アフリカ系アメリカ人がリーダーとなる実演を二つ見たのだが、ともにええええ、こんなパフォーマンスをするのお、というもの。そんなことがあるから、ライヴは見る機会があるなら乗った方がいいわけだが、ともにバンド員は白人が多いし、こんなに事前に考えられたものと異なるショウが連続して続くなんて、珍しいー。

 ケンドリック・ラマー、ゴーストフェイス・キラー(ジェイソン・モランはかつて、彼とアルバムを作ると言っていたことがある。結局、実現しなかったな)、ビラル(2001年8月18日)、ラファエル・サディーク(2009年6月30日)ら錚々たる人たちと接点を持つクリエイター/プロデューサーのエイドリアン・ヤングのショウは丸の内・コットンクラブで。ヒップホップのほうから制作の世界に入り、現在はアナログ感覚を持つ生理的にレトロな絵巻的サウンド(アルバム・ジャケットは1970年代のブラック・ムーヴィー風。というか、そういうものを音は求めているという触れ込みか)を作り出し、それらはジェイ・Z(2010年8月7日)やコモン(2004年6月11日、2005年9月15日、2015年9月23日)、DJプレミア(2015年1月30日)らがサンプリングしてもいる。てなわけで、現ブラック・ミュージック・シーンのもう一つの側の重要人物ということが可能な御仁だ。

 バリっと派手なスーツでまとめたヤングは何気に格好いい。彼はMCとキーボードとベースを担当し、加えてラテン系のベース/キーボード、2人の白人ギター奏者(一人はけっこうフルートも吹く)、白人ドラム、そして黒人シンガー(少し、キーボードを弾くときも)という布陣なり。キーボードはヴィンテージな物が置かれている。

 そして、プリセットの音は一切つかわず、がっつりバンド音で勝負。インスト部もたっぷり取られ、曲はけっこう組曲風に続けて披露されるのだが。。。。新作『SOMETHING ABOUT APRIL II』(Linear Labs)の乗りに負うとも説明できるのかもしれないが、アルバムと異なりドラムが完全にロックな叩き方をしていることもあってか、仕掛け×仕掛けみたいな感覚をもつバンド音は完全にいなたいプログ(レッシヴ)・ロック。ステージ横で休んでいるときも長いヴォーカル(ファルセットと地声を併用)は歌えるので、プログ・ソウルと説明したくなる人もいるか。ヴォーカルのロレン・オーディンの風情は若いときのアレキサンダー・オニール(2013年2月11日)を思わせる?

 その総体は変テコで、なんじゃコレ。楽曲やバンド・アレンジはまさに添え木のように不整合にくっつけられていて覚えにくいし、ロックを聞いて来た耳にはかなり時代が古い感覚もはらむ。あ、ヒップホップ臭が皆無だったのも意外だった。ながら、現在に堂々と(かなりルハーサルにも時間をかけているはず)、黒いんだか白いのだかも分らない酔狂極まりないなことをやるという行為は多大なツっぱりや独歩性を導く。見ている者から、笑いも引き出すしね。

▶過去の、ビラル
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-8.htm サマーソニック1日目
▶過去の、ラファエル・サディーク
http://43142.diarynote.jp/200907131157415716/
▶過去の、ジェイ・Z
http://43142.diarynote.jp/201008261617154352/
▶過去の、コモン
http://43142.diarynote.jp/200406130120280000/
http://43142.diarynote.jp/?day=20050915
http://43142.diarynote.jp/201509241127563839/
▶過去の、DJプレミア
http://43142.diarynote.jp/201501310942048841/
▶過去の、アレキサンダー・オニール
http://43142.diarynote.jp/201302181123344904/

 1958年生まれの歌手であるリサ・フィッシャー(2003年3月13日、同15日)の会場は、南青山・ブルーノート東京。場内がとても混んでいて、驚いた。1980年代上半期からルーサー・ヴァンドロス他のコーラスを担当するようになり、1989年の“スティール・ホイールズ・ツアー”以降のザ・ローリング・ストーンズ(2003年3月15日)のツアーにもこれまで参加している人物。ヴォーカル参加は、近年もボビー・マクフェリン(2004年2月3日、2012年3月2日、2015年3月23日)、ジョン・メイヤー(2007年4月5日)、ビリー・チィルズ(2012年3月15日)作など、いろいろ。彼女が入っていたチャイルズの2014年作はローラ・ニーロにトリビュートした1作で、チャイルズは今週にベッカ・スティーヴンス(2015年1月29日)らを擁して、そのアルバムに負うライヴを行うことになっている。

 フィッシャーのリーダー作はナラダ・マイケル・ウォルデン制作の『So Intense』(Elektra,1991年)一作のみ。←R&Bチャート1位となった同作収録のシングル曲「ホウ・キャン・アイ・イース・ザ・ペイン」はグラミー賞のベスト女性R&Bパフォーマンス賞も獲得。ストーンズ絡みの項目もあったのに、フィッシャーがそれ以降リーダー作を出していないのはけっこう謎。というのはともかく、だから彼女がどんなことをやるのか見当がつかず。というか、わりと王道にある大人R&Bをやるのかと思ったら……。

 各種ギターを扱うボヘミアン調風体を持つフランス人(少しエレクトリック・ピアノも弾く)、電気とアコースティックの両方を弾くベーシスト、マレットやブラシを多用するドラマーという3人のサポート奏者は皆白人。現在、彼女はそのグランド・バトンと名付けられたこのバンドとともに長丁場のツアーに出ている。

 そんな3人を擁して、彼女がおおらかに聞き手に送り出すのは、乱暴に言ってしまうなら、<カサンドラ・ウィルソン〜1999年8月27日、1999年9月2日、2001年2月12日、2004年9月7日、2008年8月11日、2010年6月13日、2011年5月5日、2013年5月31日、2015年3月19日〜的世界>。けっこう、びっくり。いやあ、ぼくはエフェクターを沢山並べたギタリストのJ.C.メイラードの背後にブランドン・ロス(2004年9月7日、2005年6月8日、2005年6月9日、2006年9月2日、2011年5月5日、2011年12月8日、2011年12月14日)なるものを見てしまいましたよ(←半分は嘘)。そんな隙間のある生理的にアコースティックなサウンドに、フィッシャーは肩の力が抜けた、スケールの大きな歌を悠々とのせていく。ウィルソン的と思わせるのは、ツェペリンやストーンズの曲も取り上げるのだが、その紐解き方(かなり改変する)がとても超然とし、かつ清新なものであるからだ。

 自然体なんだけど、オルタナティヴ。とっても風通しが良くて、清らかでもある、吟醸的黒さをもつヴォーカル・ミュージックのココロある具現、お見事でした。アルバムを出せば、いいのにな。

 ところで、ぼくは彼女に1990年代上半期にLAでインタヴューしているんだよなあ。入国審査の際、取材に来ましたと言ったり、観光で来ましたと言ったりと気分でバラバラに答えるのだが、そのときは前者の感じで答えたら、係官が興味を持って誰をインタヴューするのとか、◎△□には会ったことあるかとか、いろいろと聞いてきたのでなんとなく覚えている。でも、そのフィッシャーの取材がどこからの依頼で、どこに文章を書いたかなんてことは忘却の彼方。そのときはまだビル・ワイマンがストーンズ脱退前、全然動かないで彼はベースを弾くので、時々後からシールドを引っ張ってちょっかいを出すようにしていて、するとワイマンが何するんだおーと照れた顔でぬぼーと振り返るのがおもしろいのよと、彼女が言っていたのは覚えている。あと、スシのハマチが大好きと言っていたな。

▶過去の、リサ・フィッシャー
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-3.htm 13日、15日
▶過去の、ザ・ローリング・ストーンズ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-3.htm
▶過去の、ボビー・マクフェリン
http://43142.diarynote.jp/200402051853580000/
http://43142.diarynote.jp/?day=20120302
http://43142.diarynote.jp/201503241654351156/
▶過去の、ジョン・メイヤー
http://43142.diarynote.jp/200704112101130000/
http://43142.diarynote.jp/200806121400260000/
▶過去の、ビリー・チャイルズ
http://43142.diarynote.jp/201203161146266803/
▶過去の、ベッカ・スティヴンス
http://43142.diarynote.jp/201501301446383781/
▶過去の、カサンドラ・ウィルソン
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/augustlive.htm 
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/september1999live.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-2.htm
http://43142.diarynote.jp/200409070203440000/
http://43142.diarynote.jp/200808121357410000/
http://43142.diarynote.jp/201006181521416566/
http://43142.diarynote.jp/201105101010399933/
http://43142.diarynote.jp/201306060609052151/
http://43142.diarynote.jp/201503211741478728/
▶過去の、ブランドン・ロス
http://43142.diarynote.jp/?day=20040907
http://43142.diarynote.jp/200506120643190000/
http://43142.diarynote.jp/200506120644360000/
http://43142.diarynote.jp/200609031313220000/
http://43142.diarynote.jp/?month=201105
http://43142.diarynote.jp/201112171635194708/
http://43142.diarynote.jp/201112201158055043/

<今日の、個展>
 知人のデザイナー/DJの川崎義記(SKULLPOP)の、<STOWAWAY>と名付けたグループ展を、二つのライヴの間に見る。半蔵門・ANAGRA。カセットテープをテーマに据えた広角型展示がなされていて、会場には地下室もあり、急な階段を降りた秘密基地のような場での展示もあった。アナログなもの、どこか得体のしれない危ないものに対する、レトロにならないオマージュを飛躍させると説明してもいいかな。やはり、ネタがネタだけに音楽の何かと強くつながった展示ではあったはずだ。最終日の19時ごろ、人はまばらかなあと思っていたら、盛況。で、女性客が多い。きけば、出展者の一人がレピッシュの杉本恭一で、彼のファンが来ているのだとか。期間中には、彼のアコースティック・ライヴも持たれたようだ。