日曜の午後、現代音楽作曲家/ピアニストといろんな部分で枠越えしているバリトン・サックス奏者(2004年8月20日、2004年10月10日、2006年7月3 日、2012年12月11日、2014年7月22日)のデュオ録音作『N/Y』(アポロ・サウンズ)のリリースを受けての、CD試聴会に行く。四谷・いーぐる 。実際のCD を同所の確かなオーディオ装置のもとずばんとかけ、ピアノの新垣、バリサックスの吉田、そしてアルバム・プロデューサーの村井康司の三人がレコーディングに至った経緯や、レコーディングの模様などについて話すとともに、質疑応答にもこたえる。

  終盤は2人が、デュオ演奏を生披露。いーぐる は地下店舗ゆえピアノをいれることは叶わず、電気キーボード(デカいコルグだった)にてピアノ代行。そこでの、秀でた音楽家の息づかいや思惑や音楽的本能の様々な丁々発止は、まさに広い世界を抱えたもう一つのジャズ表現と思わせる。ああ、これはありそうでなかったもので、あっさりと横のほうから、ジャズの領域を少し広げているナと思わせる部分もありますね。

 そして、生演奏を聞いても深く感じたが、『N/Y』は本当にバリトン・サックスの音が溢れたアルバム。ぼくはこんなにバリトン・サックスの音が入ったCD、バリトンの様々な音や表情を収めた作品を他に知らない。『N/Y』はベヒシュタインというメイカーのピアノが入っているホールで一発録りされているが、その雄弁なバリトン・サックス音をちゃんと録るのは難儀だったのはないだろうか。

 アートと、茶目っ気やほんの一握りの下世話さをかかえた、楽器音が描く線のシェイプがとても綺麗なインプロヴィゼーション表現。アルバムの素材はお互いが持ち寄った曲や共作、さらにガーシュインやエリントン、武満徹曲など。もちろん、フリー・フォーム気味に楽器音を出し合う即興傾向曲もあり。新垣のピアノ音/演奏は現代音楽畑であることを高潔な佇まいの奥に滲ませつつ、瞬発力と裏腹の平易な粒だちと歌心を抱えている。とともに、随所から“いい人なんだろうなあ”という、冷たくならない温もりのようなものも出していた。人間がやっていることが見えるCDを勧めてなんて言われたら(言ってくる人はいないだろうけど)、今なら『N/Y』を迷わず挙げます。
▶過去の、吉田隆一
http://43142.diarynote.jp/?day=20040820
http://43142.diarynote.jp/200410162220330000/
http://43142.diarynote.jp/?day=20060703
http://43142.diarynote.jp/?day=20121211
http://43142.diarynote.jp/201407231341189225/

 その後は、南青山・ブルーノート東京(セカンド・ショウ)で、1980年代あたまのスタジオ・ミュージシャン意識発揚/フュージョン隆盛から生まれた、ヴァイブラフォン奏者のマイク・マイニエリ(2010年9月5日)をリーダーとする、コンテンポラリー・ジャズ・バンドを見る。普段はナンパなこともやっている俺たちの生活感覚や広い音楽観をいかした、自らの悦楽ともつながる真摯なジャズ表現を標榜しよう。と、そんな指針が、まずあったのかな。そして、テナー・サックスの故マイケル・ブレッカー(2000年3月2日、2004年2月13日)、ドラムのスティーヴ・ガッド(2004年1月27日、2010年12月1日、2012年11月26日、2013年9 月3日、2014年10月17日)、縦ベースのエディ・ゴメス(2014年10月17日)、ピアノの故ドン・グロルニックが、マイニエリのもとに最初合流した。

 この晩の顔ぶれは、マイク・マイニエリにくわえ、ピアノのイリアーヌ・イリアス(2006年6月28日)、イリアスの現旦那でもあるウッド・ベースのマーク・ジョンソン(2006年6月28日)、テナー・サックスのボブ・シェパード( 2004年2月13日、2014年11月22日、2014年11月22日)、ドラムのピーター・アースキン(2012年6月21日、2013年6月26日、2014年12月14日)。イリアスやアースキンは、彼らがエレクトラ・ミュージシャンと契約したころ(1983年)のメンバーだ。

 そんなクインテットによる演奏はとても自然体で、まことジャズ。フュージョン的丸さや電気的楽器音やポップ音楽要素の差し込みが皆無で、ジャズ/フュージョン界を生きぬいてきた面々の体内に現在温めるジャズ観を奇をてらわず重ね合っていると思えたか。楽器音がぶつからず噛み合っているあたりは、そんな彼らの面目躍如と言える。

 かつてはプロデューシングなど音のまとめ役としての才も発揮したマイニエリは、現在76歳。今回は完全にヴァイブラフォン奏者として前面に立つ。彼、かなり弾いたな。で、その音はしっかり一音一音が聞こえるもので、それは一鍵ごとに音を拾うピックアップを取り付けているからのようで、その音は同業者から見ると驚愕モノであるらしい。かつては、電気的エフェクトもヴァイブ音にごんごんかけていたはずだが、この晩は本来のヴァイブラフォン音を最良のものとして拾い上げ、その先に達者な演奏者としての姿を仁王立ちさせていた。なお、マレットは1本づつ持って演奏する場合が多かった。

 そんな指針にあわせたイリアスの演奏にも少し驚く。フツーのジャズ・ピアニストであることをまっとうしていたもん。彼女はヴォーカル作を出す一方、マーク・ジョンソンとの連名でデュオ基調作『Swept Away』を2012年にECMからリリースしているが、あれは耽美調主体の演奏だったからなあ。ぼくはこの晩の達者な指の裁きに触れて、なぜかシダー・ウォルトンの名を思い浮かべてしまった。ありゃ。昔、ブラジルの天才ジャズ・ピアノ少女と騒がれたことがあったという逸話も、それは思い出させた? それから、かなり大人の演奏をしていたジョンソンではあったが、最後に与えられたソロの演奏は興味深し。それ、西アフリカの弦楽器の音をウッド・ベースに移し替えた、と言いたくなるものであったから。

▶過去の、マイク・マイニエリ
http://43142.diarynote.jp/201009171511588216/
▶過去の、マイケル・ブレッカー
http://43142.diarynote.jp/200402171832080000/
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-3.htm
▶過去の、エディ・ゴメス
http://43142.diarynote.jp/201410220711345595/
▶過去の、スティーヴ・ガッド
http://43142.diarynote.jp/200402051855170000/
http://43142.diarynote.jp/201012051903113851/
http://43142.diarynote.jp/201212101904379741/
http://43142.diarynote.jp/201312171510083393/
http://43142.diarynote.jp/201410220711345595/
▶過去の、イリアーヌ・イリアス
http://43142.diarynote.jp/200607041956350000/
▶過去の、マーク・ジョンソン
http://43142.diarynote.jp/200607041956350000/
▶過去の、ボブ・シェパード
http://43142.diarynote.jp/200402171832080000/
http://43142.diarynote.jp/201411251049018018/
http://43142.diarynote.jp/201411251049018018/
▶過去の、ピーター・アースキン
http://43142.diarynote.jp/201207031311348277/
http://43142.diarynote.jp/201306271617516710/
http://43142.diarynote.jp/201412281017371613/

<今日の、勘違い>
 明日あるはずのミーティングが、インフルエンザにてごめんさい延期を〜、という連絡が入る。真冬、インフルエンザにかかっちゃう人が回りで散見されるな。……考えてみたら、ぼくはインフルエンザにかかった事がないことを認知する。少なくても、自覚したことはなし。まあ、風邪ぐらいでは医者にいかないからなー。オレって丈夫なのかと一瞬おもったが、それは、普段昼間は人と交わらず原稿仕事をしているからで、勤め人と比較すると病原菌に触れる度合いがとても低いからであると悟る。ただし、夜はコンサート会場や飲み屋とか、かなり人ごみには行くんだけどなー。話はかわるが、30代の編集者の仕事メールの最後に、こんなことが書いてあった。<ところで、ギックリ腰になってしまいました。5年ぶり4回目みたいな感じなので、すでに慣れっこなんですが、英輔さんもお気をつけてくださいー! 寒さで腰の筋肉とかが縮こまっていると思いますので。ストレッチ、ストレッチです!>。オレ、なんの運動もしてないけど、ぎっくり腰にもかかった事はない。それ、箸より重いものを持つと脱臼するう、とか、世間をなめている発言を日々しているおかげか?