70年代後期以降にデイヴィッド・ボウイーやフランク・ザッパやトーキング・ヘッズやキング・クリムゾンなどに次々と関与し、一躍知名度を得るとともに、ポップなメロディ・メイカーであることをかっとびギタリストである様と無理なく重ねたリーダー・アルバムもいろいろと持つ、この異才ギタリスト/シンガーの来日公演をぼくが見るのは、05年のフジ・ロック出演時(7月30日)以来。もともとおでこの広かった人だが、すっかりアルシンド状態になって(と、書いても、???な人も少なくないか。アルシンドはJリーグが出来たころ、アントラーズで大活躍した若ハゲのストライカー。一時は、アデランスのTV-CFにでた事もあった。そういえば、ブリューも90年代だったか、ギターで動物の鳴き声を出す男みたいな感じの設定で日本の大企業のTV-CFに出演していたことがあった)いる。体つきもかつての痩身が嘘のようだが、すでに還暦すぎているだろうし、しょうがないですね。その分、飄々と音楽を楽しんでいるという風情はより前に出るようになっているかも。

 女性ベーシストのジュリー・スリック、少し変則的なドラム・キットを用いるマルコ・ミンマネンを従えてのもの。3人はパワー・トリオと名乗っているようだが、なるほどインスト部に力を入れた、叩き込み風情をおおいに抱えた三位一体表現を悠々展開する。ブリューは歌も随所で披露するが(1曲はなぜか、PC内蔵のものを流す)、ぼくはもう少し彼の秀でたポッパー像を前にだしたパフォーマンスに触れたかったとはおおいに思った。でも、フジのときよりは数段印象のいい精気ある演奏をしたのではないか。3人は今ワーキング・バンドとして活動しているようで、噛み合いはなかなか。この後は、南米ツアーに出るようだ。ずっと端に位置していたスリックが一度ブリューの横まで来たときがあって、彼に耳打ち。そしたら、ブリューはいけねえいけねえという感じで、エフェクターのスイッチを足で切ったか入れたかしたが、ギター音は変わらじ。でも、そのやりとりは、彼らがけっこう一緒に場数を踏んでいることを示すだろう。

 そのスリック嬢はピック弾きが中心ながら、指弾き(ネックの上で弾くとか、指を添える位置にも留意していたよう)やスラッピングなど、本当に多彩な弾き方を見せる。ながら、音色は輪郭が甘いぼわーんとしたものを採用していて、奏法による出音の違いは判りにくかった。一方、ドラマーはスネアとハイハットの間にスティックで叩くためのバスドラを置くとういう変わったセッティングを取る。もちろん、足でキックするバスドラも床に置き、しかもバスドラ専用の右足とともに左足のほうは二つのペダルを並べてバスドラとハイハットをともに扱えるようにしていた。もう、随所で両足を駆使したダダダダというバスドラ音は大活躍。パワー・トリオという命名は彼のドラミングのスタイルに負うところも大きいナ。マッチド・グリップとレギュラー・グリップを併用していた彼、ソロのときはスティックをジャグラーのように扱ったりもした。

 南青山・ブルーノート東京。彼の出演した4日間は通常の2セット回しではく、20時からの1ショウにて。この晩は、本編1時間半で、2曲アンコールという尺のパフォーマンス。よくチューニングが狂わないなあと思わせる存分に飛び散る感覚を持つギター演奏を注ぎ込んだ演目(うち、1曲はPC併用のソロ・パフォーマンス。その際だったか、シタールのような音を出しながら、ザ・ビートルズの「ウィズイン・ユー・ウィスアウト・ユー」のメロディを弾いたりも)のなか、キング・クリムゾン曲のときは歓声が一段と大きい。お客はプログ・ロックのファンが多かったのかな。