まず、丸の内・コットンクラブで、イスラエル人ジャズ・ベーシスト、アヴィシャイ・コーエン(2006年5月17日)のトリオ公演。かつては米国で活動していたが、今は本国に戻っており、米国時代からだしていたイスラエル味はより自然体で出していると言えるか。僕のニュー・トリオとMC で紹介していたが、サイド・マンもテルアヴィヴで活動するミュージシャンだろう。ピアノのニタイ・ハシュコヴィッツはコーエンの近2作に関与している奏者だ。

 実は、今回のライヴはどうなるのかと思っていた。というのも、新作『アルマー』はクラシック素養も出した抑制美を持つ弦群やオーボエ/イングリッシュ・ホルンも用いたルバム(編曲はコーエン自身)であり、その前作『デュエンデ~聖霊』は耽美的という言葉も用いたくなるデュオ作品で、分りやすいインプロ濃度はともに低められる傾向にあったから。また、歌がいろいろ入ったその前々作『セヴン・シーズ』はジャズ的な広がりも持つフォーク・アルバムという趣もあったからなー。……と、思っていたら、今回の実演も前回公演と同様と言えるノリ、ようはジャズ・ピアノ・トリオ流儀とイスラエル的なメロディ感覚/情緒を巧みに交錯させる方向で進む。ピアニストに関しては、ぼくは前回同行者のほうが奥行きを持っているようで好き、かな。近年コーエンはアルバムで歌も披露しているが、こんかい歌うことはなかったし、ウッド・ベースに専念しステージ上に置いていたエレクトリック・ベース(『アルマー』で少し弾いている)を触ることはなかった。

 ストーリー性とある種のペーソスに満ちた、ジャズ・ピアノ表現の数々。アンコールでは皆も知っている曲もやるよと、「ベサメ・ムーチョ」を演奏。ただし、5/4拍子にて披露する。ドラマーのダニエル・ドールは初めて聞く名前の御仁だが、ダイナミクスと音色にかなり敏感な好プレイヤー。蛇足だが、コーエンはけっこう怖そうな顔をしている。E.S.T. (2003年6月17日、2007年1月13日)の故エスビョルン・スヴェンソンにも、似ているか。人によっては、レヴェル42のマーク・キングを思い出すかもしれない。

 その後は、飯田橋・日仏学院“ラ・ブレッセリー”で、フランス人ラッパー/シンガーのフェフェを見る。ユーチューブにアップしてある野外ライヴ映像(ブルゴーニュ地方のフェスの模様らしい)を見ると、フジ・ロックのグリーン・ステージみたいなバカでかい会場で熱烈支持を受けている様(と、パーフォマンスの訴求力の大きさ)が確認できびっくりさせられるが、ほんとフランス人ミュージシャンの場合、本国と日本の人気の差があまりにあるよな。

 パリ近郊生まれだが、両親はナイジェリア出身。フェラ・クティ家系にせよ、キザイア・ジョーンズ(1999年9月29日、2009年6月1日)にせよ、鋼のような体躯を持っているが、彼も贅肉なく、長身。そして、いかにもナイス・ガイ。やっぱり、フェラやキザイアは大好きだそう。1976年生まれの彼は複数のラップ・チームの集合体であったサイアン・スーパー・クルー(3枚、アルバムをリリース)を経て、ソロとして独立。仏ポリドールから2009年と2013年と2枚のリーダー作をして、ともにヒップホップ・ビヨンドの名プロデューサーであるダン・ジ・オートメイターが関与。ギャラクティック、リトル・バーリー、プライマル・スクリーム、ゴリラズ、カサビアン、ジェイミー・カラム他を手がける彼とはレコード会社の紹介のもとパリで会って意気投合、特に2作目のほうは一ヶ月もダン・ナカムラが居住するサンフランシスコに滞在してレコーディングしている。

 生音サウンドをちゃんと用いる彼の表現はまさにヒップホップと歌付きの覇気ありのビート・ポップを自在に行き来するもの。レゲエも栄養とするそれを聞いて、マヌ・チャオ(2002年7月26日、2010年10月4日)を想起する人がいえるかもしれないし、完全歌もの曲の場合はテテ(2005年3月18日、2007年9月24日、2011年10月10日、2013年11月21日)を思い出させるものもある。あ、2作目の最後は生ギター弾き語り曲だが、それは彼にとっての「リデンプション・ソング」(ボブ・マーリー)なるものだったりして?

 そんな彼の初来日公演は、オーストラリア楽旅をへてのもの。彼の実演はバンドを伴ってなされるが、規模の小さな東京公演は、DJを伴っての簡素版でなされる。残念といえば残念だが、それでもありあまるパワーと心意気を感じ、ワーイとなる。驚いたのは、わずかの滞日の間にいろんな日本語の単語を覚えて、それを見事に駆使し、観客に働きかけていたこと。客を左右に移動させたり、ジャンプさせたり、ちゃんとストーリーのあるコール&レスポンスや唱和を実現させたり。そこらあたり、滅茶すごい。で、彼はギターを持って歌ったりもする。あ、今日のショウに触れた限りは、ラップよりも歌比率のほうが高いな。どちらにせよ、きっちり豊かな喉力を持つことを無理なく伝えるもので、何をやろうと、彼の肉声に触れられるだけでうれしいと思わされる。素敵なタレントと、ぼくは彼のことを推す。

 フェフェは英語も話せるが歌詞はすべてフランス語で、子供のころから米国の音楽に浸ってきたものの、英語で音楽をすることには興味がないという。いろいろ聞き手に働きかけた彼だが、歌詞の内容には一切触れなかった。それを超える、もっと重要なものが音楽には山ほどあると言わんばかりに。なんか、そういうところも、ぼくの好みではあるよなー。


▶過去の、コーエン
http://43142.diarynote.jp/200605190943240000/
▶過去の、ジョーンズ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/livezanmai.htm 1999年9月29日
http://43142.diarynote.jp/200906071504504396/
▶過去の、チャオ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/livezanmai.htm 2002年7月26日
http://43142.diarynote.jp/201010110929417794/
▶過去の、テテ
http://43142.diarynote.jp/200503240455360000/‎ 
http://43142.diarynote.jp/200709261218590000/
http://43142.diarynote.jp/201110141216048509/
http://43142.diarynote.jp/201311230758271244/

<今日の、フェフェ>
 文中に少し情報を織り込んだが、昼間フェフェには取材。いい奴ですよ〜。アニメも好きで、日本に来るのは念願であったよう。パリより東京は寒いと言っていたが、真夏の豪州から来たら余計にそう感じるだろう。彼は世界中のアーティストが関与した南アW杯のコカコーラ宣伝ソング(ケイナーンの「ウェイヴィング・フラッグ」)のフランス語版をまかされた(日本盤はAIがやっていますね)が、コカコーラ絡みだったので断ろうと思ったけど、お母さんにやりなさいと言われて、引き受けたとか。リーダー作の1枚目と2枚目の間が4年もあいているのは、子供の成長に触れたかったからで、今は少し大きくなったから、次作は今年中に録音するそう。あと、エッチは大好きなようだ。日仏学院のライヴは4日間、金曜日まで。