ぼくの捉え方のなかでは、ジョシュア・レッドマン(2012年5月31日、他)とジェイムズ・カーターはわりと同じような位置にいる。1990 年代に前者はワーナー・ブラザーズ、後者はアトランティックから送り出され、ともに当時の風を切るリード奏者という感じで脚光を集めたということで。現在、レッドマンはノンサッチ、カーターはユニヴァーサルと契約している。

 てな情報はともかく、前からぼくのなかの評価は、ものすごくカーターのほうが上だった。だって、彼のほうが溌剌エモーショナルなブロウができるし、バックのサウンド作りの才もずっと好奇心旺盛でカーターのほうがよろしい。彼は純ジャズは当然のこと、パンク・ジャズ調からマヌーシュ・スウィング調、編成の大きな瀟洒なものや歌を用いたものまで、本当にいろんなお膳立てを持つ、秀でたアルバムを発表してきている。それゆえ、日本ではレッドマンばかりに光があたり、彼がブルーノートに来たり、東京ジャズに呼ばれたりするのを見ると、なんでカーターではないのだアと、ぼくはフラストレーションを溜めていた。

 そしたら、見事にコットンクラブが呼んでくれ、ぼくが拳を握りしめたのは言うまでもない。そして、カーターは威風堂々、やはり秀逸な吹き口を見せてくれ、ぼくはココロの中でガッツ・ポーズ。とともに、彼は快活陽性な所作/MCをする人だった。

 カーターの近作『アット・ザ・クロスロード』と同じオルガン奏者とドラマーを率い、トリオでショウを行う。ジャズ的疾走感を持つものから、R&B調のもの(このとき、ドラマーはデカい良く通る声でヴォーカルも取った)まで。だが、そんなのは些細な事と言いたくなるほど、やはり彼の演奏が鮮烈。もう、きっぱり滑舌よく曲ごとにいろんなリード楽器を吹く様にはポっとなった。ときに、子供っぽいと思わせるブロウを聞かせるときもあったが、それも完璧に楽器をコントロールでき、とっても濃厚にその特性を開けるからこそ。基本各曲は15分ぐらいの長さを持ち、テナー、アルト、フルートの演奏を彼はそれぞれの曲で披露。アンコールではソプラノ・サックスまで吹いた。もうツラツラと、存在感あるフレイズが泉のごとく湧いてくる。ぼくはテナー・サックスの演奏が一番好みだが、そのマルチな様はまさにナチュラル・ボーンなリード奏者というしかない。いやはや、カーターに接し、途方にくれちゃう同業者もいるのではないか。

 その後は、南青山・ブルーノート東京で、ジャズ・トランペッターのロイ・ハーグローヴ(2012年3月23日、他)のR&B/ファンク傾向ユニットであるR.H.ファクター(2003年9月21日)の実演を見る。全部で9人編成、紅一点の元ジャネイのルネー・ヌーヴィルは途中でリード・ヴァーカルを取り、他の曲でも補助的にキーボードを弾く。

 マイルス・デイヴィス調の演奏で始まった演奏は、黒目のフュージョン調演奏や、アーバン・ヴォーカル曲、P-ファンク曲やスライ曲カヴァーなど盛りだくさん。本編1時間半、さらにアンコールも2曲。その1曲目はロックぽいリフのもと、ハーグローヴが延々とラップをかます。才能がないから辞めたそうだが、彼はジャズ界でエスタブリッシュされた後、こっそり打ち込みやラップを試みていたこともあったんだよね。


<今日の、格好>
 先に見たカーターは、きちんと黒いシャツのもと(ネクタイは赤系の色だったか)、ばしっとスーツで決めていた。そのカーターのライヴには、来日中のデイヴィッド・T・ウォーカー(2011年6月21日、他)が見に来ていた。多忙につき、今回の彼の来日公演をぼくはパスしたが、充実してそうな彼の姿を側で見て、今回はこれでいいのダと思うことにした。彼、オフでもちゃんとスーツを着ているんだな。
 ハーグローヴは通常のジャズのライヴ時には崩し気味ならジャケットやタイをしているが、今回のR.H.ファクターのショウではキンキラの格好をしていた。それ、どこで買ったのか。実は、ロイ・ハーグローヴは人口透析を受けなくてはならない身体で、来日時もそうしているのだそうな。過去の、彼の過去の項の原稿でも触れているように、今回に限らずハーグローヴのライヴ・パフォーマンスは演奏時間が長い。それは明白であったので、今回はワインをボトルで頼んでしまった、ハハハ。いやはや、実演を見る限り、彼が病を抱えているなんて、本当に分らない。プロであり、音楽のムシなんだろうナ。