ブルーグラス界のレディオヘッド(実際、過去に彼ら「キッドA」をカヴァーしている。2001年10月4日、2004年4月18日、2008年10月4日)なんて言いたくなる、同シーンのレフト・ウィングを颯爽と行く革新派の5人組。なるほどの実演で、よおしって聴後感は山ほど。逆に言うと、旧来のブルーグラス愛好者は何かと感情移入できない出し物であったんではないかなー。南青山・ブルーノート東京、セカンド・ショウ。

 マンドリン(リード・ヴォーカルはこの楽器担当であるリーダーのクリス・シーリーが取る)、フィドル、バンジョー、アコースティック・ギター、ウッド・ベースという弦楽器奏者がずらりとドラムレスで揃う編成は、まことブルーグラス。そして、時に技巧ひけらかしのインスト・ナンバーを入れたりするのも、ブルーグラス的(ひいては、ケルティック・トラッド的)。マイク一本だけをステージ上に置いて面々がそれを囲むという、とってもアコースティックというか手作り感覚に満ちた設定のもと表現を繰り出すという部分も、ぼくにはロック的というよりやはりブルーグラスの文化に沿ったものであるように思えた。

 だが、その一方で、面々の技巧、楽器音の重なり、楽曲のメロディ・センスなどは大きくブルーグラスから飛び出したもの。そんな彼らのパフォーマンスに触れていると、クラシックやジャズやコンテンポラリーなポップ・ミュージックなどとも向き合った、オルタナティヴなアコースティック表現であると痛感してしまう。伝統様式と今様な好奇心と汎用性の高い歌心が綱引きしあうその実演の情報量の多さはちょっとしたものであり、よくぞまあこんなに世間を舐めたとも言いたくなるような我が道を行く俯瞰型飛躍表現を作り上げたと思ってしまう。

 なんて分かったようなことを書いているが、T・ボーン・バーネットがプロデュースしたことで、その2015年作から彼らを聞くようになった者ではあるんですけどね。でも、パンチ・ブラザースは2007年以降、ずっとすべてのアルバムを大人な趣味のレーベル“ノンサッチ”から出しているわけで、結成当初からブルーグラスから“ワープ”したことをやろうとしたことは間違いない。シーリーたち、メンバーはそれぞれのプロジェクトもいろいろ求めていて、なんか宿題をもらった気持ちにもなってしまった。

▶過去の、レディオヘッド
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-10.htm
http://43142.diarynote.jp/200404180058130000/
http://43142.diarynote.jp/200810061856366600/

<今日の、会場>
 入り口に近い方に座っていたら、後から入場してきた知り合いが次々に肩を叩いていく。知人率の高い公演でもあったのだろうな。まあ、ブルーグラスの愛好者よりも、新しい米国の土着系ロックを聞かんとする人の比率が高かったとも言えるのだろうけど。彼らの出演は3日間、場内は立ち見の出る盛況だった。この晩のことは、日経新聞の電子版にじきに出ます。