数年前までだったら、絶対に見に行ってないだろう公演ですね。過激だっ
たり、変テコだったりするものが好きだったぼくは、AORを腰抜けの音楽
としてきらっていたもの。とくに、学生時代までは例外はあるものの、ブラ
コンとAORとフュージョンを自分の領域からかなり排除していた。口当た
りのいい無味乾燥気味の表現を黒人がやるとブラコンと呼ばれ、白人がやる
とAORとなり、その伴奏を共通して担うのはフュージョン/スタジオ系の
人たち……ゆえに、筋は合っていなくてもないのだが。丸の内・コットンク
ラブ。

 所謂、AORと呼ばれた表現の立役者たちが大集合といった感じの、けっ
こう豪華な出し物。デュプリー(ヴォーカル、ハープ)と、途中から加わっ
たラバウンティ(ヴォーカル、キーボード)はヒット曲も持つ文句なしのA
OR名士。パーカッション担当で2曲ほど歌ったレスリー・スミスも黒人な
がらAORのファンからよく知られる人だろう。そして、リズム隊はそのレ
スリー・スミスと一緒にクラッキンというバンドを組み、バンド解散後はA
OR系リズム・セクション/プロデューサー・チームとしてけっこう注目さ
れる存在でもあったリック・チューダコフとピーター・ブネッタ。各々、過
去に彼らは付き合いを持っていて、一緒にライヴをやる必然性を持つ。

 そんな6人をバック・アップするキーボード奏者はデイヴィッド・サンシ
ャス(彼も黒人)。もしかすると、彼が出るからぼくは見にいったのかもし
れない。サンシャスはスタン・クラークのバンドとかフュージョン系、ジャ
クソンズ他のブラコン系でも活躍してきた人だが、ぼくにはとってはスティ
ング、ピーター・ゲイブリエル、ブルース・スプリングスティーン他、ロッ
ク・キーボード奏者として印象が強い人(実は、ジミヘン・タイプのギター
もごっつい上手い人でもある)。ソロ作もいろいろと出している。とくに、
イタリアン・ロッカーのズッケロ表現でのバッキング演奏は大好きだな。今
回はまあソツのないサポート演奏に止まったが、ぼくはその弾いている姿が
見れるだけで嬉しかった。

 いい曲を、歯切れと成熟を併せ持つサウンドで送りだす……。上記の人た
ちが和気あいあいと重なったパフォーマンスはかなり楽しめた。なんの、問
題もなく。ぼくも、大人になったにゃー。なるほど、曲名までは分からない
が、聞いたことがある曲、素直にいいナと思える曲がけっこうあった。上質
の薄いソウル感覚もしっかりあって、AORというのは80年前後のブルー・
アイド・ソウルだったのだナなんて、再確認させられるところも。でも、ス
ピナーズ(「アイル・ビー・アラウンド」)やマーヴィン・ゲイ(ホワッツ
・ゴーイン・オン)ら他人のヒット曲を堂々とやってしまうのはいかがなも
のか。ドサ回りしている、トップ40バンドの色彩が多少でてきてしまう。

 お休みの日で最終日の最終セットなのに、それなりにすいていたのはびっ
くり。このヴェニュー、ソウル系だといい入りなのに、AORのファンって
薄情なのか(数年前のフジ・スピードウェイでやった音楽フェスに同様の顔
ぶれで来日したことがあったそうだ)。それだけに、当人たちがとても光栄
そうにやっているのは印象深っかた。

 その後、有楽町からだと地下鉄1本で行ける要町にあるソウル・バー“フ
ィリーズ”に連れていかれる。アナログ盤使用、リクエストも募り1曲づつ
こまめに曲をかけるお店。すぐに、和む。実は店主の吉岡さんは、ぼくが学
校を出てちょい勤めた出版社の営業部にいた先輩。当時乗っていたホンダ・
シビックを買い換えるので、彼に売ったことあったっけ。やっぱり、いろん
な生き方、人生があるよなー。ぼくは、この9月15日でフリーランスになっ
て20周年を迎える。

 夜中に帰って、サッカーをやってないというのはなかなか寂しい。もう、
残りは準決勝と決勝(と、3位決定戦)か。