ヨーロッパのジャズの担い手のショウを、二つ見る

 丸の内・コットンクラブで見たレシェック・モジジェルは、ポーランドのトップ・ジャズ・マン。アルバムはナイーヴやACTなどからリリースしている。

 ソロによるパフォーマンス。その外見や話し方で、人を喰ったところがある好人物という感じが伝わっていたが……。彼はショパン曲を料理したアルバムを出していて、今回はショパン曲を題材に演奏するという触れ込みであった(数年前に来日して、そういう公演もやっているよう)が、ショパン曲はそんなにやらなかったじゃん。ショパンが前に出されるのは彼が同じポーランド人であるからだろうが、実は演奏した多くの曲も他のポーランド人が作った曲であったよう。それらを彼は楽しそうに、いろんな表情を持たせて弾いていく。なんか、当初ぼくが考えていた以上に、ポーランドのワビサビが滲む公演ではなかったか。クラシック教育をちゃんと積んでいる事実を示す一方で、曲によっては弦の上に物を乗せて部分的にミュートして、それを効果的に用いる演奏を彼は聞かせる(→翌日の公演では、ピアノの弦を切ってしまったそう)。へえ。それは、音の響きに対する敏感さが導くものだろう。ストーリー性を持つ、ともそれは指摘できるかな。

 その後の南青山・ブルーノート東京の出演者は、ドイツのビッグ・バンドであるNDRビッグバンド(2004年5月31日)。そこにピーター・アースキン(ドラム。(2012年6月21日、2013年6月26日、2014年12月14日)が加わり、彼が在籍したウェザー・リポートの曲を演奏するという出し物なり。編成は、5サックス、4トロンボーン、4トランペット、キーボード、エレクトリック・ベース(フレットレス)、ドラム、パーカッション。

 聞いていて、あれれ。「ティーン・タウン」のようにかなり解体を試みた曲もあったが、わりとフツー、予定調和と思わせるアンサンブルを取る曲が多かったから。スコアはヴィンス・メンドーサ他、何人かのものを集めたようだ。

 そして、ぼくはそうかと頷いた。ウェザー・リポートのアンサンブルってデューク・エリントン的と指摘されることもあるが、なるほどビッグ・バンド的なアレンジをこむら返りさせている所はあるんだろうな、と。だから、その原典をビッグ・バンド化するとわりと常識的、飛躍の少ない聴感を覚えることになってしまう……。ビッグ・バンド経験からプロ活動をスタートさせたアースキンがドラマーがなかなか固定しなかったウェザー・リポートのメンバーとして大活躍することができたという事実も、それを物語るではないか。いや、よりそういう意識をザヴィヌルが持ったゆえに、彼が重用されたとも考えられるかな。

▶︎過去の、NDRビッグバンド
https://43142.diarynote.jp/200406100011020000/
▶過去の、ピーター・アースキン
http://43142.diarynote.jp/201207031311348277/
http://43142.diarynote.jp/201306271617516710/
http://43142.diarynote.jp/201412281017371613/
▶過去の、デューク・エリントン・オーケストラ
http://43142.diarynote.jp/200504151006160000/
http://43142.diarynote.jp/200911212112151307/
http://43142.diarynote.jp/201011250609539822/
http://43142.diarynote.jp/201210201219525855/
http://43142.diarynote.jp/201411101738361046/

<今日の、指揮者>
 ところで、 NDRビッグバンドと WDRビッグ・バンドを、ぼくは混同していた。ともに、アメリカのアーティストと共演したアルバムを出しているドイツ(それぞれ、ハンブルグとケルンを拠点とする)のビッグ・バンドであるわけだが。今回、NDRビッグバンドを指揮したのは、オランダのメトロポール・オーケストラ(こちらは弦奏者もたくさんいる)の常任指揮を近年しているはずのジュールズ・バックリー。英国人である彼、とっても痩身の、まだ30代の若目の人でした。そのメトロポール・オーケストラはディノ・サルーシの『El Encuento』(ECM,2010年)やスナーキー・パピーのメジャー移籍盤『シルヴィア』(インパルス!、2015年)に共同リーダーとして名前が出されており、バックリーはそこで指揮や編曲をしている。というわけで、個人としてはまず彼の存在を確認したかったか。そしたら、丹精ながら控え目にディレクションを出す人で拍子抜けしちゃった。バックリーはトーリ・エイモス、パトリック・ワトソン(2008年11月12日、2009年8月8日、2010年1月21日)、マイケル・キヌワーカ(2013年4月9日)、UNKLEなどのポップ・アーティストへのストリングス音提供もしている。
▶過去の、パトリック・ワトソン
http://43142.diarynote.jp/200811131201183307/
http://43142.diarynote.jp/200908181435528052/
http://43142.diarynote.jp/201001241245595036/
▶過去の、マイケル・キヌワーカ
http://43142.diarynote.jp/201304101851422199/

追記:後日インタヴューしたモジジェルさんは、哲学的とも言える答えをしてきて、少し驚く。とともに、スラブ人としての自負を多大にお持ちでした。