<スペイン音楽フェスティバル~祭典の日>という表題も付けられた、立脚する地域や音楽傾向の異なる3組のスペイン人担い手が登場する出し物。錦糸町・すみだトリフォニーホール。その3つの出演者たちにはそれぞれ打楽器奏者がいたが、用いる楽器も、抑揚もアクセントも全く違っており、それを見ても、三者はまったく異なることをやっていたのは明らか。当たり前だが、スペインって広いナ。

 一番目はバスク地方出身の打楽器2人組、オレカTX。彼らはチャラパルタという、1メートル強四方に7枚の木の平板(見た目は、ただの木片)を並べた同地の伝統楽器を木の太いバチで連弾する。その音は反復音的と言えるものであり、打楽器と音階楽器の役割を簡素に兼ね備えるものだが、そこに音楽的骨格を強化する生ギターを中心とするマルチ系奏者が伴奏者としてつき、さらには背後に映し出される映像とシンクロするプリセット音も寄り添う。その映像はインド、北極、北アフリカ、モンゴルなどに出向いて作られた彼らの2作目『ノマダクTX』(ワールド・ヴィレッジ)の制作過程をドキュメントした映画「遊牧のチャパラルタ〜バスク幻の伝統打楽器奏者オレカTXの旅〜」をソースとするもの。その映画での2人の好奇心旺盛な態度に触れてしまうと、実演は多少窮屈な感じも得てしまうが、自らの根っこに立脚しているからこそのしなやかな態度やナイス・ガイぶりはよく伝わってきた。

 続いて出て来たのは、アンダルシア地方の気鋭のフラメンコ・ピアニストのP・リカルド・ミーニョ。フラメンコ・ギタリストとダンサーを両親に持ち、本人はアメリカの大学でクラシックも学んだという経歴を持つようだが、なるほどそうした積み重ねが素直に出るような、多少高尚目のパフォーマンスを披露する。何気に色男ふうな気分をふりまくのも、らしいナ。彼の演奏には、カホン奏者と男女のダンサー(女性のほうは日本人。遠目にはそう見えなかったが)がついた。

 そして、休憩を挟み、メイン・アクトたる、スペインのケルト文化圏であるガリシア地方のガイタ(バグ・パイプ)奏者のカルロス・ヌニェス(1999年12月19日、2001年10月9日、2003年12月12日、2003年12月20日)が登場する。ホイッスル(縦笛)も吹く彼に加え、10弦ギター奏者、ボーランからバカでかい太鼓までいろんなものを扱う打楽器奏者、女性フィドル奏者(彼女のみ、アイルランド人)という布陣でパフォーマンス。で、演奏が始まると、楽器音やそれら音の重なり方が生理的に柔和であるのに、大きく頷く。それは、前の2組の出し物との対比から強く感じさせるものでもあったのだが、そこにヌニェスたちの多大なワザや経験をぼくは感じてしまった。

 一部には日本人バグ・パイプ集団も加わったが、それだけでなく、本編の一部とアンコールで、先に出た2組の出演者全員がヌニェス組に加わったのには驚かされた。先に書いたように、この3組は明らかに文化や流儀が違うのにもかかわらず。また、スペインは地方独歩の意識が強い反動で全国的ユニティの気持ちが薄い(ゆえに、スペインのサッカーの水準は高いのにナショナル・チームになると成績がいまいち、なんてことはかつてよく言われた)はずなのに、スペイン各地の担い手がうれしそうに歩み寄り、重なっていたのには目が点。違和感もなくて、へえ。ヌニェスもこんなこと実現できちゃうのは日本でしかない、みたいな感激MCをしていた。そして、彼がびっくりするぐらい、ステージ上で興奮しているのが分り、それにも驚く。あんなホットな彼には初めて触れるような気がしたけど、その後知人と流れた先でもその様は話題にのぼった。

<今日の、昼間>
 都内、真夏日でーす。記録更新らしい。なんか、昼間すれ違った人々の寛ぎ度が高いような。気のせいかな。