楽しかったア。月並みな言い方になるが、山あり、谷あり。次はどんな行き方をするの、見せ方をするの? そう、受け手に思わせ、なんのストレスもなく引きつけた。あと、その底辺には、やはりイギリスっぽいと思わせる何らかの感覚があって、それもマルだった。

 歌とピアニカと進行役や狂言回し役のギャズ・メイオールを中心に、管楽器が5本(2テナー、アルト、トランペット、トロンボーン)、ヴァイオリン、ギター、ベース、ドラム、パーカッション、女性ヴォーカルという編成。そのシンガーは当初予定の人物から変更されたようだが、メイオールとの絡みも性格良さそうに笑顔でこなし、何の問題もない。ザ・トロージャンズの初来日は1988年で、メイオールのMCによれば、そのときのメンバーが今も4人残っているそうな。ホーン・プレイヤーのうち、トレンペッターのエディ“タンタン”ソーントンとトロンボーン奏者のヴィン・ゴードンはジャマイカの重鎮奏者たち。で、ゴードンさんのヤクザな雰囲気はもう最高、タンタンはいろんな所作が人情に満ちていて、それも花マル。タンタンは11月のクール・ワイズ・マン(2009年5月30日)のライヴ数カ所に加わるようだ。

 スカ曲やロック・ステディ曲はとうぜんのこと、スカのビートのもと日本の曲をやったり、ケルト調曲をやったり(その際は、テナーの一人は笛を吹く)、タンタンが歌ったり(そのブルース・コード曲での歌唱、本当にいい感じだった)、管楽器奏者やヴァイオリン奏者が曲ごとにフィーチャーされたり。ヴァイオリン奏者のそれ、イケてた。日本曲「荒城の月」のときはメイオールとともに、今年入籍したという奥さんもステージに出て来て一緒に歌う。だいぶ前のフジ・ロックのスカ・クバーノ(2005年7月29日)のときにも入っていた在英日本人サックス奏者(この晩はアルト・サックスに専念)のメグミ・メサクのMCによれば、奥様は一ヶ月この曲を練習したという。福島県相馬市出身で英国で被災地への慈善活動もしているような彼女も、いくつか見せ場を与えられ活躍。彼女の自己グループ表現にも触れてみたいな。

 荒い部分もあったりとか不備がないわけではないが、それを超えるサーヴィス精神と、心意気と、みんなで楽しみを分け合っちゃえてなパーティ感覚が一杯で、こりゃ言うことないという気分を引き出す。これぞ、大衆音楽なんて感想も湧き出て、ぼくは喝采を送っていた。

 実はかつてフジ・ロックのオフで見かけたときのギャズ・メイオールには、洒落者の伊達男という印象を強く、ぼくは持った。だが、関西の旧世代の芸人が着そうなキンキラのスーツを身に着けたこの晩の彼はとっても泥臭いマナーのもと、受け手に両手を差し伸べていた。それ、ちょっと意外であったのだが、年相応(50代半ばか)に彼のエンターテインメント感覚が変化してきているところがあるのではないか。少し体つきが太くなったなという所感も得たが、彼の音楽提供者としての姿勢もよりぶっとくなっているのだと思う。

<今日の、追記>
 キュートなミックス女性である同行シンガーのホリー・クックは、なんとザ・セックス・ピストルズのドラマーであったポール・クックの娘なのだとか。父は一時ザ・スリッツで叩いたことがあったが、彼女は再結成ザ・スリッツにも参画しているらしい。愛らしいレゲエ作も出している二世ミュージシャンのクック嬢に接していたら、ブリティッシュ・ブルースの父なんても言われる、ギャズ・メイオールの父親であるジョン・メイオールのこともふと思いだす。まだ、亡くなったという話は聞かないので存命なのだろうな。まさに、英国ロック史上にその名前が燦然と輝く偉人。その父親のことは昔から認知していたが、ぼくはあまり聞いたことはない。彼のことを聞いている世代は、ぼくよりも少し年長の世代だろう。とともに、ブルースは黒人がやってこそ吉という思いも持っていたので、後追い的に聞いてみようかということもなかった。が、例外的に1枚だけ彼のアルバムを持っていて、それはエルトン・ジョンなんかもかつて属したこともある英国DJMレコードから1979年にリリースされた『Bottom Line』。米国での3つのセッションを基にした同作は、コーネル・デュプリー(2010年8月31日、他)、リオン・ペンダーヴィス(2009年7月14日)、スティーヴ・ジョーダン(2010年10月26日、他)、シェリル・リン(2012年8月15日)ら実力者を擁したもので、ブルースというよりはどすこいファンキー志向を持つ。息子と同様に歌は軽いが、なんか楽に聞けて大昔たまに聞いていたことがあった。もう四半世紀はそれを聞いていないが、そのオープナーはセカンド・ライン調ではなかったか。蛇足だが、非ニューオーリンズ属性の人でセカンド・ラインもどきをやっているので一時ニンマリ聞いていたのは、フリー・ジャズ系ピアノ故人のドン・プーレンの異色作『Tomorrow’s Promises』(Atlantic,1977年)の1曲目「ビッグ・アリス」。そして、DJするとしたら、そこからぼくは坂本龍一の「エチュード」(1984年『音楽図鑑』収録)に持っていきたくなる? でも、あの曲後半説明っぽくなるから適さないか。あ、そういえば、大昔ギャズ・メイオールが作ったミックス・テープを友人からもらって、車の中でほいほいかけていたことがありました。