レトロ・ソウル方向にある手作り表現を標榜する米国人男性デュオを、フィンランドのまったりソウル・バンドでけっこうなキャリアを持つザ・ソウル・インヴェスティゲイターズがサポートする公演。マイロン& Eの2013年デビュー作『Broadway』もザ・ソウル・インヴェスティゲイターズが伴奏を付けている。

 ザ・ソウル・インヴェスティゲイターズは2000年代半ばには、ジミ・テナーと結婚してフィンランドに住むようになった元リパーカッションズのニコル・ウィルズをサポートしたアルバムが日本発売されたこともあった(追記、わーその両者の7年ぶりの新作もこの5月にP-ヴァインから出ていた)。それで、今回の彼らの編成はドラム、ベース、ギター、オルガン、トランペット(一部フリューゲルホーン)、トロンボーン(一部フルート)。管の2人の一生懸命なフリはほほえましかったな。六本木・ビルボードライブ東京、ファースト・ショウ。

 マイロン・グラスパーとエリック”E・ダ・ボス”クック、フロントに立つ痩身のお二人は蝶ネクタイとネクタイ、ジャケットやカーディガンをとっぽく身につける。ノリとしては、フランスのレトロ・ソウルの才人であるベン・ロンクル・ソウル(2012年3月17日)とつながるものであり(両者のアルバム・ジャケットのノリも離れてはいない)、ヒップホップ系ヤンキー臭を感じさせない。とはいえ、彼らは西海岸の技ありヒップホップ・チームのブラッカリシャスとかつては活動を共にしていたし、アルバム発売元もストーン・スロウということで、ヒップホップとの接点はいろいろ持っているはずではあるのだが。

 いや、逆に今回のパフォーマンスを見て、彼らがソウルがメインストリームだった時代以降の土壌にあることを、ぼくは感じてしまった。というのも、その歌唱はどこかぎこちない。ピリっとしない。それはバック・バンドを務める、ザ・ソウル・インヴェスティゲイターズも同様。だが、仲良く、その両チームが重なる様を見ながら、ぼくはある種の<ソウルも遠くなりにけり>的な感覚を覚えてしまったのだ。ヒップホップを通っているマイロン& Eは、そして本場から離れた北欧のザ・ソウル・インヴェスティゲイターズの面々は、王道のソウルを遠くにあるものと感じ、それを遠くから見るような感覚で見た末に、どこか正統とは距離感を抱えた自分たちのソウル表現として押し出す。そうした共通点があるからこそ、出自のまったく異なる両者は無理なく重なっている……。ぼくは、そう感じずにはいられなかった。

 その後は、下北沢に。GARDENで“下北JAZZ FLOWER”というイヴェントをやっている。その第一回となるもののようで、出演者は日本DJ 界有力者たちが中心となった生音中心ユニットのトレメンと在仏レバノン人トランペッターであるイブラヒム・マーロフ(2012年9月8日)。ぼくが会場入りしたときは、2番目登場者のマーロフ・バンドの演奏が始まって少しのとき。エレクトリック・ピアノ、電気ギター、電気フレットレス・ベース、ドラムに加え、管奏者が3人で、それらは皆トランペット奏者。つまり、マーロフを加えると、トレンペッターが4人もいる! なんと酔狂な。

 1970年代頭にチェイスというトランペット奏者が4人いるブラス・ロック・バンドが人気を集めた(コロムビア発の1971年デビュー作は、同年米国で一番売れたアルバムと言われる)ことがあったが、まさにそれを思わせる。というのは全くの嘘だが、なんかほんわかした哀愁がじんわりにじみ出る様は、現代版レバノンのザ・ティファナ・ブラスと言いたくなる感じもあった。ザ・ティファナ・ブラスは、A&M創設者でもあるトランペッターのハーブ・アルパートが組んでいたマリアッチ応用のバンドですね。

 前回公演よりも、妄想の感覚たっぷりのエクレクティックな音楽性が整理され、より濃い印象を与えるようになった。マーロフもよりソロを取るようになり、ワザ者であることを分りやすくアピール。やっぱり、愛らしい妙さが秀でた技量を介してこれでもかと届けられ、こういう今のジャズ的表現があってもいいと思わされる。彼らは“イリュージョンズ・ツアー”と名付けた楽旅の最中で、韓国から来て、この後は中国3カ所を経て、欧州を回るようだ。


<今朝の、?>
 ライヴを見た後、まわりまわって、早朝帰宅。アイス食べたくなったので(ここんところ、また気温が高めだな)、コンビニの前でタクシーを降りる。おいおい、オマエ、なにサンドウィッチも買ってんだよオ? とぼとぼ家に向かい歩いて行くと、仲良く運動着っぽい格好で散歩している老夫婦とすれちがう。早起きだな? 毎朝、やってるのかな? この時期は一番適した季節だろうな? (すれちがう)……ん? ふと振り返ると、旦那さんのほう、手にバールのようなものを持っている。まだ、暗かったし、酔っぱらっていたので、断言はできないものの。あれェ〜?