まず、ミーカ(2009年11月30日、2013年5月14日)を大バコ、新木場・スタジオコーストで見る。3年ぶりに6月に出る新作『ノー・プレイス・イン・ヘヴン』をフォロウするもので、当然その収録曲もやった。ソールド・アウトの公演。駅前に“チケット売ってください”と書いた紙片を持つ女性がいたり、会場までの道にダフ屋が何人も感じ悪くいたり。おお、久しぶりにそういうの見るなー。

 今回の来日ステージは、メルヘン調のステージ美術が施されていると言えるか。今回のバンドは、キーボード(一部、アルト・サックス)、ギター、ベース、ドラム、パーカッション。なかなか整備されたバンドで、PC音なしで、ちゃんとまとまった音を送り出す。コーラスもドラマー以外楽しげにとり、それもなかなかよろしい。

 バンド中唯一のアフリカ系であるパーカッション奏者はドラム・セットのバスドラを抜いたような感じのセッティングで、演奏もラテンやアフリカぽいアクセントは出さず。ようは、ツイン・ドラム的編成と言える。過剰にグルーヴを強調する音楽性ではないのに、これはいかに……。おまけに一部では、ギター奏者がパーカッション・パッドを、ベーシストがカウベルを叩いたりもした。ようは、プリセット音を使わずに、打ち込み的なカチっとした音を生で作り上げるために、こういう編成を取ったのダと、ぼくは理解した。

 少しグランド・ピアノも弾いた(蓋をしていた、その上に、何度も乗った)ミーカは歌がちゃんとしている。客に対する働きかけもうまい。そして、その総体はとっても満たされた、メロディアスなポップ表現象を作り上げるわけで、かなり質の高いパフォーマーであると強く思わせる。って、それは前からか。

 英国拠点ながら、レバノン生まれ(米国人とレバノン人のミックス)のフランス育ち。それゆえ、彼はときに仏語歌詞の自作曲を歌ったりもするが、仏語曲「ボム・ボム・ボム」では、その始まりのとき、彼はスウィング・ジャズのスタンダード「ムーンライト・セレナーデ」の1フレーズを弾いた。お洒落、だな。とともに、奥にかかえるものはいろいろ豊かとも思えた。

▶過去の、ミーカ
http://43142.diarynote.jp/200912010907317850/
http://43142.diarynote.jp/201305151702063100/

 そして、丸の内・コントンクラブに移動して、ジョン・スコフィールド(1999年5月11日、2001年1月11日、2002年1月24日、2004年3月11日、2006年3月1日、2007年5月10日、2008年10月8日、2009年9月5日、2012年10月10日、2013年10月21日)のライヴを見る。セカンド・ショウ。ブルーノート東京公演3日間公演に先立つもので、フル・ハウス。で、今回、彼はピックを使わずにギターを弾いているときっちり確認。そうであるからこその、音質やフレイズは見事すぎるほど溢れ出ているわけで、ぼくはピックを使わずにエレクトリック・ギターを弾く人が好きだと、ちゃんと認識した。

 前回と同じく、“ウーバージャム”編成。PCとサイド・ギターのアヴィ・ボートニック(2001年1月11日、2002年1月24日、2004年3月11日、2013年10月21日)、ベースのアンディ・ヘス(2012年7月28日、2012年11月12日、2013年10月21日)、ドラムのルイス・ケイトー(2010年9月3日、2011年11月22日、2013年9月3日、2013年10月21日)という陣容。前回公演の原稿で、ぼくは彼らのPC音併用サウンドに異議を呈しているが、なんと今回はもっとPC音が幅を効かせるなか、アンコール2曲を含めて、100分演奏した。最後は、観客が自然発生的に、スタンディング・オヴェイション。

 結局、今のウーバージャム・バンド第二期の臍はボートニック(1963年イスラエル生まれ、米国育ち。年齢よりは若く見える)。彼の手腕をがっちり用いたなかで、スコフィールドのギター・ソロを奔放に歌わせんとするものであることを、強く印象づける。ぼくはと言えば、今回もまたチっと感じるところはあったものの、前よりはもっと生音がPC経由音と対峙するところがあって、まあアリかと思える部分は多かったか。たとえば、ルイス・ケイトーのドラミングはプリセットのビートが横にあるからこその、相乗ドラミングを聞かせる瞬間がいろいろあったもの。PC音なんてしゃらくせえといった感じで4弦の電気ベースでぐつぐつと行く、アンディ・ハスの持ち味はやはり好み。このリズム隊の音を聞いていて、このままリトル・フィート(2000年12月8日、2012年5月22日)曲に移行しても意義なしという場面もぼくは受けた。やはり、ハスはロック側にいる人かな。

 前回ショウの原稿で、「アイ・キャン・シー・クリアリー・ナウ」(ジョニー・ナッシュ作曲。ジミー・クリフ〜2004年9月5日、2006年8月19日、2013年3月6日、2014年5月21日、2015年4月16日〜のヴァージョンで良く知られる有名曲)と記したレゲエ・ビートの曲は、「ダブ・ダブ」という名で、スコフォールドの曲としてクレジッされているものだった。それ、まずいんじゃない? そこらあたり、ジャズ・マン的鷹揚さが出ていると書けなくはない。かつて、アリ曲のコード進行に従い自分なりにメロディを吹いた場合、別曲名で出版登録がされたりも確かにしていた。そして、スコもこれぐらい崩せば自作申請OKと思ったのかもれないが、ぼくの耳には曲構成/流れも同じだし、「アイ・キャン・シー・クリアリー・ナウ」の崩し展開とか聞こえない。ゆえに、サンプリンング使用の際の作者クレジットのように、ナッシュとスコの連名クレジットにすべきと思う。スコはザ・ポインター・シスターズの「イエス・ウィ・キャン・キャン」(アラン・トゥーサン〜2006年5月31日、2006年6月1日、2007年10月21日、2009年5月29日、2011年1月10日、2012年10月15日、2013年10月22日、2015年1月21日〜作)をもろに咀嚼したものを「スリー・シスターズ」という曲名(当時のポインターズは3人ではなく、まだ姉妹4人でやっていたんだけどね)で確信犯的にオリジナル登録している御仁……。うーぬ、同じことを今ヒット・チャート上位に入る人気ポッパーがやったら問題になると思う。サンプリング作法の横溢ととももに、かつては無法だった旧曲引用も、逆に今は厳しく取られるようになっている。と、それはともかく、「ダブ・ダブ」のケイトーのドラミングには、ダブ効果がかまされたりもした。スコがMCでエンジニアの名前も紹介したので、今回は卓いじりの人をちゃんと連れて来たよう。それ、有意義に働いていたと思う。

 ちょっとした間やスコのフレイズに、イエイっとか共感の声を口に出したくなる場面は随時。本編最後は、前回もやったブルース曲「アイ・ドント・ニード・ノー・ドクター」。その際、ケイトーはドラムを叩きながら歌う。コクはないが、朗々とした歌声で、ニコリとなれる。それ、なんかスティーヴィー・ワンダー(2005年11月3日、2010年8月8日、2012年3月5日)の「迷信」に続けてェと言いたくなる持ち味を持っていた。

 スコフィールドは本当にボートニックを信頼しているのが分るが、やはりぼくは好きじゃない。無名の彼を自分のプロジェクトに入れたのは2000年だから、断続的ながらもう15年も彼らははツルんでいる。共作曲もいろいろあり、世界で初めて披露すると言ってやった新曲も2人の共作と言っていた。だけど、ぼくにとっては、やはりボートニックはステージ上にいる分には好ましくない人。前のように裏方っぽくいればいいのに、今はPC音とサイド・ギターで本当に出張る。ギタリストとして、リズム隊が5のレヴェルでやっているとしたら、彼は2としか、ぼくには思えない。先に触れた「アイ・ドント・ニード・ノー・ドクター」の最後で、スコはボートニックの2のレヴェルに落としたノリでシングル・トーンのギター音の決まりきったかけあい(実は、同様のことを前回公演のときも、この曲でやった)を2人でする。噴飯もの……。

 馬鹿をお言いでない、なぜそんな人をスコフィールドは重用しているのかと反駁されそうだが、それはギターの刻み音は欲しいところだが、わざわざ奏者を雇うのはナンだなあということでしょう? それに、スコはジャズ様式の煮詰まり、また自分の行き方にもずっとマンネリの危機感を持っているんだと思う。それを自覚するからこそ、彼は新しい様式や曲を求め、ボートニックは敏感に察知してそれに存分に応えてくれるので、とっても大切にしている……。さらに推測するなら、かつてマウス・オン・マーズ(2000年2月8日)が大好きだったスコは電気音下敷きの表現を欲するところもあり、それを実現に導くボートニックに多大な恩義を感じている。だから、ライヴでも笑顔で彼を使っている、ということなのだと思う。

 そう納得しつつも、ライヴを見ながら、ボートニックのPCが壊れないかなあ、彼が弾くギターの弦が全部切れないかなあ(横に予備のギターをおいていたが、それも同様に)と願っていた。ぼく以外にも、そんな酷いことを思う人がいたことを望みたい。

▶過去の、ジョン・スコフィールド
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live2.htm 5.11
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-1.htm 1.11
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-1.htm 1.24
http://43142.diarynote.jp/200403111821250000/
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▶過去の、アヴィ・ボートニック
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▶過去の、アンディ・ヘス
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▶過去の、ルイス・ケイトー
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▶過去の、リトル・フィート
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▶過去の、ジミー・クリフ
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▶過去の、アラン・トゥーサン
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▶過去の、スティーヴィー・ワンダー
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▶過去の、マウス・オン・マーズ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-4.htm

<今日の、スコフォールドについて思ったこと>
 ヴァイタルなビートに乗る、スコのギター・ソロはまこと絶好調。酩酊きぶんで、歌いまくり。もう、発汗しちゃうなあ。それを聞きながら、ぼくは彼の“不幸”(と書くと、語弊があるが)を感じたりもしてしまった。だって、今日の演奏を聞いて、彼の演奏はジェフ・ベック(2009年2月6日)のトリッキーさや飛翔感とエリック・クラプトン(2006年11月20日)の雄弁さやエモーションを兼ね備えたことをもっと流麗にできていると、感じてしまったから。そのおもしろさやすごさはロック・リスナーにも分るはずで、彼はコテコテに頭が禿げ上がる前に、一度きっちりロック界に討って出るべきではなかったか。それを妨げたのは、当初はジャズの世界で居場所を獲得することに真摯に邁進していたこと、1980年代半ばにグラマヴィジョンと契約して以降はジャズ界で支持をきっちり得てしまったことがあるかもしれない。スティング(2000年10月16日)の『ブルー・タートルの夢』(A&M、1985年)と同一のリズム・セクション(ダリル・ジョーンズ〜2003年3月13日、2003 年3月15日、2013年3月8日〜とオマー・ハキム〜2006年4月16日、2010年9月1日、2010年9月5日、2013年3月8日〜)を雇った『スティル・ウォーム』(グラマヴィジョン、1986年)のあたりが、ロック界進出に適した時期であったのかもしれない。今にして、思えば……。そこで、ふと頭に浮かんだのが、ウィルコのメンバーでもある、フリー・ジャズ系ギタリストで本田ユカ(2009年1月21日、2014年3月31日、2014年8月14日)の旦那でもあるネルス・クライン(2010年1月9日、2010年4月23日、2013年4月13日、2014年8月14日)。ぼくは、彼みたいにロック・バンドでも輝くスコフィールド(ひいては、ロック・リスナーから注視を浴びるスコ)の姿を見てみたかった! もし、彼がもっとロックの世界に行っていたら、まったく別な道が開け、彼の一時のジャム・バンド・ミュージック接近もなかったかもなあなぞとも思ってしまう。蛇足だが、この6月上旬に、ブルーノート東京で、クラインの自己グループ公演が2日間持たれる(アート・リンゼー〜1999年12月18日、2002年9月9日、2004年11月21日、2011年6月8日、2014年10月26日〜と同じ集客が期待されているのか!)のには驚いた。これは、快挙だな。
▶過去の、ジェフ・ベック
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▶過去の、エリック・クラプトン
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▶過去の、スティング
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▶過去の、ダリル・ジョーンズ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-3.htm 13日、バーナード・ファウラー他のセッション。15日、ストーンズ
http://43142.diarynote.jp/201303110415585115/
▶過去の、オマー・ハキム
http://43142.diarynote.jp/200604141318090000/
http://43142.diarynote.jp/201009030955539620/
http://43142.diarynote.jp/201009171511588216/
http://43142.diarynote.jp/201303110415585115/
▶過去の、ネルス・クライン
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▶過去の、本田ユカ
http://43142.diarynote.jp/200901221504141906/
http://43142.diarynote.jp/?day=20140331
http://43142.diarynote.jp/201408161131356136/
▶過去の、アート・リンゼイ
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http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-9.htm
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