ラフォーレミュージアム原宿にて、個性と視点を持つ女性シンガーが中央にいる3アクトが登場。

 まず、ハイチ人の両親を持つカナダ生まれのシンガー・ソングライターであるメリッサ・ラヴォー(2007年11月30日)がウッド・ベーシスト(マダガスカル出身で東洋の血も入っているらしい。なんとなく、お洒落)を伴ってパフォーマンス。前回見たときとかなり得る所感が違う。もっと快活で堂々、訴求力あり。初来日時は根暗な感じがあってまずトレイシー・チャップマンを思い浮かべたが、今回はパーカッシヴなギター裁きで歌ったときには、ふとキザイア・ジョーンズを思い浮かべたりもしたもの。それから、歌心の行方の感じ(と、また曖昧な言い方をするなあ)から、アシャ(2008年9月10日、他)と重なるもの少し覚えるか。大学(専攻は理系でした)を出て現在は契約レコード会社(ノー・フォーマット)があるパリに住む彼女だが、あのときは卒論のせいでとってもどよ〜んとなっていたらしい。そういえば、そのブレイズ頭をさして、「これがもっとカラフルな色だと、ジョージ・クリントンになるよね」とぼくが言うと彼女は破顔一笑し、そうよねー。ハイチ・ルーツとはいえカナダ生まれ、普通に米英のポップ・ミュージックをいろいろ聞いてきている人。親はハイチ出身であることを言わない人で、自分でルーツに興味を持っていったそう。

 続いて、かつての渋谷系の歌姫的存在のカヒミ・カリィ(2006年1月21日)が近年付き合いを持っている強者たちを従えて登場。ギターの大友良英(2004年2月6日、2004年10月10日、2004年11月7日、2006年4月18日、2007年4月21日、他)、ベースやギターや装置のジム・オルーク(2000年3月25日、2001年2月21日、2006年4月18日、2006年10月22日、2007年4月20日、2008年8月24日、他)、そして蛍光管を用いた自作装置であるオプトロムの伊東篤宏(2007年4月21日)がやんわり重なり、流れる淡い音を出し、そこにカヒミが言葉を漂わす。ぼくにはよくその真価がわからなかった。

 そして、全曲英語で歌っているのにデビュー作が本国で10万枚というセールスを上げてしまった、フランスの新進モリアーティが登場。けっこう日本語にも興味を持つ面々はみんな英語も話すとか。それ、フランス人としては珍しいという。ステージ上にはソファーなどがおかれ、イメージはリヴィング・ルームといった感じ。そして、通常のギグでは鹿のアタマもまたメンバーのように鎮座させるというが、同行(?)させていない今回は東京で熊の人形を調達。それは、ジローと名付けられていたよう。なんか、そういう設定は、アレステッド・ディヴェロップメントを思い出させる?

 で、びっくり。こんなに芸達者な連中がそろったバンド(5人+サポートのドラマー)で、ここまで手触りのいいエンターテインメント表現を送り出す人たちだったとは。米国のルーツ・ミュージック各種を中心に欧州キャヴァレー調から少しのワールド・ミュージック興味などをないまぜにし、地域軸と時間軸をすっとばしたストーリー・テリングに長けた手作り音楽を彼らは送り出すが、ライヴはもっと立体的で、エスプリに富んでいて、さりげなく才気あふれる。つきるところ、ここには豊かな、好奇心旺盛な人間がいるゾと思わせられてしまったもんなあ。それ、CDを聞いただけではぜんぜん想像できないし、文章でもうまく説明できない。デビュー作を出したときは只の泡沫グループ、それが地道にライヴをやるにつれて話題を呼び、それが大きなセールスにもつながったという話にも納得できますね。

 シンガーのローズマリーはCDだとか細い声に聞こえるのだが、生だとぶっとくて存在感があるし、演奏陣も達者でキャラクターが立つ。で、楽器を持ち替えたりするのも楽しいし、玩具の鉄琴を持ち出したり、いろんな遊びの設定を思うまま彼らは取る。ドブロなども用い、いろんなアーシーな弾き方を身につけているぞと思わせたハンサムなギターくんは実はブランク・ザッパやマーク・リーボウが好きとか(関係ないが、パトリック・ワトソン〜2008年11月12日〜が新譜をリリースする際に電話インタヴューをしたのだが、そこのギタリストはなんとリーボウに師事していたことがあるのだとか)。ハーモニカ奏者はリトル・ウォルター他が好きな大のブルース・ハープのマニア。また、ウッド・ベース君はザ・キュアーの大ファン。が、縦ベースを弾くようになったのはプレイヤーとしての好奇心らしい。