旧東急文化会館跡地にできた商業ビルの渋谷ヒカリエ内作られた東急シアターオーブで<JAZZ WEEK TOKYO 2013>という帯のジャズ系イヴェントが先週金曜日から開かれていて、これは5番目の出演者となる。

 会場はクラシック用途も考慮した、2000人弱収容のそれ。11階から数階ぶんのスペースをとって贅沢に作られており、けっこうガラスばりの会場のホワイエなどからは、とっても魅惑的な夜景が広がる。あ、オレは高い所と夜景が好きなんだと、再認識した。ぼくの隣席に座っていたポーランド人青年がここの夜景は素晴らしい、NYのリンカー・センターもびっくり、と言っていた。六本木のビルボードライブ東京というハコはリンカーン・センターのザ・アレン・ルームと似たを作りだよと、教えてあげる。ここにも、そういう会場を併設したら良かったのにナ。入り口階はとっても広いスペースをとるなど、相当に余裕ある作りを取っているだけに。蛇足だが、ここの場内のバーは、ビールはハートランドを瓶で販売。グラスは配らず(要求されたら、出すのだろうけど)、乱暴に瓶のラッパ飲みすることを推奨しているよう。それには、好感を持つ。

 菊地成孔(2011年5月5日、他)の、デカダンとか官能とか洗練とかをたっぷり抱えるこの大所帯ユニットを見るのは、8年ぶり(2005年6月9日)。大儀見元(2011年1月21日、他)と田中倫明の2人のラテン打楽器、ピアノやウッド・ベース(鳥越啓介。2003年3月6日、他)やハープやバンドネオン、ストリング・カルテットという内訳の10人に、各種サックスをときに吹いて、指揮(CDJも少し扱う)をする菊地が加わる。また、曲によってはオペラ歌手の林正子、さらにヒップホップ・ユニットのSIMI LABの中心メンバーであるOMSBとDyyPRIDEがラップや語りで重なる。

 といった、参加ミュージシャンの羅列だけでも、キューバン・ラテン、タンゴ、ジャズ、クラシック、ヒップホップなどいろいろな音楽要素を、菊地は編集感覚を介した行き方で執拗に交錯させていく。その多彩さは、ときに子供っぽいと感じもするが、なかなかに壮絶。そして、クラシック的歌唱(ほとんど触れたことはないが、ぼくはかなり苦手意識を持っている)をなんら違和感なく重ねているのには驚く。スケールあるなと思った。

 しかしながら、公演中にぼくが一番いいと感じたのは、後半に菊地が披露した歌唱。かつて持っていたスパンク・ハッピー(2002年11月30日)をはじめ、彼の歌には何度か触れ、それは“外しの感覚を持つ余芸”と感じていたが、この晩の彼の澄んだ情緒をおおいに持つヴォーカルにはマジな歌としてグっと来た。自分は歌いたいという意思、歌いたいことがあるという必然性を持つ、いい歌い手じゃないか! なんか、それ以降、ぼくの目には中央に立つ彼が70%増しでカッコ良く見えるようになったし、この晩のパフォーマンスが魅力的に思えたのはまぎれもない事実なのだ。もっと、彼の歌を聞きたいっ。やはり、まっすぐな歌やダンスの力は偉大なのである。

<今日の、郵便物>
 家のポストを覗くと、ドイツからの郵便物あり。現在ベルリンにも拠点を置いている藤井郷子さんから、彼女がいろいろと持っているユニットのなかの一つであるカルテット、MA-DO(2010年1月9日)の新作『time stands still』(Nottwo)が封入されている。メンバーの是安則克(べース)は2011年9月に亡くなってしまったので、これが同バンドの最終作になるのかな。あっち側を真摯に見つめる、嵐と詩情をいろいろ抱えた集団表現作だ。パッケージに張ってあるスタンプを見ると、郵送料は3,45ユーロ。ありゃ、日本国内宅急便と変わらない。で、発売元は前作と同様に、ポーランドのレーベル。上でちらりと触れた、初来日のトルケイヴィッチ君はポーランドのジャズ・フェス“jazztopad”のディレクターを勤めていて、知識と見識を持ち、英語が上手い。知人のお誘いで、公演を見た後に一緒にお寿司を食べたりもしたのだが(彼があちらで作っている巻モノや握りの写真を見て、その完成度の高さにびっくり)、ポーランドのジャズ界にとても興味をひかれた1日でもあった。