43142.diarynote.jp/?day=20100911
http://43142.diarynote.jp/201407231341189225/
http://43142.diarynote.jp/201409261635554506/

<今日の、BGM>
 前に、この老舗ジャズ・クラブにはちゃんとDJセットが設置されているのを記したことがあったが、それを用いアナログ・レコードで場内音楽を出している事実に、この日初めて気付く。マイルス・デイヴィスの『ブルー・ヘイズ』(プレスティッジ、1954年)やソニー・クラーク・トリオの同名作(タイム、1960年)がライヴ前や休憩時にかかる。おお、両方ともそれなりに有名盤で、すんげえ久しぶりに耳にする。そりゃ悪いわけはないが、ずいぶん生真面目な選盤をするのだなと思ったら、2番目の休憩とギグ終了後にスピンされたのは、カーティス・メイフィールドの『ゼアズ・ノー・プレイス・ライク・アメリカ・トゥデイ』(カートム、1975年)。ま、こちらもシカゴ派巨匠の著名盤ではありますね。一瞬ゆるい“シカゴ縛り”でかけているのかと思ったが、クラークはニューヨーカーだった。ともあれ、そのファルセットを聞きながら、やっぱりプリンスのそれって、メイフィールドから来ているところも大だよなあと思う。