一年中夏のようだが、30度を超えることはないようで、日本の真夏よりはかなり楽。ホテルには立派なプールがあったが、泳ぎたいとは思わなかったし、泳いでいる人はあまりいなかった。今は雨期だそうで、昨日もスコールがあったが、今日はほぼ雨は降らなかったかな。まあ、野外ステージ以外はだいたい屋根があるので、会場では雨が降ってもそんなに不自由はないと思うが。

 ライヴは夕方近くから深夜まで、ゆったりと繰り広げられる。出演者の割合の半数はインドネシア勢だろうが、その多くはフュージョンやソウル系のバンド(まあ、それはフェスの性格から来るものでもあるだろう)で、それらはおしなべてちゃんとしている。翌々日、ホテルから徒歩15分ぐらいの地元向けアーケードに行ったら、立派な楽器屋さんがあったりして(他にも、楽器屋はあった)、同国のバンド熱は低くないと思わせられる。

▶パット・メセニー(2012年1月25日、他)・トリオ
 1月に日本に来たばかりと思ったら、3月にはインドネシアへ。メセニー、元気だな。で、ここでの実演は、若手黒人リズム・セクションを擁する新トリオにて。ベン・ウィリアムズとジャマイア・ウィリアムズ、おお3年前のジャッキー・テラソン来日公演(2009年5月18日)の来日リズム・セクションと同じじゃないか。渡辺貞夫(2011年7月4日、他)もお気に入りでレコーディング起用しているベン・ウィリアムズは今年のメセニーのサマー・シーズンのツアーにも起用されるようだ(ドラマーはアントニオ・サンチェス-2011年7月20日-とか)。で、最初とアンコールは生ギター・ソロだったが、他は電気ギターを持ちトリオにてギグをする。静かな曲をやるときもあるけど、やっぱ、ぐいぐい進むような質感のパフォーマンスが核となるものであったか。本編最後の曲なんて、ごんごんプッシュするリズムに乗って、彼はシンセサイザー・ギターであっち側に行かんとするソロを取りまくり。回春目的のユニットでもあると、ぼくは理解した。ここのところ、あっさり路線で勝負していたメセニーだが、次作はこういう方向に出るのもアリ。なお、彼に関しては、今回ちょいいい話があった。それは、明日のスティーヴィ・ワンダーの項に書きます。

▶ママズ・ガン(2011年8月3日、他)
 主催者側の選択もあるんだろうけど、外タレ出演者にロックやワールドの担い手はなし。見事に、フュージョンとアーバン(R&B)系の担い手がフェスには呼ばれていた。というわけで、ぼくが今回触れたなかで一番ロックっぽいアーティストが彼らだった?

▶デイヴィッド・サンボーン(2010年12月1日、他)
 ここのところの来日の公演はオルガンとドラマーという簡素な編成でやっているサンボーンだが、ここでは通常編成と言えるような設定でライヴをする。鍵盤のリッキー・ピーターソン、ギターのニック・モロック、電気ベース(に専念)のジェイムズ・ジナス(2012年1月13日)、ドラムのジーン・レイク(2012年2月10日、他)というのが、その顔ぶれ。驚きはないが、これぞサンボーンという演奏を披露する。

▶ジュリアード・ジャズ・トリオ
 ジュリアード音楽院卒業生のバンドということで、誰が演奏するのかなあと思ってのぞいたら、格調高くアコースティックなピアノ・トリオが演奏している。ありゃ、中央にいる痩身のベーシストはどう見ても大御所ロン・カーター(2011年1月30日、他)ではないか。彼の名前なんて、どこにも出されていないぞ。まさか、トラ(=エクストラ。臨時の奏者の意)? ドラマーは仲良しのカール・アレン(2009年8月30日)、彼はオフィシャル雑誌でちゃんと紹介されている。ピアニストは誰か分からなかった。

▶サイモン・グレイ
 オーストラリア生まれのキーボード奏者/トラック・メイカーで、クラブ・ミュージックと重なる範疇を得意分野とし、英国で活動している人物。彼はミレニアム以降のインコグニート表現にも関与しているが、フィーチャード歌手としてインコグニート(2011年3月31日、他)のトニー・モムレル(彼って、マレーシアかどこかの出身だっけか?)を同行させる。で、インコグニートから親しみやすさを少し抜いたような、クールなジャジー・ソウル表現を送り出していた。

▶メイヤー・ホーソーン
 昨年の来日公演は行けなかったのが、見に行った知り合いからは高評価を受けていた。そして、なるほど、それもよく分かりました。実は、ちょい確認したいことがあり昼にホテル内にあるプレス・センターに行ったのだが、そこは現地プレスによるアーティスト取材場所にもなっていた。で、ホーソーンは入り口のソファーで取材を受けていたのだが、そのとき彼は客室備えのバスローブ姿。その様に触れ、おいおい、あんたインドネシア嘗めとんのかいとぼくは思ったのだが、パフォーマンスはきっちりやっていたな。感心したのは、とっても両手を広げる感じを出して、オーディエンスに働きかけていたこと。DJ志向者だったわりには、歌声もちゃんと出ていたし、温故知新型のソウル曲/サウンドも親しみやすいし、受けて当然と思った。

▶ハービー・ハンコック(2005年8月21日、他)
 エレクトリック志向のバンドにて登場。メンバーは、電気ギター専念のリオネル・ルエケ(2007年7月24日、他)、デイヴィッド・サンボーン・バンドとの掛け持ちのジェイムズ・ジナス(2012年1月13日、他)、そして、ドラマーはトレバー・ローレンスJr.だったのかな。『ヘッドハンターズ』や『スラスト』期の曲を丁々発止披露。ゴツゴツ感あり、アンコールの「カメレオン」ではショルダー・キーボードを持ちぎゅい〜ん。彼ともホテルで偶然会ったが、少し若返ったような。取材やったこともあるためか、親身にせっしてくれ、こっちがうまく言い表せないことを、推測して言い当ててくれたりもする。やはり、いい人だ。

▶ソイル&“ピンプ”・セッションズ(2011年6月23日、他)
 弾けていたなー。その噴出感、エネルギー感はちょっとしたもの。J.A.M.(2010年6月11日)という名でも活動しているリズム隊の上で、阿吽の呼吸を持つ二管と、進行役/肉声担当者の社長が思うまま振る舞う。そして、その総体はジャズでもポップでもない、彼らなりの音楽領域を何かを引き裂くような感じのもと広げていると感じさせられたりもしたか。なんか、鮮やかだった。彼らは2009年にもこのフェスに呼ばれているそうだが、そのときと比しても、けっこう街並み変わったと思わせるとか。また、ベーシストの秋田ゴールドマンは6歳までジャカルタ育ちなんだとか。

<今日の、ショッピング・モール>
 昼下がりにプチ市内探訪のついでにさくっと寄ったのだが、その豪華さに言葉を失う。ぼくがいろいろ行った各国のもののなかで、一番立派。行ったことはないが、オレはドゥバイに来ているのかと思ってしまったりして……。とうぜん、値段もさほど日本と変わらず。でも地元の人がけっこう来ているような気もするし、今インドネシアでは富裕層が出てきているのだろうというのは、肌で感じる。で、けっこうな値段をとるフェス(3日間通し券で、16.000円ほどのよう。それ、現地の感覚だと、相当に高いだろう)もそうした繁栄が生む中間層を顧客にするものであろうのは想像に難くない。まあ、飛行機ですぐのシンガポールからも人はやってくるようだが。なんでも、インドネシアの経済成長率は年6パーセントを超え、それはアジアだと中国、インドにつぐものあるという。とはいえ、一方では、50年前と変わらないような祖末な行商もすぐ横に出ていたりするのも事実。その目に見える貧富の差には、相当に驚くとともに、うーんととめげる。