八代亜紀 モナムール by 前田憲男。ニッキー・ヤノフスキー
2014年3月13日 音楽 63歳の日本人歌手と、20歳のカナダ人歌手の公演をはしごする。
まず、八代亜紀(2012年11月9日)の公演は、上野・東京文化会館(小ホール)。その会場に示唆されるように、通常の演歌/歌謡曲公演ではなく、ヴェテランのジャズ・ピアニストでポピューラー畑の作・編曲家でもある前田憲男(2009年5月19日)が舵取りをする出し物。そして、私の愛する人=mon amourという表題が示すように、いろんな愛の歌を、普段とは異なる伴奏設定のもと披露する。50分弱のものが、休憩を挟んで2つ。モナムールというコンセプトにはかなり拘っているようで、各セットには3箇所、愛の形を痒く綴る事前録音されたナレーション(八代によるとともに、男性のそれもあった)がインサートされたりもする。ゆえに、本編は生の八代のMCはほぼ入らない。
ステージ上には、八代に加え、ピアノを弾く前田、電気とガットを弾くギター(ジャズ・ギタリストの細野義彦)と2人のバックグラウンド・シンガー。その4人の男性陣は蝶ネクタイ+タキシードの正装。テナーとバリトンのコーラスは朝コータローと山崎イサオという、世間をなめたアーティスト表記を持ちながらも立派なご老人。彼らはダークダックスを25%に薄めたような品のいいコーラスを曲によっては入れるし、各ショウに1曲づつ、八代抜きで(ステージにはそのままいる)2人が歌う曲も入れられていた。1曲、2人がドゥーワップ調のコーラスを付けた曲もあったが、手拍子が起こったのはテンポの良いその曲だけ。という事実を見ても、ショウ/サウンドのあり方が少しは分るか。乱暴な言い方をすれば、オトナなMOR的指針を取る、とでもなるかもしれない。
半分ぐらいは彼女の持ち歌であったようだが、他はテーマに合致する新旧の日本の曲であったり、日本語歌詞を持つシャンソンやカンツォーネなど海外オリジン曲を披露したみたい。2012年ジャズ傾向作『夜のアルバム』に入っていた米国スタンダードの「クライ・ミー・ア・リヴァー」は英語で歌った。
どんなサウンドであろうと、どんな曲であろうと、八代の声や情緒は全開。で、感心したのは、譜面台のようなものは置いておらず、普段は歌っていない曲もあったろうがちゃんと空で、完全に危なげなく歌っていたこと。うーぬ、プロ。→この話題、一番下の欄外原稿に続く。
▶過去の八代
http://43142.diarynote.jp/201211170926496101/
▶過去の、前田憲男
http://43142.diarynote.jp/?day=20090519
その後は、南青山・ブルーノート東京で、ミドルティーンでジャズ・シンガーとしてアルバム・デビューし、近年はクインシー・ジョーンズ(2013年8月1日)の覚えもめでたいカナダ人歌手(2009年8月3日、2013年8月1日)を見る。近く出るジョーンズ制作のサード作『リトル・シークレット』(デッカ)は大雑把に言えばエイミー・ワインハウス的レトロ・ソウル路線(彼女はワインハウスの大ファン)を取るもので、今回はその行き方とかつてのジャズ志向を両手に持とうとする実演を見せた。蛇足だが、彼女のセカンド作はフィル・ラモーンの制作で、柱となるのはジェシー・ハリス(2002年12月21日、2005年9月7日、2006年1月23日、2006年4月22日、2007年3月11日、2009年3月31日、2009年4月4日、2010年4月4日、2010年10月10日、2011年8月6日、2012年7月16日、2013年5月26日)とロン・セクスミス(1999年9月11日)とヤノフスキー三者共作による4曲だった。
ピアノ、ギター、ベース(ウッドと電気)、ドラムという演奏陣がサポート。彼らはNYのミュージシャンを中心に、ベーシストはカナダ人。仕事で家を離れることは多いものの、彼女はモントリオールにいまだ住んでいて、米国に移る気はないよう。そんな彼女は天真爛漫なノリでショウを進めるが、少しだけやった日本語のMCがキュート。やはり、何かをもっているんだろうな。
終盤、ギター1本の演奏のもと、エタ・ジェイムズが1968年に発表したソウル・スタンダード「アイド・ラザー・ゴー・ブラインド」を歌う。ロッド・スチュワート(2009年3月11日)の名唱でも知られ、映画「キャデラック・レコード」(2009年5月26日)でもジェイムズ役のビヨンセ・ノウルズ(2001年6月25日、2006年9月4日)がそこで歌っていた曲。へえ、こんな生理的に重い(と、ぼくは思う)曲も歌うんだア。なぜ、この曲を彼女が取り上げたかは知らないが、大人の歌手としてまっすぐに進んで行くワという覚悟のようなものがそこには表れていたかもしれない。
▶過去の、ヤノフスキ
http://43142.diarynote.jp/200908071505027543/
http://43142.diarynote.jp/201308091149599475/
▶過去の、ジョーンズ
http://43142.diarynote.jp/201308091149599475/
▶過去の、ハリス
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-12.htm
http://43142.diarynote.jp/200509130315380000/
http://43142.diarynote.jp/?day=20060123
http://43142.diarynote.jp/200604251252010000/
http://43142.diarynote.jp/200703130418360000/
http://43142.diarynote.jp/200904040640421651/
http://43142.diarynote.jp/200904120632543345/
http://43142.diarynote.jp/?day=20100404
http://43142.diarynote.jp/?day=20101010
http://43142.diarynote.jp/201108101632022013/
http://43142.diarynote.jp/201207180824136323/
http://43142.diarynote.jp/201305280925006733/
▶過去の、セクスミス
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/september1999live.htm
▶過去の、スチュワート
http://43142.diarynote.jp/200903130124118315/
▶過去の、キャデラック・レコード
http://43142.diarynote.jp/200905271738046764/
▶過去の、ビヨンセ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-6.htm
http://43142.diarynote.jp/200609070212050000/
<今日の、音楽観>
そういえば、かつてピアニストの加古隆(パリ在住時代の1970年代後期にTOKというトリオ名でECMから出した作品は本当に素晴らしい)が自分のライヴのさい絶対に譜面を置かないことをさし、「だって、役者で台本を手に舞台に出る人がいますか」と、インタヴュー時に言っていたことがある。同意。実は、学生時代に自分がリーダーのバンドのさいオリジナル曲をやっていて、ステージ上で魔がさしたようによく知っているはずの自分の歌詞が一節すうっと頭から消えて絶句しかかったことがある。そんな青くなる経験から、歌詞をちゃんと歌うことが難儀であるのは知っているつもり。だけど、やはり中央に立つシンガーは基本フメン台を置いてはいけないと、ぼくは思う。もちろん、ヤノフスキも譜面(歌詞カード)台を前にしてはいなかった。
まず、八代亜紀(2012年11月9日)の公演は、上野・東京文化会館(小ホール)。その会場に示唆されるように、通常の演歌/歌謡曲公演ではなく、ヴェテランのジャズ・ピアニストでポピューラー畑の作・編曲家でもある前田憲男(2009年5月19日)が舵取りをする出し物。そして、私の愛する人=mon amourという表題が示すように、いろんな愛の歌を、普段とは異なる伴奏設定のもと披露する。50分弱のものが、休憩を挟んで2つ。モナムールというコンセプトにはかなり拘っているようで、各セットには3箇所、愛の形を痒く綴る事前録音されたナレーション(八代によるとともに、男性のそれもあった)がインサートされたりもする。ゆえに、本編は生の八代のMCはほぼ入らない。
ステージ上には、八代に加え、ピアノを弾く前田、電気とガットを弾くギター(ジャズ・ギタリストの細野義彦)と2人のバックグラウンド・シンガー。その4人の男性陣は蝶ネクタイ+タキシードの正装。テナーとバリトンのコーラスは朝コータローと山崎イサオという、世間をなめたアーティスト表記を持ちながらも立派なご老人。彼らはダークダックスを25%に薄めたような品のいいコーラスを曲によっては入れるし、各ショウに1曲づつ、八代抜きで(ステージにはそのままいる)2人が歌う曲も入れられていた。1曲、2人がドゥーワップ調のコーラスを付けた曲もあったが、手拍子が起こったのはテンポの良いその曲だけ。という事実を見ても、ショウ/サウンドのあり方が少しは分るか。乱暴な言い方をすれば、オトナなMOR的指針を取る、とでもなるかもしれない。
半分ぐらいは彼女の持ち歌であったようだが、他はテーマに合致する新旧の日本の曲であったり、日本語歌詞を持つシャンソンやカンツォーネなど海外オリジン曲を披露したみたい。2012年ジャズ傾向作『夜のアルバム』に入っていた米国スタンダードの「クライ・ミー・ア・リヴァー」は英語で歌った。
どんなサウンドであろうと、どんな曲であろうと、八代の声や情緒は全開。で、感心したのは、譜面台のようなものは置いておらず、普段は歌っていない曲もあったろうがちゃんと空で、完全に危なげなく歌っていたこと。うーぬ、プロ。→この話題、一番下の欄外原稿に続く。
▶過去の八代
http://43142.diarynote.jp/201211170926496101/
▶過去の、前田憲男
http://43142.diarynote.jp/?day=20090519
その後は、南青山・ブルーノート東京で、ミドルティーンでジャズ・シンガーとしてアルバム・デビューし、近年はクインシー・ジョーンズ(2013年8月1日)の覚えもめでたいカナダ人歌手(2009年8月3日、2013年8月1日)を見る。近く出るジョーンズ制作のサード作『リトル・シークレット』(デッカ)は大雑把に言えばエイミー・ワインハウス的レトロ・ソウル路線(彼女はワインハウスの大ファン)を取るもので、今回はその行き方とかつてのジャズ志向を両手に持とうとする実演を見せた。蛇足だが、彼女のセカンド作はフィル・ラモーンの制作で、柱となるのはジェシー・ハリス(2002年12月21日、2005年9月7日、2006年1月23日、2006年4月22日、2007年3月11日、2009年3月31日、2009年4月4日、2010年4月4日、2010年10月10日、2011年8月6日、2012年7月16日、2013年5月26日)とロン・セクスミス(1999年9月11日)とヤノフスキー三者共作による4曲だった。
ピアノ、ギター、ベース(ウッドと電気)、ドラムという演奏陣がサポート。彼らはNYのミュージシャンを中心に、ベーシストはカナダ人。仕事で家を離れることは多いものの、彼女はモントリオールにいまだ住んでいて、米国に移る気はないよう。そんな彼女は天真爛漫なノリでショウを進めるが、少しだけやった日本語のMCがキュート。やはり、何かをもっているんだろうな。
終盤、ギター1本の演奏のもと、エタ・ジェイムズが1968年に発表したソウル・スタンダード「アイド・ラザー・ゴー・ブラインド」を歌う。ロッド・スチュワート(2009年3月11日)の名唱でも知られ、映画「キャデラック・レコード」(2009年5月26日)でもジェイムズ役のビヨンセ・ノウルズ(2001年6月25日、2006年9月4日)がそこで歌っていた曲。へえ、こんな生理的に重い(と、ぼくは思う)曲も歌うんだア。なぜ、この曲を彼女が取り上げたかは知らないが、大人の歌手としてまっすぐに進んで行くワという覚悟のようなものがそこには表れていたかもしれない。
▶過去の、ヤノフスキ
http://43142.diarynote.jp/200908071505027543/
http://43142.diarynote.jp/201308091149599475/
▶過去の、ジョーンズ
http://43142.diarynote.jp/201308091149599475/
▶過去の、ハリス
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-12.htm
http://43142.diarynote.jp/200509130315380000/
http://43142.diarynote.jp/?day=20060123
http://43142.diarynote.jp/200604251252010000/
http://43142.diarynote.jp/200703130418360000/
http://43142.diarynote.jp/200904040640421651/
http://43142.diarynote.jp/200904120632543345/
http://43142.diarynote.jp/?day=20100404
http://43142.diarynote.jp/?day=20101010
http://43142.diarynote.jp/201108101632022013/
http://43142.diarynote.jp/201207180824136323/
http://43142.diarynote.jp/201305280925006733/
▶過去の、セクスミス
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/september1999live.htm
▶過去の、スチュワート
http://43142.diarynote.jp/200903130124118315/
▶過去の、キャデラック・レコード
http://43142.diarynote.jp/200905271738046764/
▶過去の、ビヨンセ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-6.htm
http://43142.diarynote.jp/200609070212050000/
<今日の、音楽観>
そういえば、かつてピアニストの加古隆(パリ在住時代の1970年代後期にTOKというトリオ名でECMから出した作品は本当に素晴らしい)が自分のライヴのさい絶対に譜面を置かないことをさし、「だって、役者で台本を手に舞台に出る人がいますか」と、インタヴュー時に言っていたことがある。同意。実は、学生時代に自分がリーダーのバンドのさいオリジナル曲をやっていて、ステージ上で魔がさしたようによく知っているはずの自分の歌詞が一節すうっと頭から消えて絶句しかかったことがある。そんな青くなる経験から、歌詞をちゃんと歌うことが難儀であるのは知っているつもり。だけど、やはり中央に立つシンガーは基本フメン台を置いてはいけないと、ぼくは思う。もちろん、ヤノフスキも譜面(歌詞カード)台を前にしてはいなかった。