大昔ぼくの大アイドルであった(2003年8月9日といったような、やりとりもありました)大越境テナー・サックス奏者(2012年9月28日、他)のなかなかスペシャルな出しもの。南青山・ブルーノート東京、初日のセカンド・ショウ。

 一応、今回来日につながる流れを書いておくと、彼はこの6月にインフィニティ・カルテット名義で新作をリリース。それはグレゴリー・ポーター(2013年3月6日)やメイシー・グレイ(2012年10月17日、他)をシンガーに擁してもいるアルバムで、そのマレイ作曲のヴォーカル・ナンバーの歌詞はキップ・ハンラハン(2011年12月8日、他)との関わりでも知られるイシュマエル・リードやザ・ラスト・ポエッツのアビオドゥン・オイウォレというリーディング名士が担当。と同時に、そのインフィニティ・カルテットはメイシー・グレイを伴うカタチで北米や欧州のジャズ・フェス出演を怒濤でこなしてきた。

 そして、マレイやメイシー・グレイは日本にもやってきたのだが、なんと日本で予定されたのべ6日の公演は特別設定。太っ腹に全17人のビッグ・バンドに拡大しての編成で、彼らは来日した。長年欧州に居住しているマレイは現在スイスに住んでいるようだが、ビッグ・バンドの面々の多くはアメリカ人のよう。いろんなフリー・ジャズ系アルバムに参加しているバリトン・サックスのアレックス・ハーディングやサン・ラー・アーケストラ((2000年8月14 日、2002年9月7日、2003年7月25日)からジャイムズ・カーター(2013年2月26日)やアート・アンサンブル・オブ・シカゴなどで弾いているシャリブ・ハシド(ベース。今回は曲により電気と縦を使い分けていた)などの強者を含む。全員アフリカ系で、アルト・サックスの一人は若い女性だった。それから、若いギタリストの名前は、ミンガス・マレイ。マレイの息子かな? チャールズ・ミンガスから取られたファースト・ネームを持つ人物であるのは間違いがないだろうけど。当初から、マレイはジェイムズ・ブラッド・ウルマーと懇意にしていたのもふと思い出した。この11月30日にはフランスのミュルーズで、マレイとウルマーの共演公演が組まれている。

 で、一曲目はなかなかアヴァンギャルドなアレンジを取り各奏者にも飛び気味のソロを取らせる曲でおおっ。ただし、2回やったマレイのメンバー紹介は紙片を見てのもの(つまり、奏者達の名前をちゃんと覚えていないということでしょう)で、まだ万全の重なりを見せるというものではなかった。だが、設定やアレンジ自体がけっこう変テコでとっ散らかって聞こえる指針を取るものであり、これはかつてドイツで聞いて不満を覚えた彼のラテン・ビッグ・バンド(2004年6月6日)と異なり、おおいにマレイがやる意義ありと頷く。

 思った以上にメイシー・グレイはステージにいてバンド音と絡み(全体の5分の3ぐらい?)彼女が出てきた後は、ブルージィ度やR&B濃度が高い曲もやった。やはり、彼女は声だけで納得させるものがあるし、すでにマレイのカルテットとは20カ所ほどでショウをやっているため、重なりの様には余裕があった。マレイは基本バンドを指揮することに重きを置き、ソロは何曲かで取ったが、1980年代前半までのそれに比べればほとんど冗談みたいなものなので(それほど、昔のマレイはすべてにおいて、他の人とは異なる大地に立って、威風堂々自分をまっとうしていた)、それでいいと思う。彼の指揮の仕方は嬉々として派手で、それはアトラクティヴ。見ていて、楽しい。そののりで続けてという意志を管奏者たちに出す際、両手をくっつけて△マークを作り、頭の上に掲げるというサインの出し方をするときもあった。

 最後の曲はまずメイシー・グレイがステージをおり、その後ビッグ・バンドの管楽器奏者たちは演奏しながら楽屋に帰っていくという設定。アンコールなしの本編はたっぷり100分。わーい。


<今日の、メイシー>
 彼女は一度着替える。最初は黒基調、2度目は赤基調の格好。終盤は力づくの客扱いで、場内は総立ち、そしてコール&レスポンス。おお、いやはや。まさか、ジャズのビッグ・バンド公演で、そういう様が見られようとは。彼らは北海道の野外フェスに出たあと、ここに3日間出演し、名古屋公演を経て、フジ・ロック・フェスティヴァルに出演する。この内容(マレイの指揮の様も目を引くだろうし)で、メイシー・グレイ(ピンでごんごん人気を得ていた時期、ちょうど10年前のフジ・ロックのグリーン・ステージの単独出演者だったこともある。その直後の東京単独公演は、2003年7月28日)がこの晩のように観客に働きかければ、きっと苗場でも大受けすると思う。日本ツアー後、またカルテット仕様に戻り、両者は楽旅する。ただし、8月30日のデトロイト・ジャズ・フェスティヴァル(なんか、ビル・フリゼール〜2011年1月30日、他〜がジョン・レノン曲弾きプロジェクトをやったり、チャールズ・ロイド〜2013年1月6日、他〜と一緒にやったりと、大車輪みたい)は海外では唯一、ビッグ・バンドでのパフォーマンス。同市の財政破綻とジャス・フェスが関係ないようなのは、なにより。