恵比寿・リキッドルーム。10分強前に会場入り。話題の新人バンドだけど、思ったほどは混んでいないなあなぞと悠長に構えていたら、おおお。定時にショウが始まって回りを見回したら人人人、ギチギチ。飲みモノを補給しに出たら、元の場所には帰れない事を悟る。ぼくもクロスビート誌の2012年のベスト10にそのデビュー作を入れたけど、やはり注目を集めているのだなー。ま、本国ではもっとそう。総合チャート8位まで登ったという数字以上に業界評価は高いようで、グラミー賞で3部門もノミネートを受けているようだ。グラミー賞って業界の内輪賞賛会みたいなものでとったから偉いと言うべきものでもないが〜行儀のいい担い手はじじい受けして、受賞しやすいいなんてハナシもあったりしたな〜、なんか1部門はとるのではないだろうか。
 
 バンド名にあるように、米国南部アラバマ州のアセンズ(R.E.M.他を輩出しているジョージア州アセンズとは別ね)から飛び出した白人バンド。歌とギターのブリタニー・ハワードを中心に、ギター、ベース、ドラム。そして、ステージにはサポートだろう、とっぽい外見を持つキーボード奏者もあがる。彼女たちが送り出しているのは、ざっくりとした南部調ロッキン・ソウル。ハンブル・パイのようなギター・バンド基調のR&Bなんて、説明もできるか。レトロというかオールド・スクールとういか、それは存分に古くささを持つものである。

 アルバムを聞いたときに何より印象に残ったのは、ハワード嬢の声の持つ掠れ。先達表現への憧憬をたっぷり抱えたそのソウルフルな喉/歌い回しの上澄みのようなものが、ぐわりと空間をゆがませ、なぜか今っぽい襞を感じさせるところがあって、とても興味深く思えた。そこら辺たとえば、特にアルバムではレトロ感覚一辺倒のヴィンテージ・トラブル(2012年8月20日)とは大きく異なる。なんか、彼女たちのアルバムには古い感じでも、不思議な今がどこかにあった。

 なるほど、写真で確認できように、太目で眼鏡をしたハワードはルックスで売るタイプではない。そういう側面は、ジャニス・ジョプリンをもろに思い出させるだろう。自分だけにしか見えない光をつかもうとするかのように白人離れしたソウルフルな喉を絞るという構図もかなり重なる。だが、屈強な味がバカでかい暗部/虚無感のようなものを導いたジョプリンに比して、仕草やちょっとした発言が明るいハワードの歌には陰の部分はあまりない。もっと円満、学生サークル的な和気あいあいさも持つ。であるのに、ヒリヒリしたギザギザ感覚が彼女の歌に在するのが実演ではより露で、聞く者をとんどん自分の領域に引き込んじゃう。わあ、受け手は不可解な高揚を覚えざるをえない。やはり、すごい訴求力を持つし、今に生きる歌手なのだと頷かせるところを彼女は持つ。そこらへん、うまく言葉では説明できないのだが。

 彼女たちの曲は皆アラバマ・シェイクス名で作曲クレジットされていて、それはどれもジャムりながら曲が完成されることを示しているだろう。ほのかな既知感はあり、部分的にCCR他を思い出させる曲もある。また、バンドの伴奏はうまくない。でも、そうした至らない面なんかクソくらえ、それより優先するもの、その先に燦然と輝くものが彼女たちにはある。久しぶりに、理屈を超えたポップ・ミュージックの素敵を存分に感じさせられたとも言えるか。とともに、将来ある若者たちが、本物のサザン・ソウル様式に体当たりし、何かをスパークさせている様が、見る者の心を打つのダと了解。また、ぼく個人的には、南部的なおおらかで飾らない価値観を彼らが送り出している事実にも大きな魅力を覚えた。部分的には力がないのに、とっても力のある存在を、ぼくは真っ向から受けた。
 
 当然のことながら、客の反応も熱い。一部の客は暴走気味。かけられるわちゃくちゃな嬌声、多数。すぐ後ろの女性客は時々思いついた(取り憑かれた?)ように、はなもげら調で音程もリズムも狂った歌声を合わせて出す。決して小さくはない音量で、それには気を散らされてまいった。いつも以上に心酔している熱心なファンが集まっていた公演であったのも疑いがない。

<今日の、コンピ盤>
 EMIミュージック(日本でも3月に、ユニバーサル・ミュージックと合併しちゃうなー)は新作情報を定期的にメールで送ってくる。そこからログインすると、新譜の音や資料をダウンロードできるのだが、今日その件名を見てびっくり。<女医が教える 本当に気持ちのいいセックスのためのCD>。助平系のスパム・メールかと一瞬思ってしまった。が、正真正銘EMIからのもので、コワイもの見たさで資料を見ると、「女医が教える 本当に気持ちのいいセックス」という女性産婦人科医が書いた本がベストセラーになっていて、その1976年生まれの著者が自ら選曲した商品であるのだという。およ。ぼくは下品というかあざとさを感じる、ジャケット絵は本と共通のようだ。で、どんな曲が選ばれているのかとチェックしてみれば、これがまっとうなジャズ曲だらけ。やっぱ、エッチな気分を高める音楽というと、ザ・アイズレー・ブラザーズやフィリー・ソウル系のバラードなんかをぼくはすぐに想起するが、そんな通り一遍のモノではなかった。繰り返すが、それ自体は実にちゃんとしていて、4ビートのアコースティック・ジャズが持つ崇高さをうまく括っていると思う。ナンパな感じや媚びた感じもゼロで、聞き味はどっしり重厚。ま、黄金期のジャズのカタログをいろいろ持っている会社発のコンピレーションなので、どう組んでもそれなりの質は保てるだろうと思いつつ、ふむふむと聞けちゃう。ザ・ジャズ・クルセイダーズの「ナイト・テーマ」なんて重々しくも静謐な曲で、彼らってかつてはこんなに真摯なジャズ・バンドだったのと思いを新たにしちゃうブツまで入っている。だが、この渋くも確かな内容が、本当に性欲を高め、よりよい性交を導くのだろうか。????、山ほど。曲タイトルでちゃっちゃっと決めてしまったのではという思いも一瞬頭をかすめたが、きっと高邁な理念と積み重ねられてきた経験のもと組まれた編集盤なのだろう。いやあ、またまた、ぼくは洒落のわからない、常識にとらわれた、つまらない人間であると、ほんの少し思わされました。