映画「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」
2014年3月27日 音楽 六本木・シネマートで、コーエン兄弟の2013年映画の試写を見る。カンヌの映画祭の批評家特別賞をとるなどしている好評作のようだが、ふむふむこれは音楽映画と言ってもいい、音楽のいろんな用件やそれへの愛を通過した映画だな。もちろん、良く出来たライヴやレコーディングのシーンも出てくる。
ボブ・ディラン以前のグリニッジ・ヴィレッジのフォーク・シーンの新しい波を体現していたフォーク歌手のデイブ・ヴァン・ロンク(1936〜2002年、リーダー作は山ほど)の回想録「The Mayor of Macdougal Street」(マンハッタンのダウンタウンの通り名を冠したそれは、ロンクの愛称でもあったという)を下敷きにしたもので、主となる舞台は1961年のNY。ディランも、ロンクにおおいに憧れたそうな。
ロンクからインスピレーションを受けた主人公はなかなか芽のでない悩み多いフォーク歌手で、それをグアテマラ出身のオスカー・アイザックが演じる。彼はジュリアード音楽院出身とのことで、演奏シーンは彼がまんまギター弾き語りをしているとか。なんでも、コーエン兄弟は当初ミュージシャンを役者として起用したかったそう。だが、演技力の問題でそれはかなわず、ちゃんと役者を使うことになったらしい。近年ミュージシャンが役者をやって印象的な映画というと、グラン・ハンサード(2009年5月20日、2009年1月15日)が主演した「ONCE ダブリンの街角で」を思い出すが、うーぬ、誰かいい演技のできるミュージシャンはいなかったか。かつてのクリス・クリストファーソンとかライル・ラヴェットとか、またヒップホップ期以降になるとウィル・スミス(ザ・フレッシュ・プリンス)やアイス・Tとか、いろいろ俳優として成功もしている人もいるわけだが……。
とはいえ、アイザックの弾き語りはまっとうでちゃんとした味あり。この映画の成功を引き金に彼がライヴをやると聞いても、ぼくは驚かない。ヴィンセント・ギャロ(2010年12月2日、2013年4月27日)やティム・ロビンス(2011年8月10日)のように、興行が成り立つかはやぶさかではないけれど。その主人公と浮気をして妊娠している女性シンガーと私生活/音楽ともにペアを組む真面目そうなミュージシャンの役を演じているのは、元イン・シンクのジャスティン・ティンバーレイクだ。彼、うまく演じていると思う。
新たな展開を求めて、主人公がちょいシカゴに行った際、同地のライヴ・クラブのオーナーに自分を売り込むシーンが出てくるが、それはそのころ同地でライヴ・ハウスをやっていたアルバート・グロスマンがモデルとか。彼はピーター・ポール&マリーやボブ・ディランのマネージャーをやったことで知られるが、今度男二人と女一人のグループ(ピーター・ポール&マリーのことだろう)を組むのでそれに入らないかと、その男が主人公を誘うシーンもあり。そのグロスマンがNY/ウッドストックに引っ越してくるのは1964年と言われていて、1970年代に入ると彼はレコード会社のベアズヴィルを設立するわけだ。彼(1986年に、56歳でなくなっている)がいなかったら、ディランや、当初ベアズヴィル・スタジオのハウス・エンジニアをしていたトッド・ラングレン(2001年11月9日、2002年9月19日、2002年9月28日、2008年4月7日、2010年10月10日)らはまた別な人生を歩んでいたかもしれない。
映画の最後に、ボブ・ディランとおぼしき青年のライヴ弾き語りシーンが用意されるが、それに使われる音楽は、ディランが未レコード化の初期曲を提供したものであるのだそう。この映画の音楽監督(サントラはワーナー・ブラザーズ発)は、「ビッグ・リボウスキ」や「オー・ブラザー!」などコーエン兄弟と太い関わりを持つT・ボーン・バーネット。でもって、マムフォード&サンズ(2013年7月30日)のマーカス・マムフォードもアシスタント音楽監督をしている。先に触れた妊娠している女性シンガーを演じる英国人女優のキャリー・マリガンはマムフォードの嫁でもある。
とかなんとか、いろんな音楽面の襞を経た映画だが、1961年という時代の空気感やヴィレッジのフォーク・シーンが、コーエン兄弟らしい含みや身妙な諧謔のもと、すうっと表れ出る。今じじいにさしかかる年代の、米国ユース・カルチャーのなぜか雄弁な裏面史、なんちって。やはり、甘酸っぱい。見る人によっては、生理的に忘れていたもの、置いて来たものものを、もう一度を取り戻させる感覚を持たせるだろうし、若い世代にとっては未知の新しい何かを存分に感じさせるのではないか。
あと、猫がけっこう重要な位置にいて、猫好きの人には勧められる? 主人公が街角や地下鉄で猫をかかえる姿に共感しちゃう人は少なくないのではないか。5月にロードショー公開。
▶過去の、スウェル・シーズン(グレン・ハンサード)
http://43142.diarynote.jp/200905221027321644/
http://43142.diarynote.jp/200901161818098587/
▶過去の、マムフォード
http://43142.diarynote.jp/201308021400578638/
▶過去の、ラングレン
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/LIVE-2001-11.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-9.htm
http://43142.diarynote.jp/200804081929500000/
http://43142.diarynote.jp/201010111257003810/
▶過去の、ロビンス
http://43142.diarynote.jp/201108101642342395/
▶過去の、ギャロ
http://43142.diarynote.jp/?day=20101202
http://43142.diarynote.jp/201304291753401318/
<今日の、告知>
四谷の いーぐる というお店(普段は、立派なオーディオ・システムを持つジャズをかける老舗のお店)
http://www.jazz-eagle.com/information.html
で、レコードをかけておしゃべりをします。3回目になるのかな。
その内容は
<美は乱調にあり。ジェイムズ・ブラッド・ウルマーを巡る冒険>
オーネット・コールマンのハーモロディック・ファンクの立役者であった、ジェイムズ・ブラッド・ウルマーを中心に、ジャズの鬼っ子楽器であるギターを武器にジャズのフィールドを闊歩した無頼漢たちを追う。本来、真性ブルース・マンであったはずのウルマー(やピート・コージー)をなぜコールマン(やマイルズ・デイヴィス)は必要としたのか。また、何故に枠に収まりきれない狼藉ギタリストたちは1970年代以降、オルタナティヴなジャズのフィールドから自己表現を問う事が少なくなかったのか。それを考察することは、ジャズの米国黒人音楽としての襞を、そして現代ポップ・ミュージックの悲劇を探ることに他ならない。
てな、かんじで、切れてたりコワれてたりするギタリストをいろいろかけつつ、米国ブラック・ミュージックの素敵を浮き上がらせたらと思います。
値段は、600円+飲み物代。と、そんなには高くありません。予約もいりませんので、フラっとおいでいただけたら。。。
二時間半強はやりまーす。
ボブ・ディラン以前のグリニッジ・ヴィレッジのフォーク・シーンの新しい波を体現していたフォーク歌手のデイブ・ヴァン・ロンク(1936〜2002年、リーダー作は山ほど)の回想録「The Mayor of Macdougal Street」(マンハッタンのダウンタウンの通り名を冠したそれは、ロンクの愛称でもあったという)を下敷きにしたもので、主となる舞台は1961年のNY。ディランも、ロンクにおおいに憧れたそうな。
ロンクからインスピレーションを受けた主人公はなかなか芽のでない悩み多いフォーク歌手で、それをグアテマラ出身のオスカー・アイザックが演じる。彼はジュリアード音楽院出身とのことで、演奏シーンは彼がまんまギター弾き語りをしているとか。なんでも、コーエン兄弟は当初ミュージシャンを役者として起用したかったそう。だが、演技力の問題でそれはかなわず、ちゃんと役者を使うことになったらしい。近年ミュージシャンが役者をやって印象的な映画というと、グラン・ハンサード(2009年5月20日、2009年1月15日)が主演した「ONCE ダブリンの街角で」を思い出すが、うーぬ、誰かいい演技のできるミュージシャンはいなかったか。かつてのクリス・クリストファーソンとかライル・ラヴェットとか、またヒップホップ期以降になるとウィル・スミス(ザ・フレッシュ・プリンス)やアイス・Tとか、いろいろ俳優として成功もしている人もいるわけだが……。
とはいえ、アイザックの弾き語りはまっとうでちゃんとした味あり。この映画の成功を引き金に彼がライヴをやると聞いても、ぼくは驚かない。ヴィンセント・ギャロ(2010年12月2日、2013年4月27日)やティム・ロビンス(2011年8月10日)のように、興行が成り立つかはやぶさかではないけれど。その主人公と浮気をして妊娠している女性シンガーと私生活/音楽ともにペアを組む真面目そうなミュージシャンの役を演じているのは、元イン・シンクのジャスティン・ティンバーレイクだ。彼、うまく演じていると思う。
新たな展開を求めて、主人公がちょいシカゴに行った際、同地のライヴ・クラブのオーナーに自分を売り込むシーンが出てくるが、それはそのころ同地でライヴ・ハウスをやっていたアルバート・グロスマンがモデルとか。彼はピーター・ポール&マリーやボブ・ディランのマネージャーをやったことで知られるが、今度男二人と女一人のグループ(ピーター・ポール&マリーのことだろう)を組むのでそれに入らないかと、その男が主人公を誘うシーンもあり。そのグロスマンがNY/ウッドストックに引っ越してくるのは1964年と言われていて、1970年代に入ると彼はレコード会社のベアズヴィルを設立するわけだ。彼(1986年に、56歳でなくなっている)がいなかったら、ディランや、当初ベアズヴィル・スタジオのハウス・エンジニアをしていたトッド・ラングレン(2001年11月9日、2002年9月19日、2002年9月28日、2008年4月7日、2010年10月10日)らはまた別な人生を歩んでいたかもしれない。
映画の最後に、ボブ・ディランとおぼしき青年のライヴ弾き語りシーンが用意されるが、それに使われる音楽は、ディランが未レコード化の初期曲を提供したものであるのだそう。この映画の音楽監督(サントラはワーナー・ブラザーズ発)は、「ビッグ・リボウスキ」や「オー・ブラザー!」などコーエン兄弟と太い関わりを持つT・ボーン・バーネット。でもって、マムフォード&サンズ(2013年7月30日)のマーカス・マムフォードもアシスタント音楽監督をしている。先に触れた妊娠している女性シンガーを演じる英国人女優のキャリー・マリガンはマムフォードの嫁でもある。
とかなんとか、いろんな音楽面の襞を経た映画だが、1961年という時代の空気感やヴィレッジのフォーク・シーンが、コーエン兄弟らしい含みや身妙な諧謔のもと、すうっと表れ出る。今じじいにさしかかる年代の、米国ユース・カルチャーのなぜか雄弁な裏面史、なんちって。やはり、甘酸っぱい。見る人によっては、生理的に忘れていたもの、置いて来たものものを、もう一度を取り戻させる感覚を持たせるだろうし、若い世代にとっては未知の新しい何かを存分に感じさせるのではないか。
あと、猫がけっこう重要な位置にいて、猫好きの人には勧められる? 主人公が街角や地下鉄で猫をかかえる姿に共感しちゃう人は少なくないのではないか。5月にロードショー公開。
▶過去の、スウェル・シーズン(グレン・ハンサード)
http://43142.diarynote.jp/200905221027321644/
http://43142.diarynote.jp/200901161818098587/
▶過去の、マムフォード
http://43142.diarynote.jp/201308021400578638/
▶過去の、ラングレン
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/LIVE-2001-11.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-9.htm
http://43142.diarynote.jp/200804081929500000/
http://43142.diarynote.jp/201010111257003810/
▶過去の、ロビンス
http://43142.diarynote.jp/201108101642342395/
▶過去の、ギャロ
http://43142.diarynote.jp/?day=20101202
http://43142.diarynote.jp/201304291753401318/
<今日の、告知>
四谷の いーぐる というお店(普段は、立派なオーディオ・システムを持つジャズをかける老舗のお店)
http://www.jazz-eagle.com/information.html
で、レコードをかけておしゃべりをします。3回目になるのかな。
その内容は
<美は乱調にあり。ジェイムズ・ブラッド・ウルマーを巡る冒険>
オーネット・コールマンのハーモロディック・ファンクの立役者であった、ジェイムズ・ブラッド・ウルマーを中心に、ジャズの鬼っ子楽器であるギターを武器にジャズのフィールドを闊歩した無頼漢たちを追う。本来、真性ブルース・マンであったはずのウルマー(やピート・コージー)をなぜコールマン(やマイルズ・デイヴィス)は必要としたのか。また、何故に枠に収まりきれない狼藉ギタリストたちは1970年代以降、オルタナティヴなジャズのフィールドから自己表現を問う事が少なくなかったのか。それを考察することは、ジャズの米国黒人音楽としての襞を、そして現代ポップ・ミュージックの悲劇を探ることに他ならない。
てな、かんじで、切れてたりコワれてたりするギタリストをいろいろかけつつ、米国ブラック・ミュージックの素敵を浮き上がらせたらと思います。
値段は、600円+飲み物代。と、そんなには高くありません。予約もいりませんので、フラっとおいでいただけたら。。。
二時間半強はやりまーす。