ザ・カーズやそのリーダーであるリック・オケイセクに心を奪われたことはないが、ザ・カーズのギタリストであるエリオット・イーストンは別。彼が1985年に出した(唯一の?)リーダー作『チェンジ・ノー・チェンジ』(エレクトラ)はパワー・ポップというか、フックたっぷりの小気味いいロックロールの大傑作。発表当時、ほんと愛聴したなあ。楽曲はけっこうジュールズ・シアーとの共作が多かった。

 この夏にセルフ・タイトルのアルバムをリリースしたザ・エンプティ・ハーツはイーストン(ギター)他、1970年下半期に結成された4つの好ロック・バンドの構成員がつるんだ4ピースの集団だ。他に、デトロイトのザ・ロマンティクスのウォリー・パーマー(リード・ヴォーカル、ギター、ハーモニカ)、ロチェスターで結成されたガレージ・ロック・バンドのザ・チェスターフィールド・キングスのアンディ・バヴォアック(ベース)、デボラ・ハリーを擁して商業的に大成功もしたブロンディ(2006年9月7日)のドラマーのクレム・バークという面々。

 ステージに出て来たメンバーたちは皆それなりに年期がはいっているが、禿げている人はなし。そして、この顔ぶれゆえの的をいたパワー・ポップ表現を次々に繰り出す。アルバムを聞くとガレージっぽさを得る部分もあるが、実演はおいては面々の非シャープな風体などもあり、そちら方面の味は薄い。4人がまず楽しんでやっているということは間違いなく指摘できることで、MCは皆で仲良く分けていた。

 左利きのレスポール型ギターで通したイーストンのギター演奏はロックのある方向性の奏法を完璧にマスターしていると思わせるもの。ときに、カントリー調もイケそうと思わせたときもあった。彼、1曲ではリード・ヴォーカルをとる。ベースはピック弾き、ボブ・ディラン作にも名が見られたりもするドラマーは手数の多い叩き込みタイプで、客の目を意識してスティックをクルクル扱う流儀はオールド・スクール。そういうの、今や貴重な存在? 彼はザ・ビートルズの「アイ・ソウ・ハー・スタンディング・ゼア」を歌った。

 六本木・ビルボードライブ東京、ファースト・ショウ。それぞれの熱心なファンが集まっているのだろう、前に座っている人たちは、それぞれの所属バンドのプロダクツを面々に向かってかざしたりもしていた。

▶過去の、ブロンディ
http://43142.diarynote.jp/200609101412280000/

 その後は、南青山・ブルーノート東京で、四半世紀のキャリアを持つ、英国ソウル・バンド(1999年8月2日、2010年2月22日、2013年9月18日)を見る。不変の3人のメンバーに加え、バンドを蘇生させたフィジカル度の高いシンガーのドーン・ジョセフを擁し、さらに女性コーラス、2人の管(トランペットとサックス)、キーボードというアディッショナル奏者がつくのは、顔ぶれが同一かどうかは調べていないが、同様の編成だ。

 ジョセフを完全に中央に据えた2014年新作『スウィート・フリークス』も出しているが、カヴァー「真夜中のオアシス」も含め、歴代の著名ナンバーがずらりと披露。それら耳馴染みの楽曲群が羅列されると、いい曲を持っているナと思わずにはいられず。ほんと、どれも跳ねや溜めと洗練されたメロディを、彼らは巧みに両立させている。

▶過去の、ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/augustlive.htm
http://43142.diarynote.jp/201002280939559070/
http://43142.diarynote.jp/201309201841355632/

<今日の、追憶>
 ザ・チェスターフィールド・キングスを生んだオンタリオ湖に近いロチェスターはスティーヴ・ガッドやチャック・マンジョーネの出生地としても一部で知られる。一方、カメラ・フィルムのコダックやコンタクト・レンズのボシュロムなどの本社があったり、水準の高い大学が複数あったりと、リッチな街として、米国では知られるよう。かつてJFKに飛ぶ飛行機内で、一席おいて隣になった厚木の米軍基地にいるというおきゃんな白人ねえちゃんと「やっぱエコノミーなら、ジャンプ・シート(CA席)の前で隣の席はブロック(空きに)しなきゃね」と意見の一致を見た後に、飲みながらいろいろテキトーに話し、その際に彼女からそうロチェスター話を聞かされたことがあった。エアはもう今はないノースウェスト。そのころは、まだデジタル・カメラもあまり普及していなかった。ああ、今昔物語……。
 で、今日見た米英のバンドは変わらなくていいものを核にかかえつつの、彼らなりの今昔物語をしているとも言えるか。←すごい、こじつけ。