えええっ、こんなに歌のうまい、度量のデカい人だったの。このところ、毎年来日しているシェリル・リンだが、ぼくは彼女の生に今回初めて触れる。ディスコ・クラシックス「ガット・トゥ・ビー・リアル」(1978 年デビュー曲で、R&Bチャート1位曲)という訴求力抜群の持ち曲を持つ現在55歳のアフリカ系女性シンガーだが、デイヴィッド・フォスター(2011年10月19日)とデイヴィッド・ペイチ(トト、2011年9月27日)とシェリル・リンという同曲のコンポーザー内訳に示されているように、米国西海岸の洗練されたスタジオ・ミュージシャン制作回路の黄金期に乗じるように表舞台に引っぱりだされた明快な魅力を持つ歌手という印象を、ぼくはシェリル・リンに持ったりもする。1980年代まで、同地発のブラコン、AOR、フュージョンのアルバム演奏参加者の顔ぶれはかなり重なっていた。リンがこの日歌った曲にも、ボズ・スキャッグスが歌いそうだなと思わせられるものがあった。

 けっこう巨体、顔はそんなに老けておらず、喉はぜんぜん衰えていない。もう1曲目から、すごい声をギンギンにサウンドにのせる(チャカ・カーンもびっくりのアクロバティックな歌い方を誇示したのはその曲だけだったが)。音程もくるわないし、すごいな。バック・コーラスは4人。彼女の声量に見合うようにするには、そのぐらい人数がいると納得させられた? そして、演奏陣は5人、うちギタリストは彼女の3作目『イン・ザ・ナイト』(コロムビア、1981年)をプロデュースしているレイ・パーカーJr.(2011年5月17日、他)。いろんな部分で所感を新たにしつつ、堪能。

 その後は、南青山・ブルーノート東京で、毎年夏にやってきている、ブラジルはリオの卓越した個性を持つ女性シンガー/ギタリスト(2011年8月3日、他)を見る。彼女はいつもゲストを招いてブルーノートのショウをやっていたが、今回は自己ピアノ・トリオ(もちろん、ドラマーは旦那さん。ベースはエレクトリックを弾く)を率いて、今のジョイスをたっぷり見せますという設定。ゲストがはいれば多彩さはでるが、こっちのほうがじっくり彼女を受け取るには適している。まいど清新、くつろいでいても切れ味ばっちり、内なる密度やテンションの高いことには驚かされる。とともに、ジャズ語彙〜ジャズ的回路の介し方もまったくもって多大にして自然。彼女のグループ表現はブラジリアン・ポップとジャズの見事な出会いを見せる得がたいサンプルなのではないか。とかなんとかで、彼女の表現はけっこう独特なもので、いまやボサノヴァという言葉を使うべきではないとも、ぼくはなんとなく思った。

<今日の失敗>
 ちょっと時間があるナと思って、ブルーノート東京に行く前に、なじみのお店に寄る。そこで、少しサッカー(日本代表とベネズエラの試合)を見て行ったら……なんと、ジョイスのパフォーマンスは佳境。わー。お盆なので、日曜と同じ開演時間だった。でも、ちょっと触れただけでも、ジョイスの魅力は身体に染み入リマス。