この晩もライヴをハシゴ。まず、南青山・ブルーノート東京で、米国人シンガーのリアノン・ギデンズを見る。彼女が一声を発するやいなや場の空気が震え、色が変わる。こりゃ、とんでもない歌い手の公演を見ているのだと一発で了解しちゃう。

 ジョー・ヘンリー(2010年4月2日、2010年4月4日、2012年10月16日)制作の2010年作『GENUINE NEGRO JIG』(Nonesuch)がグラミー賞のベスト・トラディッショナル・アルバムとなったキャロライナ・チョコレート・ドロップスのシンガーで、昨年T・ボーン・バーネットのプロデュースのリーダー作『Tomorrow Is My Turn』(Nonesuch)を出してもいる喉自慢さん。よく通るその声は歌にまつわる正の要素をすべて抱えるとか言いたくなる? 彼女はときにバンジョーを持つ場合も。マイク・スタンドの横には2本もフィドルが置かれていたが、それを手にすることななかった。

 伴奏は、キャロライナ・チョコレート・ドロップスの2人のメンバーを含む6人にて。生ギター/バンジョー/マンドリン、生ギター/バンジョー、エレクトリック・ギター/フィドル、アコースティック・ベース、ドラムという布陣。彼らの演奏もうっとりするほど勘所をつかみ、渋いもので感服。

 その新リーダー作はトラッドや米国ポピュラー・ミュージックの襞となる人たちの曲を趣味良く紐解く内容。ようは、米国ルーツ・ミュージックの豊穣さを今の凛とした姿勢とともに伝えるものだったが、それは実演も同じ。ながら、ライヴの場ならではの輝きをともなっていて高揚しちゃう。とともに、米国の音楽財産のすごさを実演は伝え、気が遠くもなった。今年のベスト10に入るだろう好公演ナリ。

▶過去の、ジョー・ヘンリー
http://43142.diarynote.jp/201004080752097392/
http://43142.diarynote.jp/201004080754018553/
http://43142.diarynote.jp/201210201218283712/

 そして、丸の内・コットンクラブで、昨年の東京ジャズの野外ステージ出演(の映像)を通じて、多大な知名度を獲得した女性ピアニスト(2015年9月5日)をセカンド・ステージから見る。さすが、話題の人、フル・ハウスなり。

 ジャズとジャジーなクラブ・ミュージックの両刀で行っている女性で、エイベックス発の デビュー作は後者のほうに近いが、この晩のライヴではその両方を自由に行ったり来たりする。ゆえにピアノ・トリオ(エレクトリック・ベースの山本連、ドラマーの山内陽一郎。山内の演奏、けっこう好み)、そこにギター(鈴木直人)や牧野雅巳(DJ)が入ったりと、お膳立てはいろいろ。

 彼女はグランド・ピアノ主体(音に少し不快なイコライジングがかけられていた。なぜ?)に、キーボードやショルダー・キーボードも少し弾くし、最後はピアノ・ソロでしめた。それらのソロの長さはたっぷり取られ、かなり饒舌にして、生理的に奔放。それは彼女のイケイケなイメージとも合うし、ときに粒立つ感覚を彼女の指さばきが美点として持つことを伝える。ぼくは一瞬ボビー・エンリケスというリッチー・コール絡みで1970年代に世に出た弾きまくりピアニストのこと(全盛期の彼も電気ベーシストを起用していた)を思い出してしまった。けっこう、若い時分にエンリケスのことが明解で好きでした。

 客に弾いてもらったフレーズを元にカルテットで演奏するんてこともして、その際はかなりゴスペルぽい弾き方をした。MCは超ハイパー。ディスられても、ジャズの敷居を下げて愛好者を増やしたいと思っている彼女、恐いモノ知らずで突っ走ってほしいな。

▶過去の、高木里代子
http://43142.diarynote.jp/201509211331298145/

<今日の、映画>
 英国の実像不明にしてゲリラ性をともなう街頭グラフィティ・アート中心のモダン・アート大家であるバンクシー(1974年、ブリストル生まれという説あり)の行動を引き金とするNYの模様を扱ったドキュメンタリー映画「バンクシー・ダズ・ニューヨーク」(クリス・モーカーベル監督、2014年アメリカ)の試写を渋谷・アップリンクで見る。バンクシーは2013年10月1日から31日まで、ニューヨークの路上に様々な作品を1日1点づつ残すという酔狂なことを敢行。それは自己サイトで作品の簡単な告知のみがなされ、人々がそれを右往左往しながら見つけていく様(彼らによるツイッターやインスタグラム等も映像活用する)や実際のありゃりゃの街頭展示の模様を紹介する。当然、匿名であることを是とする当人は映画には一切出てこないが、バンクシー側がそれなりの準備をかけて一連の展示をやったことはすぐに了解できるし、それはグラフィティ・アートを生んだNYに対する思慕も引き金になっていると思わされる。そして、そにはやはりバンクシーをバンクシーたらしめる反骨の精神がどーんとあるわけで、この31日間の行動的展示は彼のこれまでの流儀を分りやすく括りもしている。で、最終的にはバンクシーのクールな戦略的活動理念に唸ってしまう。それなくしては、彼の原画1点がウン十万ドルという評価は生まれていないはず。そんなツっぱった彼なので、特定の企業や個人とコラボることはほとんどなく、彼が担当したブラー(2003年5月31日)の『シンク・タンク』(ヴァージン、2003年)やその時期のシングルのジャケット・カヴァーは例外のもとなる。
▶過去の、ブラー
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-5.htm