六本木・ビルボードライブ東京で、メッセージに富んだ詩作と秀でた同時代的ブラック・ミュージック語彙を見事に噛み合わせたギル・スコット・ヘロン(全盛期に彼はアリスタのハイ・プライオリティの契約者であったが、それは社長のクライヴ・デイヴィスが当時人気のボブ・ディランとスライ・ストーンの間をつなぐ存在として、スコット・ヘロンのことを高く評価したからだった)の音楽面を大々的に支えたブライアン・ジョンソンのショウを見る。スコット・ヘロンとジャクソンはペンシルヴァニア州のリンカーン大学で知り合い、スタラタ・イーストやアリスタ時代のアルバムは2人の連名でアルバムがリリースされた。なお、ジャクソンは少しリーダー作を出すとともに、クール&ザ・ギャング(2014年12月26日、2016年2月23日、2017年10月10日)やウィル・ダウニングからジャズ・ベーシストのチャーネット・モフェットの2019年作『Bright New Day』(Motema)まで、何人ものレコーディング・セッションに参加している。

 フェンダー・ローズを弾きながら歌うジャクソンをサポートするのは在LAのミュージシャンたちか。キーボードとコーラスのレックス・キャメロン(ロンドン出身と紹介された)、ギターでNY出身のクラーレンス・ブライス(テレキャスターを持ち、カーティス・メイフィールド的な指さばきを披露)、フランス出身ベーシストのアントアーヌ・カッツ、ドラムのマーク・ホイットフィールド Jr. (有名ギタリストである父親と来日している彼、ジャクソンともやっているのか)とパーカッションのアラコイ・"ミック ホールデン"・ピートという陣容による。

 スコット・ヘロンとのことを語り、彼と作った曲を生理的に悠然と披露していく。ジャクソンは決定的な味にはかなり欠けるが、何気に声量はあり、音程はスコット・ヘロンよりはくっきりしている。なんか、テリー・キャリア(2002年5月21日、2004年4月19日、2005年2月17日、2007年3月8日、2009年9月15日)の持ち味を鍵盤主体表現で開いているという所感も得たか。

 90分のパフォーマンス。ジャクソンは1曲で、グラウンド・ピアノに移りソロをとったが、かなり達者。ちゃんとジャズもできる人ですね。また、1曲はスロウ持ち曲をピアノ弾き語りもする。2曲ではフルートも手にしたりもし、やはり音楽的な才能に恵まれていることを伝える。1952年生まれだから、まだまだこれからがありそうとも思えた。

▶過去の、クール&ザ・ギャング/J.T.テイラー
http://43142.diarynote.jp/200611281428510000/ J.T.テイラー
http://43142.diarynote.jp/201403051230433466/ J.T.テイラー
http://43142.diarynote.jp/201412291146465218/
http://43142.diarynote.jp/201508051544452721/  J.T.テイラー
http://43142.diarynote.jp/201602290953239524/
https://43142.diarynote.jp/201710121703595237/
▶︎過去の、テリー・キャリア
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-5.htm
http://43142.diarynote.jp/200502232039250000/
http://43142.diarynote.jp/200703101608130000/
http://43142.diarynote.jp/200909181206531984/
http://43142.diarynote.jp/200404190049350000/

 その後、丸の内・コットンクラブで、ミンディ・エイベア (2009年9月20日)& ザ・ボーンシェイカーズのライヴを見る。見ることが叶わなかった前回来日公演時に、ぼくはこんなことを書いていますね。→https://43142.diarynote.jp/201510251330372218/ 下のほう

 今回、スウィートピー・アトキンソンの同行はなかったが、しっかりギタリストのランディ・ジェイコブズ(2017年5月5日)はザ・ボーンシェイカーズの要の奏者として来ている。他にメンバーはキーボードのランディ・リー、ベースのベン・ホワイト、ドラムのサード・リチャードソンという面々でアフリカ系奏者が多い。ベン・ホワイト以外はミンディ・エイベア & ザ・ボーンシェイカーズのここ数作品に参加しているミュージシャンたちだ。

 おお彼女、今はこうなっているんだよな。スムース・ジャズ系のアルト・サックス奏者として世に出た彼女だったが、歌うことに力を入れ、ソウル/ファンク調やアーシー系表現に移行し(2017年作には、故グレッグ・オールマンが歌っている曲もあった)、2019年新作『No GoodDead』(Pretty Good For a Girl )ではまったく明快なロック/ロックンロール傾向のなかで、彼女は歌い、アルト・サックスを吹いている。ソウル/ダンス傾向で行くキャンディ・ダルファー(2009年5月11日、2010年2月16日、2012年2月13日、2018年11月19日)に対し、ロック/アーシー傾向で行くミンディ・エイベアという説明は間違いなくできよう。

 そして、この晩もそんな路線に則った生き方で、ストレートにロッキッシュに迫る。もう竹を割ったようなわかりやすい華や娯楽性の持ち方に、ラスヴェガスから帰ってきたばかりのぼくはわあアメリカっぽい、どこかヴェガスっぽいと思ってしまった。実際、金髪(に染めた?)綺麗目で太ってもいないミンディはラスヴェガスで颯爽と働く女性のタイプと重なる?

 その彼女の歌にしろアルトにしろ、実にまっとう。実力者だ。それはバンドのメンバーも同じで、きっちりバンド表現(皆んな、コーラスも取る)で攻め、ちゃんとバンド名を名乗っていることにも納得。途中でドラマーがいい声で歌い始めた曲はなんとジェイムズ・ブラウン(2000年8月5日)の「コールド・スウェット」。おお、こんなロックぽいJB曲は初めて聞いた。また、途中でジェイコブズはカスタム・メイドのバンジョーを手にし、ドラマーはカホーンを叩き、キーボード奏者はカズーを担当する曲があったのだが、それはジミ・ヘンドリックスの「ヴードゥ・チャイル」。おお、いい味。それに触れながら、アメリカーナと呼ばれる表現は、米国の音楽史の襞として登録されている曲や情緒の引き出しをあけ、それを今という時間に解き放つ行為であるのだと思わせられた。ミンディ・エイベア & ザ・ボーンシェイカーズの音、フランクでチャラいようで実は深いところあります。馬鹿にしちゃいけないよ。あ、皆んなで歌ったアンコールは、ロバート・パーマーの大ヒット曲「アデイクテット・トゥ・ラヴ」でした。イエイ。

 そして、ぼくのお目当てのランディ・ジェイコブズだが、さすがの演奏。デトロイト育ちの彼はスウィートピー・アトキンソンと同じくドン・ワズ(2013年2月15日、2019年6月12日、2019年6月13日、2019年6月14日)とは昵懇の間柄となるが、ピックを使わずいろんな演奏を繰り出すそのマスターぶり(数曲ではスライド・バーも用いる。エフェクターにはあまり頼らない)は、真のギター好きは彼だけ目当に行っても損はないと思える。MCによれば、ワズ(・ノット・ワズ)だけでなく、彼はギタリストでもあるボニー・レイット(2007年4月6日)のバンドにいたこともあるのか。でも、さもありなんという感じですね。

▶︎過去の、ミンディ・エイベア
https://43142.diarynote.jp/200909271554269289/
▶︎過去の、ランディ・ジェイコブズ
https://43142.diarynote.jp/201705081217396490/
▶︎過去の、キャンディ・ダルファー
https://43142.diarynote.jp/200905121053358452/
https://43142.diarynote.jp/201002171552164447/
https://43142.diarynote.jp/201202141303117620/
https://43142.diarynote.jp/201811201615047405/
▶過去の、JB
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-8.htm サマーソニック初日
▶︎過去の、JBの映画2種
http://43142.diarynote.jp/201503041619591535/
http://43142.diarynote.jp/201606281735457440/
▶過去の、ダニー・レイ
http://43142.diarynote.jp/201409100930206205/ 小曽根真ノー・ネーム・ホーセズvs.クリスチャン・マクブライド・ビッグ・バンド
http://43142.diarynote.jp/201412310727087161/
▶︎過去の、ザ・オリジナル・ジェイムズ・ブラウン・バンド/シンシア・ムーア。フレッド・トーマス 、トニー・クック 、ジョージ"スパイク"ニーリー
http://43142.diarynote.jp/201412310727087161/
https://43142.diarynote.jp/201806040807198626/
▶過去の、ボニー・レイット
http://43142.diarynote.jp/200704112101130000/
http://43142.diarynote.jp/200806121400260000/
▶︎過去の、ドン・ワズ
http://43142.diarynote.jp/201302181044151204/
https://43142.diarynote.jp/201906151230594715/
https://43142.diarynote.jp/201906151238565701/
https://43142.diarynote.jp/201906151238565701/

<今日の、貴さ>
 実は、両公演とも入りはなぜかいまいちであった。前者は2日間公演の最終日で、後者は初日で日曜日まであと3日間ショウが持たれる。だが、それぞれのリーダーとバンド員たちはそんなことを気にするそぶりも出さず、誠心誠意パフォーマンスにあたり、東京でギグをできる感謝をあらわす。プロなら当然のことなのだが、一点の曇りもなくそれを清々しく出す面々に、ぼくは頭を垂れる。

 トニーニョ・オルタ(2010年10月7日、2016年10月27日)の姪となる女性シンガー・ソングライターのヂアナ・オルタ・ポポフを青山・プラッサオンゼで見る。ミナス・ジェライス州ベロ・オリゾンチ生まれでリオ育ち、そして現在はパリに居住。そんな“移動”を抱えるキーボードを弾きながら歌う彼女を、夫であるフランス人のマチアス・アラマンが電気ベース(一部はアコースティック・ギターも弾く)でサポートする。

 愛らしい感じを持ちつつも、難しいライン取りの歌をごんごん歌うなと、すぐに思う。一緒に歌うのは無理。でも、奥行きにも繋がるそのもやもやはブラジル音楽の素敵の尻尾を顕すものに他ならない。とっても曖昧な言い方になるが、そうしたとらえどころのないものからいろんな木漏れ日のようなものが見えて、ぼくは誘われた。また、フルートを吹いたインストもあり、それにはショーロを思い出す。ファースト・セットを見て、移動。後ろ髪引かれた。
 
▶過去の、トニーニョ・オルタ
http://43142.diarynote.jp/201010110934082197/
https://43142.diarynote.jp/201610310943306583/


 次は、六本木・ビルボードライブ東京で、元ジャパンのスティーヴ・ジャンセン(2004年4月24日)とスウェーデン人のミュージシャンたちが協調したユニットを見る。

 ヴォーカルのトーマス・フェイナー、ピアノのウルフ・ヤンソン、ギターやシンセサイザーのチャールス・ストーム 、ドラムのスティーヴ・ジャンセンに、ダブル・ベースのスヴェン・リンドヴァル。さらに、チェロの徳澤青弦、ヴァイオリンの吉田篤貴と地行美穂、ヴィオラの須原杏のストリングスが加わる。その日本人たち、墨絵のようなという形容もできるサウンドによく弦音をつけていた。

 ベーシストが全面的に縦を用いていたのには驚いたが、その事実に現れてもいるように、実にオトナ志向の美意識を抱えた悠然としたロックが繰り広げられる。低いフェイナーの歌はなにげにデイヴィッド・シルヴィアン(2004年4月24日)的とも言えるだろう。ドアの先にある北の佇まいを抱えたその表現は、響きと密かな蠢きに満ちた情緒ロックとしてアドヴァンテージを持つものと思う。演奏時間は長めだった。

▶︎過去の、スティーヴ・ジャンセン
https://43142.diarynote.jp/200404271931000000/
▶︎過去の、デイヴィッド・シルヴィアン
https://43142.diarynote.jp/200404271931000000/

<今日の、追記>
 イグジット・ノースのセルフ・リリース作『Book of Romance and Dust』(2018年)は、オノ セイゲン(2000年3月12日、2009年1月17日、2011年8月4日、2012年6月7日、2013年1月30日、2014年4月20日、2014年7月28日、2014年9月23日、2014年10月8日、2014年10月11日、2015年4月17日、2015年9月13日、2015年9月24日、2015年10月9日、2016年3月14日、2016年5月22日、2016年7月26日、2017年5月7日、2018年6月7日、2018年11月12日)の音楽をサンプリング使用し、マスタリングを当のオノが担当している。今回の来日時、メンバーは彼が持つ神宮前のサイデラ・マスタリングのスタジオ詣もしているようだ。そんなこともあり、会場で出会ったセイゲンに誘われ、楽屋に行く。その静謐な音楽性と離れ、みんな愛想がいい。ジャンセン、けっこう顔デカいんだな。兄のデイヴィッド・シルヴィアンにはデレク・ベイリーが参加した『プレミッシュ』(2003年)を出した際にインタヴューしたことがあったが、そうは思わなかった。とっても大人のわびさび溢れる『プレミッシュ』を前に、シルヴィアンにジャパン時代のことを聞いたら、「若気のいたり。でも、若い時分にはそういう放蕩も必要」といったことを静かに言っておった。早々に引き上げると、楽屋の外には高橋幸宏(2009年10月31日、2011年8月7日、2012年8月12日、2013年8月11日、2017年7月14日)、土屋昌巳、SUGIZO(2015年6月29日)らミュージシャンがいらっしゃった。
「僕はいつも遠くからセイゲンのキャリアをフォローしてきたので、彼は録音とマスタリング、特にアコースティック録音に素晴らしい耳を持っていることを知っていた。だから、僕たちのレコードのマスタリングをやってもらうのは素晴らしい選択肢のように思えたんだ。
 マスタリングはとても重要な仕事であるのに、見落とされがち。個人的には、マスタリングについての複雑な技術的知識は持ち合わせていないが、よくマスターされた録音は肝要と思う。イグジット・ノースの録音はポスト・マスタリングされることで、ダイナミクスと暖かさを保持しつつ、さらに多くの存在感、重厚さ、および“色”を獲得したんだ。もちろん、英国にも多くの優れたマスタリング・エンジニアがいるけど、セイゲンが関与することはノース・イグジットに適していた」(スティーヴ・ジャンセン)
▶過去の、オノセイゲン
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-3.htm
http://43142.diarynote.jp/200901181343426080/
http://43142.diarynote.jp/201108101630438805/
http://43142.diarynote.jp/201206110945571082/
http://43142.diarynote.jp/?day=20130130
http://43142.diarynote.jp/201404251643448230/
http://43142.diarynote.jp/?day=20140728
http://43142.diarynote.jp/201409261635077130/
http://43142.diarynote.jp/201410210814495715/
http://43142.diarynote.jp/201509250943244179/
http://43142.diarynote.jp/201603151140427186/
http://43142.diarynote.jp/?day=20160522
http://43142.diarynote.jp/201608020801362894/
http://43142.diarynote.jp/201705081232023349/
https://43142.diarynote.jp/?day=20180607
https://43142.diarynote.jp/201811141355524842/
▶︎過去の、高橋幸宏
http://43142.diarynote.jp/200911010931589797/
http://43142.diarynote.jp/?day=20110807
http://43142.diarynote.jp/?day=20120812
http://43142.diarynote.jp/201308130851402454/
https://43142.diarynote.jp/201707151654245284/
▶︎過去の、SUGIZO
https://43142.diarynote.jp/201507021227231770/