UK大ロック歌手のロッドさん(45年生まれ)だが、ぼくは今回初めて彼を見る。でも、ガキの頃は贔屓にしていた人かな。NHKで彼が一番ハネてた頃に組んでいたフェイセズのライヴを放映してたりしてたし(その頃の同局は、彼らに加えエルトン・ジョンやピンク・フロイドらがお好きだったかな)、フェイセズはかろうじてリアル・タイムで聞いたしな。サッカーとお酒と美女がお好き、……スチュワートはぼくにとってはまさに英国らしさを感じさせる最たるスター・ロッカーでもあったのダ。そのフェイセズ末期の73 〜74年ごろ、ポール・ロジャースがいたフリーを経て、同バンドのベーシストとなった(その前任者は故ロニー・レイン)日本人の山内テツは本当に雲の上の人のように思えた。

 サッカー選手をまじに目指したあと、R&B好きのスチュワートはジェフ・ベック(2009年2月6日)のグループ(第一期)のシンガーとなり名を売り、60年代後半以降に大車輪。やはりベック・グループにいたロン・ウッド(現ザ・ローリング・ストーンズ、ね)とともにフェイセズを組むとともに、すでに人気者だった彼はソロ・アーティストとしても二足のわらじで活動した。ぼくはR&Rバンドのフェイセズは大好きだったが、まったり曲主体のソロのアルバムは苦手だった。彼はロンドン生まれだがスコティッシュ・ルーツを持つ人で、当時のアコースティック調ナンバーにはそれっぽいトラッド味がけっこう投影されていた……なんてことは、けっこうおやじになってから気付いた事だよなー。やっぱり、経験を重ね知識を蓄積しないと分からない事はある。

 九段下・日本武道館。この手の熟達ロッカー公演の常で、客の年齢層高し。ステージがいつもより前にあるような、なんかアリーナ客席部が狭く感じる。シースルー気味の白いカーテンがステージの三方を囲み、ミュージシャンの出入りはステージ後方のカーテンの隙間からなされる。ステージの色やアンプやキーボードやマイクやスタンドなども白色でまとめられている。まあ、それは照明が当てられると、いろんな色に染まるが。そして、ステージ後方にはモニターが吊るされているのだが、そこに映されるステージ映像の画質の高さにはびっくり。TV用のカメラみたいなデカいので撮っていたしな。そこにはステージの面々を映すだけでなく、ときに遊びの映像も映る。ジ・アイズリー・ブラザーズ(2001年12月6日、2004年3月1日)がモータウン在籍時の66年にヒットさせたホーランド/ドジャー/ホーランド曲「ディス・オールド・ハート・オブ・マイン」では全面的に往年のモータウンのアーティストが出された。
 
 バンドはギター2、キーボード、ベース、ドラム、打楽器という編成。それにプラスして、3人の黒人女性コーラス隊と、テナー・サックス奏者とフィドル/マンドリンを担当する二人の白人女性。総勢、バックは11人。演目はほぼ彼のキャリアを括るような代表曲をやっていたか。数年前にバカ売れした”スタンダード・ソング歌い”の側面を出す場面がなかったのは良かったが、フェイセズ時代の曲を全然やらなかったのはとても悲しかった。

 ショウは2部構成で1時間のものが休憩を挟んで2本。1部はアメリカのレトロなショービジネス系バンドのような正装をみんなする。4曲目ぐらいで、相変わらずサム・クックの影響下に自分があることを伝えた上で彼の曲「ハヴィング・ア・パーティ」を披露。スチュワートは2部でもクックの「トゥイスティン・ザ・ナイト・アウェイ」をやる。といっても共に、かつてカヴァー・ヒットさせているものだが。一部の途中では、現在21歳とかの娘(どの奥さんとの子供なのか)が出てきて、R&B調曲を2曲歌う。当人は嬉々として親馬鹿を表出。いや、それも嫌な感じではない。

 ところで、もう一つちゃんと書き留めておかなければならないのは、彼が中村俊輔(2002年7月21日)のいる(あ、水野晃樹もいる)スコットランド・プレミア・リーグのセルティックの大ファンであるのを無言でおおいに宣言していたこと。だって、バス・ドラムの外面やステージ(天井からライトででっかく映し出されていた)にはセルティックの紋章がきっぱりと出されていたんだもの(もしかして、ショウの始まる直前に流されたとっても古くさい曲はセルティックのチーム・ソング?)。あー、サッカー馬鹿。あれ、すごいワ。

 そして、チャック・ベリー曲「スウィート・リトル・ロックンローラー」(これが発表された70年中期あたりから、ヌルすぎて積極的に彼を聞くのをやめたんだよな〜)で始まった2部はみんなカジュアルな格好で出てきてのパフォーマンス。で、なんと4曲目にやったスチュアートが書いた78年ヒット曲「ユーアー・イン・マイ・ハート」のときはセルティックの試合の名場面やサポーターたちが映し出される。あー、オレはうきッ。そして、曲が終わると、「ナカムラ」とスチュアートは一言。そういえば、先に触れた山内テツへのぼくの思いは今のサッカー小僧が中村に覚える憧れと同等のものではないか。そして、何曲かあとにやった「ホット・レッグズ」(この曲はハネているので、昔から好き)ではサイン入りサッカー・ボールをぽんぽんと客席に蹴り出す。これ、昔からのスチュアート公演のならわし(だよな)。

 肝心のスチュワート(彼はそれぞれのセットの途中でもお召しかえをした)の歌唱や佇まいについてあんまし触れてないが、OK。多分に腹回りは太くなっているが、足は長いし、身のこなしはお茶目だし、ツンツンした髪型は変わらないし。ちゃんと華がある。くっきり見えるヴィジョンを見ると、彼は十分アンチ・エイジしているように思えた。歌は少し弱くはなっているかもとホンの少し感じるところもあったけど、それにも合格サインをぼくは出す。そして、なによりうわあと感じたのは彼の人の良さ、まっすぐさのようなもの。それは先に触れたサム・クック讃やセルティック讃にも表れているわけだが、なんか伝わってくるそのもやもやはかなりマル。先に見たスコティッシュ・バンドのトラヴィス(2009年2月27日)のそれとも真心具合は重なるものであったかな。ゆえに、その代表曲「トゥナイツ・ザ・ナイト」にせよ「セイリング」にせよぼくは大嫌いな曲だが、目の目でスチュアートが歌う分には許せると思った。

 構成もよく練られてもいたし、とてもお金のとれるショウ。毎度の言い方になるが、やはり年期を積んで、予算もとれる大御所のショウは良い。ところで、彼が埼玉スーパーアリーナでライヴをやる14日には埼玉スタジアムでの浦和レッズのホーム・ゲームに顔を出すという話があるが……。(←結局、表れなかったみたいね)