ホセ・ジェイムズ・ウィズ・テイラー・マクファーリン。トーマス・ドルビー
2012年2月18日 音楽 まず、六本木・ビルボードライブ東京で、クラブ・ミュージック回路経由のクロスオーヴァー路線と正統ジャズ路線の両刀で活動を維持している米国人ジャズ・シンガーを見る。過去見た3回のショウ(2008年9月18日、2010年11月11日、2011年1月12日)はスーツ/ネクタイ姿であったが、今回はジーンズに皮ジャン/Tシャツにキャップというカジュアルな格好。それだけで、このパフォーマンスは純ジャズ路線ではないのことを一発で了解できる。バンドは、ピアノ/キーボード、電気ベース/ヴォーカル、ドラム、トランペットという布陣なり。鍵盤奏者以外はジェイムズの2010年クロスオーヴァー路線作『ブラックマジック』に録音参加している人たちだ。トランペッターはタクヤ・クロダという日本人名の人、フィーチャーされ、吹けてもいた。
ジェイムズ・グループのパフォーマンスの前に、テイラー・マクファーリンという黒人青年が出てきて、一人で少しパフォーマンス。ジェイムズの『ブラックマジック』で一部制作/楽曲共作している彼は、ヒューマン・ビート・ヴォックスをしながら(技量は確か)、キーボードによる効果音を加えて、ちょっとした造形物を作り出す。また、それに続いてはキーボード音を重ねて、いわゆる“チルウェイヴ”のインストみたいなものを披露。彼は、フレディ・ハバード(2009年1月8日参照)の「レッド・クレイ」のリフを用いたジェイムスのパフォーマンスにも1曲、打楽器肉声で加わった。なんと、彼はボビー・マクファーリン(2004年2月3日)の息子のよう。なら、飄々と我が道を行く感覚も納得ですね。
先に触れたようにジェイムズの実演は、ジャイルズ・ピーターソン(2008年9月18日、他)の後押しで世に出たというのもしっかり了解できる、ハイパーなジャジー路線で突き進む。この行き方の場合は基本オリジナル曲を歌っているはずだが、彼はまっとうなソング・ライターでもあり、ジャズ愛や知識を核にさあっと飛び立たんという感じはなかなか得がたく、心地いい。純ジャズ路線より、生きた黒人音楽をやっているという手応えも出るかな。うぬ、確かなジャズ・ヴォーカル技量も持つ彼ではあるが、声自体は深み〜多大な存在感には欠ける部分もある(注1)ので、こっちの方の路線のほうがいいと思ったか。
その後は、南青山・ブルーノート東京でトーマス・ドルビー。わははは、つっこみ所、いろいろ。ククククと笑いながら、見ちゃったな。と、それは、ドルビー自体が微笑ましい見てくれ/態度を抱えていたからかもしれないが。想像通りの、なかなかファニーなおじさんでした。
とっても、興味深いキャリアを持つ英国人クリエイター。セッション・キーボーディストを経て、82年にエレクトロ・ポップの担い手としてソロ・デビューし、「彼女はサイエンス(She Blind Me With Science。奇麗な原題だな)」がすぐに大ヒットしたこともあり、時代の寵児となる。リーダー作の数はそんな多くないが、坂本龍一と共演曲を作ったり、ジョージ・クリントンらP-ファンク勢を起用した12インチ・シングルを出したり、プリファブ・スプラウトやジョニ・ミッチェルのアルバムをプロデュースしたりと、まさに刮目すべき活動を見せた人物であったのだ。だが90年代を回ると、もともと機材に強かった彼(注2)はIT業界に転身し、シリコンバレーの成功者となる。ながら、ここ数年は英国に戻り音楽活動を再開、約20年ぶりのスタジオ録音作を昨年リリースした……。そんな彼はプロモーションで84年に来日したことはあったものの、日本で公演をしたことはなかった。
大中小3つのキーボードとPC(ゆえに、サウンドはデーター併用)を前に歌うドルビーに加え、UKロック名士と言ってもいいだろうキタリストのケヴィン・アームストロング(ドルビー作はもちろん、デイヴィッド・ボウイ諸作、はてはキザイア・ジョーンズ;2009年6月1日のデビュー作プロデュースまで)、ドルビー新作で叩いていたドラマーのマット・ヘクターを率いての実演。サポートの二人も歌をうたう。披露するのは、過去のナンバーから80日間世界一周みたいなテーマを持っていた新作曲まで。なんでも、1ヶ月弱の米国ツアーを経て、日本に来たようだ。
80年代の曲の場合、シンセ音は過去のままの音が出てきて、あーこれこれフフフとなることと請け合い。また、リズムの構築/畳み掛けも、彼一流の癖があることを再確認。うれしそうにパフォーマンスする彼を見ながら、今は人生の最終地に向かっての第3のキャリアを謳歌しているんだろうなと思わずにはいられなかった。彼は、サンプラーに入っている音を種明かしするかのように紹介したりもしたが、新作曲に入っているロシア語の声はレジーナ・スペクター(2010年5月6日)によるものであったか。MCによれば、今回の日本の初パフォーマンスの機会は坂本が筋道をつけてくれたよう。
最後のほう、若いときのトッド・ラングレンにけっこう似ているベース奏者が加わる。なんともっとも初期からトーマス・ドルビー表現に関わり、一方でロビン・ヒッチコックだのザ・ウォーターボーイズだのザ・ステレオMCズだのいろんな人のアルバムで弾いていたマシュー・セリグマンとか。彼、現在は仙台に住んでいるそう。へえ。何をやっているんだろう? 人生、いろいろあらーな、そんなことも種々感じた公演でした。
<今日の、注釈>
注1;少し誤解を生む書き方をしたが、やはり往年の名ジャズ歌手は歌声に多大な質量感、声だけで聞く者を平伏させる味を持つ人が多い。それだけで、<選ばれた人>がこの道に進んでいると、思わせるというか。ま、今は<選ばれた人>はジャズに進まないかもしれないが。ともあれ、そういう点で、ジェイムズの歌声は朗々としているが、偉大な先人たちが持っていたような声だけで聞く者を射抜く迫力や太平楽さを持ってはいない。そういう部分、彼は秀才的とも言える。
注2;カセット・テープ全盛の際、かならずカセット・プレイヤーについていたノイズ除去システムの商標がドルビー。それから芸名はとられていて、卓録機材小僧の面目躍如ですね。でも今や、ドルビーどころか、カセット・テープを知らない人も少なくない? ぎゃふん。
ジェイムズ・グループのパフォーマンスの前に、テイラー・マクファーリンという黒人青年が出てきて、一人で少しパフォーマンス。ジェイムズの『ブラックマジック』で一部制作/楽曲共作している彼は、ヒューマン・ビート・ヴォックスをしながら(技量は確か)、キーボードによる効果音を加えて、ちょっとした造形物を作り出す。また、それに続いてはキーボード音を重ねて、いわゆる“チルウェイヴ”のインストみたいなものを披露。彼は、フレディ・ハバード(2009年1月8日参照)の「レッド・クレイ」のリフを用いたジェイムスのパフォーマンスにも1曲、打楽器肉声で加わった。なんと、彼はボビー・マクファーリン(2004年2月3日)の息子のよう。なら、飄々と我が道を行く感覚も納得ですね。
先に触れたようにジェイムズの実演は、ジャイルズ・ピーターソン(2008年9月18日、他)の後押しで世に出たというのもしっかり了解できる、ハイパーなジャジー路線で突き進む。この行き方の場合は基本オリジナル曲を歌っているはずだが、彼はまっとうなソング・ライターでもあり、ジャズ愛や知識を核にさあっと飛び立たんという感じはなかなか得がたく、心地いい。純ジャズ路線より、生きた黒人音楽をやっているという手応えも出るかな。うぬ、確かなジャズ・ヴォーカル技量も持つ彼ではあるが、声自体は深み〜多大な存在感には欠ける部分もある(注1)ので、こっちの方の路線のほうがいいと思ったか。
その後は、南青山・ブルーノート東京でトーマス・ドルビー。わははは、つっこみ所、いろいろ。ククククと笑いながら、見ちゃったな。と、それは、ドルビー自体が微笑ましい見てくれ/態度を抱えていたからかもしれないが。想像通りの、なかなかファニーなおじさんでした。
とっても、興味深いキャリアを持つ英国人クリエイター。セッション・キーボーディストを経て、82年にエレクトロ・ポップの担い手としてソロ・デビューし、「彼女はサイエンス(She Blind Me With Science。奇麗な原題だな)」がすぐに大ヒットしたこともあり、時代の寵児となる。リーダー作の数はそんな多くないが、坂本龍一と共演曲を作ったり、ジョージ・クリントンらP-ファンク勢を起用した12インチ・シングルを出したり、プリファブ・スプラウトやジョニ・ミッチェルのアルバムをプロデュースしたりと、まさに刮目すべき活動を見せた人物であったのだ。だが90年代を回ると、もともと機材に強かった彼(注2)はIT業界に転身し、シリコンバレーの成功者となる。ながら、ここ数年は英国に戻り音楽活動を再開、約20年ぶりのスタジオ録音作を昨年リリースした……。そんな彼はプロモーションで84年に来日したことはあったものの、日本で公演をしたことはなかった。
大中小3つのキーボードとPC(ゆえに、サウンドはデーター併用)を前に歌うドルビーに加え、UKロック名士と言ってもいいだろうキタリストのケヴィン・アームストロング(ドルビー作はもちろん、デイヴィッド・ボウイ諸作、はてはキザイア・ジョーンズ;2009年6月1日のデビュー作プロデュースまで)、ドルビー新作で叩いていたドラマーのマット・ヘクターを率いての実演。サポートの二人も歌をうたう。披露するのは、過去のナンバーから80日間世界一周みたいなテーマを持っていた新作曲まで。なんでも、1ヶ月弱の米国ツアーを経て、日本に来たようだ。
80年代の曲の場合、シンセ音は過去のままの音が出てきて、あーこれこれフフフとなることと請け合い。また、リズムの構築/畳み掛けも、彼一流の癖があることを再確認。うれしそうにパフォーマンスする彼を見ながら、今は人生の最終地に向かっての第3のキャリアを謳歌しているんだろうなと思わずにはいられなかった。彼は、サンプラーに入っている音を種明かしするかのように紹介したりもしたが、新作曲に入っているロシア語の声はレジーナ・スペクター(2010年5月6日)によるものであったか。MCによれば、今回の日本の初パフォーマンスの機会は坂本が筋道をつけてくれたよう。
最後のほう、若いときのトッド・ラングレンにけっこう似ているベース奏者が加わる。なんともっとも初期からトーマス・ドルビー表現に関わり、一方でロビン・ヒッチコックだのザ・ウォーターボーイズだのザ・ステレオMCズだのいろんな人のアルバムで弾いていたマシュー・セリグマンとか。彼、現在は仙台に住んでいるそう。へえ。何をやっているんだろう? 人生、いろいろあらーな、そんなことも種々感じた公演でした。
<今日の、注釈>
注1;少し誤解を生む書き方をしたが、やはり往年の名ジャズ歌手は歌声に多大な質量感、声だけで聞く者を平伏させる味を持つ人が多い。それだけで、<選ばれた人>がこの道に進んでいると、思わせるというか。ま、今は<選ばれた人>はジャズに進まないかもしれないが。ともあれ、そういう点で、ジェイムズの歌声は朗々としているが、偉大な先人たちが持っていたような声だけで聞く者を射抜く迫力や太平楽さを持ってはいない。そういう部分、彼は秀才的とも言える。
注2;カセット・テープ全盛の際、かならずカセット・プレイヤーについていたノイズ除去システムの商標がドルビー。それから芸名はとられていて、卓録機材小僧の面目躍如ですね。でも今や、ドルビーどころか、カセット・テープを知らない人も少なくない? ぎゃふん。