吉祥寺シアターで、小池博史(2005年12月8日、2006年12月21日、2014年10月9日、2015年12月15日、2017年1月30日 )が仕切る「2030 世界漂流」を見る。マチネー公演。

 開演前に入ったが、客電は暗めで、すでに音楽が奏でられ、女性が二人舞っている。スモークがもくもくと炊かれ、視覚的な天井や床を自在に作るレザー光線が生きる。まず、過去公演と異なり効果機材がアップデイトされていると思った。その一方、ステージ美術はこれまでで一番簡素であったと言えるか。だが、少し年齢が若くなったと思われるパフォーマーたちは13人と多く、その動きや絡みをストレートに伝えんとするうえでそれはマイナスとならない。フランス人男性とインド人女性も加わっていた。

 プリセットの音楽も下敷きにしつつ、パーカッションとドラムとラップと歌の下町兄弟(2005年12月8日、2006年12月21日、2014年10月9日、2015年12月15日、2017年1月30日 )、アルト・サックスとギターと笛の太田豊(2017年1月30日 )、歌とトイ・ピアノと鳴り物の祭美和が終始生音を送り出す。変幻自在のパフォーマーの動きは音楽と密接に結びついており、また音楽が展開のきっかかけを与える場合も少なくなく、さぞやリハーサルの時から音楽担当陣は密につきあったことは想像に難くない。ゆえに、その完成形たる公演時は経費節約のため録音されたものを流してもいいように思えるが、そうしないところは要点だろう。やはり、相乗している部分は確固としてあり、人間の表現力の可能性を鋭意求める集団という実像は、臨機応変な生演奏の存在があってこそ強く打ち出されるから。

 12年後の2030年、日本は安穏な状況になく、ヤバさを逃れて難民となることを余儀なくされるのではないか。といったような、警鐘的視点から作られているようだが、ときに動的感覚を軸に置く役者たちが、空気がとまったような感じで虚空を見上げる複数の箇所が印象的でもあった。これ、来年は海外でも持たれるよう。

▶過去の、小池博史
http://43142.diarynote.jp/?day=20051208
http://43142.diarynote.jp/200612270253390000/
http://43142.diarynote.jp/201410160819402945/
http://43142.diarynote.jp/?day=20151215
http://43142.diarynote.jp/201701310904097357/
▶過去の、下町兄弟
http://43142.diarynote.jp/?day=20051208
http://43142.diarynote.jp/200612270253390000/
http://43142.diarynote.jp/201410160819402945/
http://43142.diarynote.jp/?day=20151215
http://43142.diarynote.jp/201701310904097357/

 その後、赤坂・カナダ大使館オスカー・ピーターソン・シアターで、<カナディアン・ブラスト>のデイ2に臨む。

+リディア・パーソード
 バリトン・ウクレレを弾きながら歌う。ウクレレはわりとギターの奏法に沿うもので、弾き語りを一人で披露。その楽器の持ち味から、訥々手作り感はより出る。うち1曲は、ジョニ・ミッチェルぽいと思ったか。歌唱については一部黒っぽい味を感じさせるところもある、大学のジャズ課程を出ているようだが、その表層にはジャズぽさは出ない。

+エンサイン・ブロデリック
 グラウンド・ピアノを弾きながら歌ったのだが、その甲高目な歌声に最初はいささか驚く。うわあすごいエコーをかけているなと思えたから。でも、それがどうやら地声のよう。そして、彼は淡々と歌を紡いでいくのだが、不思議な余韻やいろんな人の残像を覚えさせたりもする。52歳とのことでいろんな経験を通っているのは当然だし、それがこぼれ出ているところはある。この晩は基本静的な弾き語りを繰り広げていたが、たとえばその『Ranger』というアルバムはシック(2003年4月15日、2003年8月24日、2006年4月11日、2009年4月6日、2010年4月30日、2011年4月18日、2012年12月28日)一派が導いた1980年代のNYダンサブル・ポップ・サウンド傾向盤となっているし、『Feast of Panthers』(Six Shooter,2018 )はデイヴィッド・ボウイの『ヤング・フィラデルフィアン』路線と近年のジョン・ケイル(2001年11月4日、2016年8月7日、2017年10月7日)が重なったような聞き味を持つ。まあ、ボウイは好きそうだな。MCによれば、そんな彼は日本の文化や音楽にもはまってきているようで、わざわざサカモト(ショウの冒頭で「戦場のクリスマス」を弾いた)やタカハシやホソノの名前を出していた。なんでもステージ衣装は彼が買ってきた日本のデザイナーズ・ブランドのアイテムでまとめたそう。
▶︎過去の、シック
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-4.htm 4月15日
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-8.htm Mt.フジ・ジャズ・フェスティヴァル
http://43142.diarynote.jp/200604141318090000/
http://43142.diarynote.jp/200904120633434116/
http://43142.diarynote.jp/201005011117591329/
http://43142.diarynote.jp/201104220822068448/
http://43142.diarynote.jp/201301051329276221/
▶︎過去の、ジョン・ケイル
http://43142.diarynote.jp/201608111100555412/
http://43142.diarynote.jp/201608111100555412/
http://43142.diarynote.jp/201710121659242506/

+エレン・ドーティ
 ジャズの心得を持つピアニストとドラマーを従えて、自作の曲を中央に立って歌う。その2018年作『Come Fall』(Alma)も同じ編成で録られていて、この日の編成は片肺のそれではないようだ。きっちり私の歌と歌詞を聞かせましょうとなると、そういう編成が導かれるのか。そして、大人の間や余韻を抱えた、落ち着いたアダルト・ポップ表現を悠然と展開。彼女も大学でジャズを学んでいるそうだが、アルバムのほうがしっとりとした感じで録られており、なるほどジャズ的な息遣いが少しあるとも思わせられた。
 なお、同行のドラマーはムーンチャイルド(2016年7月22日、2017年9月26日)で2度来日しているイーファ・エトロマ・ジュニア。ステージの横にいる彼をパっと見てもそんな事実は分かるはずもないが、昨日の<カナディアン・ブラスト>初日の際に、会場に来ていたドティさんに話しかけられ、横にいた彼を紹介されてその事実を知った。ムーンチャイルドのときの演奏よりもジャズ的な演奏を彼はしていたのは疑いがない。なんでも、トニー・ウィリアムズとクリス・デイヴ(2009年4月13日、2009年12月19日 、2010年12月16日、2012年9月21日、2013年9月28日、2015年8月18日、2016年1月25日、2016年10月11日)がお気に入りのドラマーとか。現在LAに住む彼が今回どうして一緒に来ているのと問えば、カルガリー同郷なんだとか。エトロマJr.は3度目の日本だが、ドティは初来日。だが、横浜に親戚がいて先週から日本に滞在しているという。彼女が一番好きな歌手は、ナット・キング・コールであるそう。その表現を聞いて、それを言い当てられる人はいないと思う。
▶︎過去の、イーファ・エトローマJr./ムーンチャイルド
http://43142.diarynote.jp/201607251308054775/
http://43142.diarynote.jp/201709271304386855/
▶過去の、クリス・デイヴ
http://43142.diarynote.jp/200904150840164356/
http://43142.diarynote.jp/201001051625155901/
http://43142.diarynote.jp/201012171104366095/
http://43142.diarynote.jp/?day=20120921
http://43142.diarynote.jp/?day=20130928
http://43142.diarynote.jp/201601260728484520/
http://43142.diarynote.jp/201610141747514263/

+アン・ヴレンド
 キーボードを弾きながら歌う(曲によってはグランド・ピアノの前にも座った)ヴレンドを、やはり歌うベーシストとギタリスト、さらにドラマーがサポート。そのヴレンドはなかなか張りのある歌声の持ち主で、ベースとギターは金城という苗字の兄弟のようで、カナダと沖縄を行き来しているという。基本はいろんな要素を抱えたポップ・バンド表現を聞かせるが、金城ブラザーズを中心に昭和フォークの「神田川」も日本語でカヴァーした。

<今日の、社長>
 <カナディアン・ブラスト>開催に際し、同国のレコード会社やマネージメントの方々も商談のために来日していて、カナダ勢のライヴを観る前に大使館内でパーティがあり、真っ当なジャズ・レーベルであるジャスティン・タイムの社長のジェフ・ウェストもそこにいて話をする。モントリオールにオフィスを置く同社から送り出されているヘイリー・ロレン(2012年2月13日)やバーブラ・リカ(2015年9月5日)などの女性歌手モノは日本盤もリリースされているが、ワールド・サキソフォン・カルテット(2012年9月28日)他まじジャズものもいろいろジャスティン・タイムは出している。カナダ人ものは65パーセントで、残りは米国人録音ものだそう。マディ・ウォーターズやライトニン・ホプキンスらブルースものも出している彼(63歳って、言っていたっけっかな。来日は9度目とか)、聞けばロック・ファン(ECが一番好きだそう)でロックのメネイジメントから業界入りしたという。そのレーベル名はミュージカル発のスタンダード経由ではなく、ジャスティンという息子の名前に負った。すでに35年続いている同社のカタログは400枚ほどになる。ジムさんはとっても穏健な人だったが、その持続力はなかなかだな。