今年のフジ・ロックにも出た二組が一緒の公演。渋谷・Oイースト。

 まずは渋さ。最初は10人弱でのものが予定されていたらしいが(フジ・ロッ
クのところで記していないが、今年アヴァロン・フィールドでやった、不破大
輔がちゃんとベースを弾きながらバンド率いる“小型渋さ”のパフォーマンス
はかなりドキドキできました)、結局20人を超える面子でのパフォーマンス。
40分間の実演。やっぱ、ケラケラ見れて、楽しい。

 そして、シンク・オブ・ワン。ベルギーの経験豊かなアヴァン・ロック〜ジ
ャズの担い手たちによる、ブラス主体広角型グループ。今回はブラジルの打楽
器〜シンガー4人を加えての“ジュヴァ・エン・ポー”と名乗るもの。ブラジ
ル勢はそんなに名のある人はいないようだが、やはり強力。いろんなデコボコ
、いろんなイってる気持ちが幾重にも交差し合う、酔狂表現を堂々と展開。最
後はちょっと一緒に、渋さやキーラのメンバーもまざる。終演後、シンガーと
して参加のブラジル人おばさんは同所のバーでアカペラで一生懸命に歌ったり
も。じいーん。なんか、本当に日常のど真ん中にある真っ直ぐな歌という感じ
なのだ。
 2年前(2002年9月7日)に行われた開放型フェス、2度目となるもの。今
回は読売ランドのイーストから、埼玉県の秩父ミューズパーク(西武が持って
いる施設らしい)というところに移ってのもの。けっこう遠そうで最初戸惑っ
たが、この時期になると道もあまり混まず、2時間ちょいの道のりといったと
ころか。たぶん。ぼくは複数箇所で人をピックアップしているので、もう少し
かかっているが。

 この日は2日間行われるフェスの2日目のほう(初日は、シム・レッドモン
ド・バンド:8月30日も出たはず)。最後のほうで山をぐぐいと登った先に、
会場はあった。とっても広大な緑たっぷりの自然公園(と言っていいのかな?
)の一角。駐車したすぐ近くはセカンド・ステージとなる吹き抜けの建物。オ
ーネットのプライムタイムからファンク臭を抜いたような曲をやっている(ウ
ィード・ビーツという名前のバンドのよう)。うひひ。そこを通り抜け暫く歩
くとメインの会場。こちらはイーストを小さくした感じの会場(半分は椅子席
。後ろ半分は芝生席。そちらは、テントを張っている人が大半)。天気は小雨
だったが、椅子席はちゃんと屋根に覆われている。悪くないっす。

 12時半すぎに着いたときには、ザ・ポリフォニック・スプリーがやっていた
。ローブを羽織った(この日はトレイドマークの白ではなく、色とりどりのロ
ーブを着用)ヴォーカル大所帯集団。前にサマーソニックに来てたことがある
はずだが、初めて接する。ほう、こんなん。なんか宗教がかっていて、少し気
持ち悪い。洒落でやってるなら分からなくもないが、けっこう自分を美化し善
人ぶりに酔っている感じを受けたにゃ。実演だと。はあ米国人ってほんとに厚
顔で呑気だね、てな印象を強烈に得る。

 ステージ向かって左手にある小さな仮設の小さなステージがあり、そちらは
DJ主体のパフォーマンスがなされ、メイン・ステージの出し物の間を埋める
。それは前回もそうだった。

 次にメイン・ステージに出てきたのは、レゲエの大御所シンガー、ジミー・
クリフ。黄色いTシャツを着たバック(コーラス二人を含め、10人編成だった
か)を従えた彼は赤い上下のいでたち。体型はけっこうキープしていて、動き
もシャープで見せる。もちろん、喉も衰えは感じさせない。そして、演目はヒ
ット曲、人気曲のオンパレード。いい曲、いっぱい歌ってきたんだなあ。キー
ボードの音色などがダサかったりもしたが、今を呼吸しながら積み上げてきた
ものを両手を広げて聞き手に提示するということは、きっちり出来ていたんで
はないか。

 ああ、見れて良かった。素直にそう思えた。同じように世界的注視を受けた
ボブ・マーリーは神のように扱われ、あっけなく世を去った。一方のクリフは
ずっと隣人として存在し(ときに、なんでこんなちゃらいことをやるのと思わ
せることもあったが)、こうして変わらずに秀でた歌を聞かせている。ほんと
、どっちが良かったのか分からないよナとも思う。彼が中ごろに「ア
イ・キャン・シー・クリアリー・ナウ」の“〜サンシャイン・デイ、なんたら
かんたら”と歌うあたりで薄曇りになり、以後雨の心配はなくなった。

 メデスキ・マーティン&ウッド(MMW)のドラマーのビル・マーティンは
イリー・Bの変名でDJとのセッションやリミックスをやったりしているが、
ジミー・クリフのショウに続くサブ・ステージからは、黒人DJとイリー・B
と、NYのダウンタウン界で活躍するブラジリアン打楽器奏者シロ・パプティ
スタの即興演奏が送りだされる。高揚はしなかったが、ニコっと見れました。
DJ音に合わせてBはドラムや打楽器を叩くだけでなく笛を吹いたり、パプシ
ティスタは拡声器で肉声を用いたりも。

 6時近くになって出てきたMMWの演奏は3人に、シロ・バプティスタとD
Jスプーキー(2000年8月14日。先のイリー・BセッションのDJも彼であっ
たか)という組み合わせによるもの。主導はMMW、そこに出来る範囲でうっ
すらと、非メンバーの二人が加わるという趣向。全面的に有機的に絡むという
わけにはいかなっかたが、そこここに新味はありましたね。

 トリはタブラ・ビート・サイエンス。最初はザキール・フセインのタブラと
美味しいインドの弦楽器奏者とのデュオ演奏。もう、それだけで、インドの特
殊技能はすごいとため息つかせるもの大あり。そこに、ラズウェルとカーシュ
・カーレイが加わる。はったりもあるが、おもしろすぎる。そして、さらにタ
ーンテーブルとキーボードも加わり、持ち味はより広がっていく。計算された
部分(書かれた部分)と鮮やかにインタープレイし合う部分をソツなくだして
いるのは、ラズウェル関与の賜物か。ステージの後ろの蝋燭が綺麗だった。

 相当な自然に、道路や施設がうまくいかされた場所。天気が良かったら相当
に気分が良いはずであり、かなり肉体的にも楽な場所だと思う。で、フェス自
体の運営もユルユルで、メイン会場入場時のリスト・チェック以外、なんのチ
ェックもない。なんでも持ち込め、録音や撮影も可能。受けたら、出演者も鷹
揚にアンコールにも答える。これ、他人の運転でいって、ヘラヘラと飲んだく
れてたら本当に楽しいだろーなーと思う。第2ステージのほうは無料なので、
若い人達は友達と誘い合わせて行き、そちらだけに接してもいいではないか。なお
、両ステージの間にある、通常時にも営業している(と思われる)飲食物販売
の建物では、ビール300 円で売っていた。行く前はなんであんなとこでと思っ
たが、この場所はアリではないかな? 

 あ、木曜にスクーターが出てきました。                
 南青山・ブルーノート東京、ファースト。なんか、機嫌良さそうだったナ。
彼女は楽屋から裸足で出てきて、ステージに立っていた。今回は久しぶりにピ
アノレスの変則編成、アコースティック・ギターやバンジョーを弾くブランド
ン・ロス、ハープのグレゴア・マレ(いろいろと吹いて、けっこう効い
ていたな。ミシェル・ンデゲオチェロやチャーリー・ハンター作などにも参加
している)、ベースのレジヴィ(レジナルド・ヴィール。かつて、彼を雇って
いた大西順子の言い方)、ドラムのテリ・リン・キャリントン、パーカッショ
ンのジェフリー・ヘインズという布陣。みんな、多少『ブルーライト』路線に
戻ったゾと思わせもした昨年作『グラマード』に参加していましたね。実は、
ずうっと『トラヴェリング・マイルス』以降はピアノ付きセットで彼女はパフ
ォーマンスやっていたので(1999年8月27日、1999月9月2日、2001年2月12
日)、より脱ジャズ路線的とも言えるだろう設定でライヴをやるのは本当に久
しぶりのこととなる。うれしい。

 バック・アップ陣はスキンヘッドの打楽器奏者を除いて、みんな細いドレッ
ド。特に、ブランドン・ロスのお洒落な風体には強く納得。80年代初頭にオリ
ヴァー・レイク(2003年11月18日)のバンドにいるころから彼のファンである
ぼくとしては、異才ロスがカサンドラ・バンドに復帰したのはめでたい(10年
前のクレイグ・ストリート主導の奥深い“幽玄路線”はロスの力も大きかった
はず)。彼が日本にやって来るのは94年のカサンドラ・バンドのとき以来(も
ちろん、それは『ブルーライト』のノリのパフォーマンスでした)。ちなみに
、今回が3度目の来日で、最初は92年の菊地雅章の電気バンドでのものだった。

 そのロスはリーダー・アルバムを作ったばかり(純粋なリーダー作としては
初めてとか)で、来週中盤に、フェルナンド・ソウンダース(2003年8月9日
)とのダブルビル公演をカイとモーション・ブルーでやる。そのときのロスの
ギグはトリオ編成でドラムはソウンダース・バンドでも叩くJTルイス(ロス
は彼とハリエット・タブマンというトリオをやっている。秋に新作を録音する
そう)、そしてベースはメルスのフェスティヴァルで見たツトムタケイシ(5
月28日、5月29日)。ロスは彼のことを弟のように思っているとか。なんにせ
よ、来週あたまからアメリカに行くので見れない。残念。

 あ、カサンドラ・ウィルソンのこと何も書いてませんね。七分目の歌、すう
っと感じ入る。ビミョーにやせたかな? 髪の毛は前より金色に。アンコール
で1曲生ギターを手にしたものの、あまり聞こえず。90分ぐらいはやったはず

 NY。20何丁目か(調べ直す根性ありませ〜ん)にあるジャズ・スタンダー
ド。2セット回し(7時半と9時半)の2回目のほうを見る。このジャズ・ク
ラブは初めて来る。非ダウンタウンのクラブながら、かつてトニックでやって
た彼らを引き抜くなど、普通のジャズ・アクトとともに、それなりに尖った
ものも提供しているようだ。予定表を見たら、この16日から3日間はジェイム
ズ・ブラッド・ウルマー、ジャマラディーン・タクーマ、カルヴィン・ウェス
トンという顔ぶれのトリオが出ることになっている! 見てえ。

 この日はスティーヴ・バーンスタインの大型編成バンド。ギター、ベース、
ドラム、ヴァイオリン(ウルマーとやってたこともあるチャールズ・バーナム
)、5管、そしてバーンスタイン(指揮が中心)という布陣。MCによればリ
ズム隊はトラのようだが、ベースはジャズ・パッセンジャーズ/オーネット・
コールマンのプライムタイムのブラッド・ジョーンズだ。少し、嬉しい。音楽
的にはまさにセックスモブの拡大版といった感じ。最初のほうはニューオリン
ズ・ジャズの諧謔再構築といった感が強い曲をやる。あ、カンサス・シティ・
ジャズみたいな感じのときもあったかな。また、カーラ・ブレイ(1999年4月
13日、2000年3月25日)の「歌うのなんか好きじゃない」あたりの頃を思い出
させるところもあったか。
 
 それから、セックスモブ同様にポップ曲のなんとも人間味と知識溢れるアダ
プトをこちらも聞かせる。確か、ザ・ビートルズ曲が2曲、ジミ・ヘンドリッ
クスで知られる「ヘイ・ジョー」など。ちょい、胸キュン。それにしも、ブル
ース・ウィルスをちんちくりんにしたようなバーンスタインは実に役者。冒険
心や野心を持ちつつ、総体としてはとっても楽しいエンターテインメント表現
に帰結させていて、これは夏のジャズ・フェス出演もOKではないかと思う。

 15ドル。終演後、バーンスタインとちらりと言葉を交わしたら、来年2月に
日本に行く、セックスモブでブルーノートに出るよ〜、とのこと。埋まるかな
あ。モーション・ブルー・ヨコハマだったりしてなー。ブッキングが同じなの
で、あちらのミュージシャンはモーション・ブルーをブルーノート・ヨコハマ
だと思っている人がいる。
 わーい、カーネギー・ホールだ。そんなに過度なフィッシュのファンではな
いけど、この由緒正しいホールを一回ぐらいは覗いてみたくて行ってみました
。昔、ジャズ奏者にとってここに出るのは超エスタブリッシュされた証だった
んだよな。小綺麗かつ重厚な建物内物には歴史の積み重ねを伝える写真や印刷
物なんかが額で飾られたり、一角にはそういうものをまとめた展示室もある。
普段はやはりクラシック系の出し物をやっているようだ。87年あたまにロンド
ンのロイヤル・アルバート・ホールに行ったときのことを少し思い出す。<初
老の上品な白人ドアマンと歴史ある建物造形>と<汚いオーディエンスとトイ
レ>の対比が凄かったなあ。そのときは、ジミー・ソマーヴィル、ルビー・タ
ーナー、デビュー直後のテレンス・トレント・ダービーという組み合わせだっ
た。

 ソールドアウトかなあ、でもダフ屋もいるでしょと駄目もとで行き、とりあ
えずボックス・オフィスを探そうとしたら、入口横にチケット片手の人がいる
。お。20ドルの券だけど10ドルでいいと言う。即、買う。ラッキー。それ、4
階席のようであった。トイレに行って階段を登ろうとすると、また別の青年が
25ドルの席と取り替えてくれないと言ってくる。なんでも、ガールフレンドが
そっちのフロアなんだそうだ。ああ、いいよ。というわけで、ぼくは一番下の
フロア席に。へえ、こんなこともあるんだ。プチわらしべ長者キブン?

 オーディエンスは正装の人もいるが、やはりフィッシュヘッズっぽい人も。
当然のことながら、ぼくも普通の格好で行きました。カーネギー・ホールに出
るというのは相当な晴れ舞台のはずで、ヴァーモント(もちろん、フィッシュ
の地元である)からも関係者が大挙来ているのかな? で、肝心の出し物なん
だが、ちゃんとした格好で出てきた楽団員は100 人ぐらいいた。とっても、で
っかいオーケストラ。髭面指揮者いがいは、多分みんな大学生か高校生。で、
ほほうとうなったのはそのレパートリー。もらったプログラムには曲ごとに<
NY初演>とか<ワールド・プレミア>とか書いてあったが(これを、書いて
いる時点でそれがどこかに行っちゃってて、うろ覚えで書いてマス)、これが
どの曲もそれなりにアヴァンギャルドなわけ。手のあいている奏者たちが手拍
子をする曲もあったし、なんとなくフランク・ザッパのオーケストラ表現を思
い出させるものもあった。ほう。ちょっと、ヴァーモントの不思議を感じたか
も。

 2部構成。フィーチャリング・トレイとなっていながらも、アナスタシオ抜
きで2部の最後のほうまで進む。最後の2曲になって、黒いスーツに黒いシャ
ツとタイで決めたアナスタシオが登場。とたんに、ホール内は大騒ぎ。彼はオ
ーケストラにあわせ、生ギターを演奏。うち、1曲はアナスタシオの作曲した
曲で、1曲ではオーケストラ員の女性と歌のデュエットを聞かせた。
 昼間、マイケル・ケイン(2003年11月18日、23日)と会う。この週の頭はN
Yにいないと言っていたが、彼はボストンのニュー・イングランド音楽院で教
えているのか。ようやく、日本での彼のCDリリース(アコースティック・ア
ルバムとエレクトリック・アルバムの2枚だてになるはず)が固まりつつある
。秀逸な現代ジャズのカタチ。その際はみなさん、よろしくされたい。

 そのマイケルもちらりとこぼしていたが、ブッシュ優勢でやりきれない人は
NYでは少なくないようだ。道端で、反ブッシュTシャツ(ブッシュの顔に、
進入禁止の赤丸斜め線のマークを重ねた絵柄)を10ドルで売っている青年もい
た。話はズレるが、ヴィレッジの街頭の新聞の入ったボックス(無人の小さな
透明のやつ)にUTADAのリリース告知のカードが挟んであった。そこでし
か見なかったけど。

 夕方から雨。泊まっているホテルから近い、ヴィレッジの55バーというとこ
ろでの無料ギグにまず行く。アート・リラードという初老のドラマーの、ワン
・ホーンのグループ。他の構成員は20代か。これが、目新しいところは何もな
いが、実にまっとうな寛ぎ系のハード・バップ。ニコニコ、見れましたね。じ
いさんが一人で淡々とやっている店、ピアノを置くスペースはないので、ライ
ヴをやるとするならピアノレス編成となるのか。トイレに行くと、横の壁には
、ハイラム・ブロックとマイク・スターンとレニ・スターンがリーダーのここ
で録音されたライヴ盤が飾ってあった。発売元は日本のキング・レコード。

 その後、ハーレム。アポロ・シアター。実は昨日の昼間に突然アポなしで、
125 丁目イーストにあるオーネット・コールマン所有のハーモロディック・ス
タジオ(管理人はデナード・コールマン)に行こうかと思ったのだが、人と会
ったり買い物とかで時間がなくなり断念。なんだかんだで20回ぐらいはNYに
来ていると思うが、実はアポロ・シアターに行くのは初めて。横を通ったこと
はあっても。ちょうどアマチュア・ナイトをやっていたので、行ってみた。

 外側はそんなに偉そうではないが、中に入るとけっこう立派な、そこそこい
い感じの建物ね。チケットの値段は3段階。どれがいいと思うと窓口で問うと
、じゃ真ん中にすればとチケット販売のおねいちゃんは言う。で、2階席。開
演時間から1時間はたっていたはずで、もちろん始まっている。30代の黒人男
性が司会役をつとめ、出演者はステージ横にあるおまじないのオブジェ(木の
切り株みたいなやつ)を触り、それから熱唱する。もう仲間がたくさん会場に
来ていてやんやの喝采を浴びる人から、なりきりつつも寂しくバラード(リオ
ン・ラッセルの「ソング・フォー・ユー」)を歌う白人まで様々。リーディン
グをする黒人女性もいた。なるほど、こんな感じかなのかなあとイメージして
いたものとそんな違わない感じで、コンペチションは進む。4人のバッキング
陣は喉自慢のバック・バンドのように器用に伴奏を付けていく。なんとミュー
ジカル・ディレクターはレイ・チュウ(キーボード。80年代初頭のNYソウル
・サウンドの立役者の一人)じゃないか。って、それ有名な話なのかもしれな
いが。

 途中、休憩を挟んで、出演者は10人強でたかな(結局、僕が入ったとき歌っ
ていたのが、一番最初の人だったようだ)。ブーイングの嵐による強制退去者
は痩身の黒人青年一人(実は、ぼくはそんなに悪くないと思ったんだが。もっ
とヤバイのいたはず。あんまり、聴衆の拍手はあてにならんとも思った)。突
如サイレンがなり、ポリスの格好をした人が彼をステージからおいたてる。あ
れ、当事者だときついな。全員が歌い終わると、みんなステージに出てきて、
次々に客に拍手を求め、それが多大な3人に絞り、また一から拍手をさせ、二
人に絞り、そして……。という、まだるっこしい手順でウィナーが決まる。そ
の栄誉者にはまた歌わせるかと思ったら、すぐに明るくなり、あっけなくお終
い。ちょっと、拍子抜け。

 会場内には日本人もちらほら。会場内のおじさんたちは臙脂のベストを来て
、そこそこ風情あり。トイレの便器関係は黒。一応、トイレ内にタオル係の制
服おじいさんがいて、せこいペーパー・タオルを渡してくれる。ビミョー。つうか、それ犯罪防止のため?

 その後、ダウンタウンのニッティング・ファクトリーへ。実はここ、経営者
が代わり(創業者マイケル・ドルフ撤退)、もっとロックを多くやる店になっ
た(で、よけいトニック他のハコにそれ系の人達は流れているわけね)。なる
ほど、地下にあった二つのスペース(教室みたいなハコとタップ・バーという
無料ギグをやっていたバーを仕切る壁がなくなり、一つになっていた)。また
、会場内にはATMが設置され、一方で入り口横のバーでディスプレイ販売さ
れていたニッティング・ファクトリー・ワークスのCD群は一切撤去されてい
た。むーん。

 メイン・ルーム(今回、吉祥寺のスター・パインズ・カフェに作りが少し似
ているナと感じる)でこの晩に遅めの時間からやっていたのはクリス・ウィー
トリー。椅子を出してのもの。弾き語り。彼を見るのは、99年初頭にロンドン
で見ていらいだが、エフェクターを使い倒していたあのときと違い、生の感じ
が出ている、もっと強さを持つパフォーマンス。反応もけっこう熱い。彼にと
って、これは地元のライヴとなるのか。やっぱり、リズム音を出してそれにあ
わせてやったりするのだが、簡素なドラマーをやとったらもっともっと聞き味
が良くなるのにと物凄く思った。なお、地下のもう一つのスペースはM.E.A.N.
Y フェスというギター雑誌が主催する何バンドも出る催しをやっていた。ちょ
っと覗かせてもらったら、生理的に白痴きわまりない、ハード・ロックなギ
ター・インストが繰り広げられていた。

ニーコ・ケイス

2004年9月16日
 テキサス州へ。目的都市は州都オースティン。直行が超早朝便しか取れない
というので、のんびりダラスから陸路(4時間ぐらい)オースティン入り。ダ
ラスの双子都市がフォートワース。オーネット・コールマンやキング・カーテ
ィスらを輩出した都市。その近くにいるというだけで、ぼくはちょっとドキド
キしたな。凄い日差し。うわあ、それだけで、南(西)に来たという実感を持
つ。また、テキサス州と言えば、ブッシュの地元。みんな支持者に見えて、居
心地悪いったらありゃしない。同州の一番大きな空港である(コンティネンタ
ル・エアーの本拠地)ヒューストン空港は、父親ジョージ・ブッシュの名が掲
げられている。ふえい。

 夜、外に出たら、もわっとした空気に頭がクラクラする。まさに、熱風。ジ
ャマイカの夜をまじ思い出した。ライヴ・クラブに女性シンガー・ソングライ
ターのニーコ・ケイスを見にいく。けっこう大きなハコ、パリッシュという名前
だったような気もするが忘れた(なんにせよ、ハコの雰囲気と合わないものだ
った)。

 知らないハコに入るのは、非常に嬉しい。前座で手作り感覚に満ちたバンド
がやっていて、だいぶ後からケイスさん登場。北のほうの人というイメージが
あるが、けっいう手触りはルーツっぽいところもあり。ステージの横からトイ
レに行くようになっていて、その通路からステージを見ているとかなり興味深
い。凛とした風情を持つ人のようでした。

 このクラブがあるダウンタウンの6番ストリートはいろんなライヴ・クラブ
がずらりと両側に並んでいる。まじ、壮観。なるほど、オースティンというの
は音楽が盛んな都市であるというのを了解。3月の音楽見本市“サウス・バイ
・サウス・ウェスト”もこの通りを中心に行われるというのもすぐに納得。
 オースティン・シティ・リミッツ(ACL)は今年で3度目となるらしい、
野外音楽フェスティヴァル。オースティンのダウンタウンの川向こうにあるジ
ルカー・パークという巨大公園の一角で、今年は17日〜19日の3日間開かれた
。どばーっと広い細長い楕円形のスペース(丈の短い雑草が一面を覆う。フジ
・ロックのグリーン・ステージ何個ぶんくらいか。ぼくは6個ぶんくらいかと
思ったが、10個ぶんぐらいあるんじゃないのという人もいました)に大小8つ
のステージが設けられていて、そこに130 ものアースティトが出るわけで、規
模は相当にデカい。とはいえ、10分弱で会場最長の部分を横断できるわけで、
距離が近いステージ間では演奏音がカブるものの、相当に移動は楽だ。

 今年は3日間の通しチケット(税抜き80ドル)はソールド・アウトで、3日
間で20万人を軽く越える人出であったという。会場は車の乗り入れが禁止で市
の中心と会場間をシャトル・バスが行き来する(タクシーは近くまで乗り入れ
可能。タクるとホテルからチップ込みで13ドル)。ただ、人が集中する終演後
はすごいバス待ちの列で、歩いて帰ったほうが早い。実際、初日はそうしたの
だが、フジ・ロックのオレンジ・コートからプリンス・ホテルまで歩く距離ぐ
らいでダウンタウンのホテルについちゃいますね。

 出演者はなるほど新旧のルーツ・ロック系が多く(サックスやアコーディオ
ン奏者やペダル・スティール奏者なんかをバンドに擁する比率は、いろんなロ
ック・フェスのなかでもトップクラスに高いのでは)、それはテキサスでの音
楽フェスだなあという気にさせる。もちろん、フランツ・フェルディナンドみ
たいなアクトも出るが。それから、<キャピタル・メトロ>という公営交通が
スポンサーとなるテント・ステージは“ショーケイシング・ゴスペル&ブルー
ズ”という副題つき。ロック・アクトが中心のフェスながら、そこには黒人ア
ーティストがいろいろと出る。一般の野外ステージのほうにも黒人アクトはい
ろいろ出て、黒人音楽ファンにも吉なフェスと言えるだろう。そのぶん、ワー
ルド・ミュージック系やクラブ・ミュージック系の出演者はいない。

 とにかく、歩き易い会場だからちょい見で次々、出演者をチェックしちゃう
。以下、2曲ぐらいしか見ていない人も含め(いろいろ見たかったんだよお。
でも、フェスを見た人のなかでぼくはトップクラスに落ちつきのない奴だった
んだろーな)、以下分かったような気になったアーティストの短い感想をざざ
あと書いていこう(括弧内表記はステージ名)。

●エレクトリック・チャーチ(キャピタル・メトロ、以下CM)
 バプティスト教会系らしい人達で、ゴスペル語彙とクラブ・ミュージック傾
向の生演奏を組み合わせる。途中まではクワイアがついていたが、途中からは
演奏主体に。
●ブラインド・ボーイズ・オブ・アラバマ(SBC)
 おおらかに、堂々と、自然体。客席側に下りた今年のフジ・ロック(グリーン
とオレンジ・コート。後者はベン・ハーパーがゲスト入りした)のときはいか
にじいさんたちが気張っていたかというがよく分かった。
●ヘンリー・バトラー(CM)
 ピアノを弾く盲目のブルーズ・マン、リズム・セクションを率いてのショウ
。かつて、NYで見たときと全然印象が違っていてとまどう。すごく、凛とし
たパフォーマンスで、一部はシンセ経由の声などもブレンドし、彼なりに前を
見たブラック表現をカタチにしており感服した。
●テリ・ヘンドリックス(オースティン・ヴェンチャーズ、以下AV)
 テキサス州サンマルコスをベースとする自作自演派。カントリー・ロック界
のアニ・ディフランコ、てな印象を抱かせるパフォーマンス。かなりにっこり
。レコードを聞くとそこまで弾けてはいなかったが、それなりに才と根性ある
人だと思った。
●ソロモン・バーク(SBC)
 この日のハイライト。もう、演奏、設定、本人の歌、すべてが完璧に決まる
、驚愕のスケールでかいソウル・ショーを展開。ストーリー性も豊か。ぼくが
見たソウル・ショーのなかで一番ではないかと感じたし、オースティンくんだ
りまで来て本当に良かったと思えた。彼のステージ、普段はR&Bに触れてな
い人にもホンモノのR&Bはすごいと無条件に思わすものであったようだ。
●ザ・リジェンダリー・ソウル・スターラーズ(CM)
 王道。来日公演(1999年12月10日)のときと同じ面子かどうかはまったく知
らないが、重厚なパフォーマンスを見せる。それにしても彼らに限らず、ゴス
ペル・グループの人たちはみんな演奏が上手い。
●ライアン・アダムス(SBC)
 ほのかにかっこ良い。オルタナ・カントリーの中心人物という感じの人だが
、実演はとってもジューシィでスウィートな感じもありました。
●トゥーツ&ザ・メイタルズ(シンギュラー)
 レゲエ風味のR&Bショーを展開。「ファンキー・キングストン」をぐい乗
りで一緒にガナり、余は満足じゃ。
●リバース・ブラス・バンド(CM)
 なるほど、ダーティ・ダズン(2004年7月28日。彼らも、3日目に登場した
。日本公演とほぼ同じ)よりも生きがいい。と、思わせられたか。肉声もうま
く用いた。
●ジョー・イーライ(AV)
 テックス・メックス系ヴェテラン、こういう人を見ることが出来ると、オー
スティンのフェスだなと痛感。土臭く、地に足つけて寛いだ演奏を展開。
●ゴメス(ハイネケン)
 けっこう、淡々とショーをこなしていた。でも、米国ルーツ音楽の巧みな応
用を見せる英国の彼らがこういうフェスに出るというのは、なんか意義を感じ
させるか。
●ロス・ロンリー・ボーイズ(シンギュラー)
 米国でバカ売れした、テキサスの3人組(ライヴはサポート二人)。オール
マン、サンタナなどのオールド・ロックの妙味をあっけらかん、ずどんと出し
ていた。子供っぽいという形容もありの、アメリカンな娯楽性もあり。
●シェリル・クロウ(SBC)
 伸び伸び。アンコールには、オースティンが生んだブルース・スター故人、
スティーヴ・レイ・ヴォーンのブルース・ロック曲をやる。なんか、自転車選
手の若い彼氏もステージに出てきたよう。10時ぐらいに終わる。それ以後の、
オールナイトの出し物はない。
 昨日は本当に暑かった。生涯で一番水を飲んだ日となった、と思う。汗もが
んがん出るが、日差し等でけっこう蒸発もする。この日のほうが雲に太陽が隠
れるときもあるなど、少し楽。そして、翌日はさらに過ごしやすいと感じる。
まあ、身体が慣れ、日陰を求めるなど(そうすると、周辺に日陰が多いキャピ
タル・メトロには頻繁に顔を出すようになる)なるべく身体に負荷がかからな
い身の処し方を学習しているせいでもあると思われるが。しかし、これだけ暑
いと、暑さとの関係というのもこっちのほうの音楽性を考える重要要素でもあ
ると痛感させられますね。

 売店関係は充実。とくに、食い物じゃないお店は。食い物はもう少し個性的
な店があってもいいかも。バーク・フェス(2000年8月11日〜13日)では個性
的な店がズラリと並んでいて、豊かさを感じさせられたからなあ。

●シールズ・オブ・フェイス(CM)
 いかにもゴスペル。見た目もまったくもって。
●ホームズ・ブラザーズ(CM)
 ゴスペルのヴェテラン3人組。ギター/ピアノ、ベース、ドラム、みんなヴ
ォーカルを取る。が、2曲を終えたところでベース奏者のシャーマン・ホーム
ズがダウン。以後、ベース抜きでステージは進められる。でも、全然問題なし
。強く、ジューシーで、ずしんはと胸を打つパフォーマンスは二人でなされた
。すごいナ、伝統と経験は。
●ザ・ウェイラーズ(SBC)
 本当はハイネケン・ステージのトリで出るはずだった彼らだが、G・ラヴの
到着遅延で急遽、彼が出るはずのステージに登場。誰がいるのか知らないが、
ボブ・マーリー曲連発。軽い気持ちで、数曲楽しみました。ホーン隊や女性コ
ーラスもつく、10人強によるもの。
●ウォルター“ウルフマン”ワシントン&ザ・ロードマスターズ(CM)
 バンドはもろにザ・ブルーズ・ブラザーズ・バンドのりで、それをもう少し
ファンキーにした感じか。統合型のブルーズ表現を創意とともに作っていると
いう好感想を得る。
●クラレンス“ゲイトマウス”ブラウン(CM)
 頭のほうだけ、ちょい見ました。出てきたとたん、会場内はスタンディング
・オヴェイション。テキサス・ブルーズの大偉人、やっぱ地元で見る彼は格別
なところがあった。のり/曲目は昨年の来日公演(2004年12月14日)とほぼ同
じであったはず。
●ロス・アミーゴス・インヴィシーブレス(ハイネケン)
 ヴェネズエラの変テコ集団。これも、見れて嬉しいって思えた。切れ目ない
ピコピコ電気音にうまく生音を組み合わせ、魅力的な妄想をもあもあと放出し
ていく。英語を使わずスペイン語でMCやってたのに、彼らはステージを去る
ときに「サヨナラ」と言った。日本に来てほしいナ。彼らが良すぎたおかげで
、同時にやっていたマイ・モーニング・ジャケットを見れず。
●ザ・ネヴィル・ブラザーズ(バンク・オブ・アメリカ)
 え、なんでこんなに音が小さいのと非常に困惑。ただ、ビートのある曲はカ
チっと立っていたし、アーロン・ネヴィルをフィーチャーするメロウ曲もしっ
とり。非常に現役感のあるステージであると思う。
●トレイ・アナスタシオ(SBC)
 この日の目玉出演者。彼は1時間強のステージを休憩を挟んで2回やる。ス
タジオ作もライヴ作もフィッシュ以上に素晴らしかったが、この晩も見事に質
を維持。ジャズの腕利きを含む大人数のそれはもう夢のバンドと言いたくなっ
ちゃう? 構成員のシロ・バティスタ(2004年9月5日)は目立ちすぎ。2
部の途中で、ザ・バンドの「イット・メイクス・ノー・ディファレンス」をや
んわりとしたホーン・アレンジ(それはまるで、『ロック・オブ・エイジズ』
におけるアラン・トゥーサンのアレンジのようだった)にて披露。良かった。

 そして、この日はフェス終了後にライヴをはしご。中心地からは少し外れた
ところにあるザ・コンティネンタル・クラブというハコに行く。10時半ぐらい
に行くと少し列になっている。ドアには怖そうな白人のお兄さんがしっかりと
立ち、定員厳守(?)で一人出ると一人入れるという感じ。40分ぐらい待って
やっと入る(土曜の夜だし、混むよなあ)と、もっと入れるじゃんという感じ
ではあるのだが、キャパを頑に守る。というのも、頑固なハコっぽい? ステ
ージはそんなに広くはないが高く、どこからでもけっこう見やすい。前半分は
スタンディングのスペース、一段高い後ろのほうは椅子席もある。中の感じは
、システムは、こうなっているのか。へえ。ライヴ・ヴェニュー評論家の血が
騒ぐ? 奥のほうは飲むだけのスペースやプールがあった。風情あり。このク
ラブ、なかなか歴史があるそうで、なるほどそれは肌で理解できました。

 たしか、18ドル。なかに入るとお目当てのジェイムズ・マクマトリーはすで
にやっていたのだが、これがなんとも勘どころを掴んだ、アーシーで、気骨
ある、渋〜いロックンロールを聞かせる。イエイ。大人の客もやんやの反応。
もう、手応えたっぷり。主役をばっちりもりたてるリズム・セクションも言う
ことなし。80年代後期にソニーと契約していた頃かなり好きだったのだが、少
なくても実演においてはあのころの訴求力や覇気を充実したカタチで維持して
いると言える。かなり入るまでに待たされて見た実演。そりゃ、のんべんだら
りと見られるフェスの出演者に接するのとは重みが全然違うようなあと思いつ
つ、感じいりまくりのワタシでした。

 マクマトリーの後には、メレンキャンプが付く前の、ジョン・クーガーのよ
うな、ちょっと小賢しいぞと思わせる曲をやるロックンローラーが登場。マク
マトリーのあとだとちょっと……。
 最終日となる、3日目。

●ザ・ルーツ(SBC)
 この少し前に日本公演をやっているはずだし(なんかここのところ、半年お
きに来日している感じはないか。2003年12月2日、他)、ほんと働きものだね
。ヒップホップ・ビヨンドでゴー。娯楽性の高いステージ運びで、彼らはフェ
ス向けであるなあと痛感。
●ノース・ミシシッピー・オールスターズ(ハイネケン)
 大層、楽しみにしていたんだけどなあ。2年前にはメンバーになったはずの
、R.L.バーンサイドの息子はステージに登場せずに、旧メンバーの3人で演奏
。悪くはないけど、なんか温いと感じた。
●アンティバラス・アフロビート・オーケストラ(CM)
 NYベースのフェラ・クティ表現再現バンド。実演を見るとドレッド黒人の
肉声担当者が前面に出ていて、印象的。また、別の持ち味、彼らなりのノリが
出る。
●エルヴィス・コステロ(シンギュラー)
 南部録音でロスト・ハイウェイを通した新作を出したコステロが、米国深層
部(?)のフェスに登場。本人がそれに意義を感じていたかどうかは知らない
が、すごく気張っていたのは確か。くそ暑いなか、紫のスーツに同色のギター
をもって、彼は疾走しまくった。新作からは2曲、あとは昔の曲を連発。ふふ
ふ。
●オラベル(CM)
 今年ソニーからデビュー作を出した、ザ・バンドのリヴォン・ヘルムの娘も
メンバーの、NYベースの男女混合バンド。ブルース、ゴスペル他、いろんな
アーシーなルーツ・ミュージックを都会生活者の視点で拾いなおし、軽妙洒脱
なロックとして送り出す。らしくも、非常にあり。レコードの数倍、良かった
な。
●ウィルコ(SBC)
 あたまのほうを見る。彼らの実演を見ていると、もっと今という時を引っか
いてくれと言いたくなる。アコースティック・ギターを使わなければ、ぼくは
彼らをもっともっと好きになれるのに。後半、キャレキシコ(2001年12月18日
、2004年2月25日)のメンバーがホーン隊として加わったという。
●メデスキ・マーティン・ウッド(ハイネケン)
 このフェス出演者でジャズ系は彼らだけだったのかな。飄々、人を喰ったラ
イヴを展開。2004年9月5日の来日公演ときより良かった。
●デイヴィッド・ガーザ(AV)
 え、なんでこんなに味がいいの? もっとしょぼいシンガー・ソングライタ
ーという感じだったのに。一言で言えば、<チカーノ・ロック界のJB>なん
て言いたくなるパフォーマンスを展開。もう歌もギターもなんか癖があってし
ぶとくてひっかかりまくり、バンドもゴツゴツとそれについていく感じ、ぼく
はしびれまくった。おかげで、超楽しみにしていたケイク(良かったみたい
)のライヴをパスしたぐらいだから。

 このフェス、出演者の登場時間はかなり正確だ。だから、余計にタイムテー
ブルを見て、やりくりしたくなる。で、客の99パーセントは非黒人。年齢層は
まんべんなく、平均年齢はかなり高めのはず。それは、日本の地方でやるジャ
ズ祭や、メルス・ニュー・ジャズ・フェス(2004年5月28日〜6月1日)のそ
れとも重なる。どーにもこーにも、地元の人の、ハレの娯楽享受の場なんだよ
ね。

 水やソフト・ドリンク2ドル、ビールは4ドル。食い物は3〜5ドル。ゴミ
はペット・ボトルだけ分別していたが、守らない人も多い。初日の明るいうち
はけっこうみんなマナーがいいなと思っていたが、暗くなったころの会場はゴ
ミだらけ。辟易。あれ、みんな不快じゃないのかな。駄目なアメリカ人。

 繰り返し書くが、ジョージ・ブッシュの本拠地にいて(それでも、オーステ
ィンはブッシュ支持率がテキサス州で一番低いそうだが)、いいフェスだなあ
と思いつつ、どこかで俺はここにいていいのかと感じるところはいつもあった
。それから、今回アメリカはやばいと思ったのは冷房。もう行き返りのコンテ
ィネインタルの機内のそれをはじめ、本当に容赦なく効きまくり。NYにして
も、テキサスにしても。本当に上着が欠かせなかった。なんで、あんなに効か
せる。なぜ、皆それが当然のような顔をしている。電力消費量、冷房に伴う熱
放出量はものすごいはず。地球温暖化の幾ばくかはアメリカの冷房のせいだと
マジに思いました。

 それから、テキサスってメキシコ文化がかなり入ってますね。フェス終了翌
日に寄った、サンアントニオという、なかなか気分の良い観光都市は特にそう
だったけど、なるほどメキやんのもろもろは強いのだなと、今回痛感させられ
ました。
 マーゴス・エレーラはメキシコの女性シンガー/ソング・ライター。ただし
、インディオの血は入っておらず、けっこういいとこの出のようで、デザイン
の勉強ためにイタリア、音楽で行くぞと決めてからはLA(ミュージシャン・
インスティチュート)とボストン(ニュー・イングランド音楽院。現在、マイ
ケル・ケイン:2003年11月18、23日はそこで講師をやってもいる)などに留学
するなどの経験を持つ人。すらりとしててお洒落、へえという感じ。そんな彼
女はブラジルをはじめいろんな要素を取り込んだ視野の広いジャジー・ポップ
を聞かせるのだが、旦那はブラジル人ドラマーとかでブラジル要素の取り込み
の上手さはそこから来ている部分もあるのかな。

 昼下がり、お台場・ウェストプロムナードというメリディアン・ホテルとフ
ジTVに挟まれた野外の場。フィエスタ・メキシカーナという催し(なかなか
、さむい)のなかでの出演。生ギターを弾きながら歌う彼女に、エレピ、縦ベ
ース、旦那のドラムという編成にて。で、これが思った以上にジャズっぽい伴
奏で、彼女もよりジャジーな歌い方をしようとする。直後に取材したら、好き
な人はという問いの筆頭に来たのはカサンドラ・ウィルソン。まあ、シャーデ
ーみたいなのも好きだとはいうが。好きなソングライターはカエターノ・ヴェ
ローゾやスティング。レコーディングに使いたい人は、ジャキス・モレレンバ
ウム、アート・リンゼー(1999年12月9日、2002年9月10日)、ロメロ・ルバ
ンボ(2003年5月6日)、ダニーロ・ペレス(2001年8月3日、2002年8月25
日、2004年2月9日)、アヴィシャイ・コーエンらの名前をすぐに挙げる。次作
はもっともっとジャズっぽい方向に行きたいとのたまう。ピーター・ゲイブリ
エルのWOMAD、ウッドストックやフジロックみたいなロック・フェス、N
YのJVCジャズ・フェスティヴァル、出るとするとどれがいいと聞いたら、
JVCと即答。彼女(たち)、ほんとジャズが好きみたい。

 夜、南青山・ブルーノート東京。セカンド。元P−ファンク、いろんなセッ
ション活動をしつつ、デトロイトをベースに統合型ファンクを作っている黒人
キーボーディストを見る。よくぞ呼んでくれました。

 もう40才は過ぎているはずだが、けっこう若々しい人。キーボード、ベース
、ドラム(ときに、プリセット音併用)、健気なフリ付きの二人の女性コーラ
ス(顔や髪形は違うが身長と体つきが同じ。それって、生理的しっくり来てい
いナ)そして、歌とキーボードの彼という布陣。みんな腕が立つ。また、コー
ラスの使い方(リード・ヴォーカルやサウンドとの絡み方)が非常にエクセレ
ント、やっぱりフィドラーは才がある。

 最初のほうはキーボードを触らず、ヴォーカルに専念。そんなにうまいわけ
ではないが、ちゃんと見せ方を知ってもいる人で違和感なく、感心しつつ、聞
ける。けっこう、フロントに立つライヴをやっているのかな。ボブ・マーリー
の「ゲット・アップ、スタンド・アップ」のキーボードの弾き方みたいだなと
思ったら、そのまま同曲のコール&レスポンスをするなど、引出しはいろいろ
。もちろん、P−ファンクの幻影を見せるときもあったし、スライっぽい断片
を出す場面もあった。そうした豊かな語彙が、一度彼のなかに入って、娯楽性
を忘れない、ときに今っぽい多層表現として溢れ出てくる。うふふ。過剰に客
をあおる(明日のコートニー・パインはそうするんだろうなあ)わけではない
のに、もう客席側も大ノリ。1時間半を軽く超えるパフォーマンスにはもう大
満足。本人たちも本当にキブンが良かったろうなあ。また、秀でた、もう一つ
のアメリカの才能に触れたナという気持ちを強く得た。

コートニー・パイン

2004年9月26日
 また、律儀に見にいく。前に触れたことがあるが、ちょうど業界入りしたと
きに颯爽と出てきた人で、他の人以上に彼のことを親身に思っているところあ
るんだろーな。南青山・ブルーノート東京。セカンド。ほぼ前回(2003年10月
31日)と同じ。いまやヒップホップ色は完全に払拭され、弾力あるバンド・
サウンドのもと、ワン・ホーンにてソロを展開する。ソロの長さは今回のほう
が長いか? うち一曲はちょっとフェラ・クティののりを少し思い出させる。
その様を見ながら、JBビートでもフェラ・ビートでもレゲエのビートでもい
いが、そういう多少立ったビートに乗って、コルトレーンのごとく延々とソロ
を重ねまくるというのが、彼の行くべきところではないかと強く思う。そうい
う点においては、今回のライヴは64点。いちおう、満足はできた。なんでも彼
、長年の功績を認められ、女王さまから勲章をもらったそう。これ、同行者情
報ですが。