親分が死んだ後もずっと続いている米国名門ジャズ・ビッグ・バンド(2005年4月13日、2009年11月18日、2010年11月24日)の今回公演を聞いていて、あれれこんなに派手というか、クダケていたっけかと思う。ときにがやがや声を構成員があげたり、みんなで立ってみたり。それは、ブラック・ミュージック的な美味しい娯楽感覚を高める方向にあるものだ。とともに、一部はけっこう今っぽい楽器の重なりを感じさせる曲も。やんちゃなトミー・ジェイムズ(ピアノ)がバンド・リーダーになって、どんどん風通しが良くなっているのかと感じたりもした。

 そして、今回のゲスト歌手は、個性派R&Bシンガーのメイシー・グレイ(2012年1月4日)。終盤目に出て来た彼女はビッグ・バンド陣のノリに合わせるように黒のドレスを着ており、トレードマークの羽のショールも黒。“クラッシィな私よ!”という感じで、明快に存在感を出せるのはさすがと思わせる。

 厳密に言えば、ヴィヴィッドにビッグ・バンドと渡り合うわけではなく、まさに色を添えるというものだったが、それはそれでちゃんとジャズ曲を歌っていたし、これまでいろいろとグレイに触れて来た者としてはうれしい。で、普段は能面のごとく無表情で歌う彼女が、うれしそうに笑顔を見せていたのは意外。かなり汗を拭っていて、緊張している素振りも一方ではあったが。彼女が歌ったのは、「ソリチュード」他、4曲(だったよな?)。もっと曲数が多いほうが良かったが、やはりうれしい重なりではあった。南青山・ブルーノート東京、ファースト・ショウ。

 そして、丸の内・コットンクラブに移動し、経験豊かな辣腕ジャズ・マンたちが組んでいる7人組重量級ジャズ・バンドのザ・クッカーズを見る。ビリー・ハーパー(テナー)、エディ・ヘンダーソン(トランペット)、クレイグ・ハンディ(アルト)、デイヴィッド・ウェイス(トランペット。唯一の白人で、MCを勤める)、ジョージ・ケイブルズ(ピアノ)、セシル・マクビー(ベース)、ヴィクター・ルイス(ドラム)という面々、みんなリーダー作を持つ実力者たち。お、ジャズ版トラヴェリング・ウィルベリーズ、なんちって。白人トランペッターとアルト奏者を除いてはみんな60代後半以上で、とくに豪腕ビリー・ハーパーに日本で今触れることができようとは。けっこう、感激だな。

 曲はハーパーやケイブルズらメンバーのオリジナルをやったが、ソロうんぬん言う前に、テーマ部や曲構造がとても格好いい。そして、もちろん、延々とのせられるソロも的確。結果、これはジャズだああ、朽ちることない、本能とワザと英知とほんの少しの気取りがきいたジャズだあと、膝をうつこととなる。とにかく、ジャズの正義がありまくり。ぼくは、先のワールド・サキソフォン・カルテット(2012年9月28日)の実演より、こっちのほうがグっと来た。

 残念だったのは、名作曲家でもあるヴィクター・ルイス(1970年代後期のころ、コロムビアと契約していたウディ・ショウのグループ表現で、彼の優れた作曲能力を認知しました)の曲はやらなかったこと。まあ、3作出ているザ・クッカーズのアルバムはどれも名士ビリー・ハート(エスペランサの2012年新作で少し叩いていて、彼の参加をエスペランサはとても誇りに思っている)が叩いていて、ルイスはトラ(代役)であったのかもしれないが。でも、彼の立った叩き方はふむふむと頷かせるものだし、やはり美味しい引っかかりを持つセシル・マクビーとの噛み合いもおおいに笑顔をさそう。ウディ・ショウの77年作『アイアン・マン』(ミューズ)のリズム・セクションはこの2人。昔、大好きでよく聞きました。

<今日の、悲喜こもごも>
 昼間は雨が降っていたが、家を出る時にはやんでいて、雲の感じもうすめ。で、傘を持たずに外出したら、ブルーノート公演後はかなりの降雨。こういう見立てが外れるのは悲しい。そしたら、台風が来ているというニュースが流れているでしょと、友人から言われる。確かに、風も強いな。有楽町から帰りに乗った終電に近い電車、横に20代とおぼしき、カジュアルな格好した3人組がいる。1人は日本人のようだが、2人はアジア系ながら日本人ではないみたい。3人は一緒にバイトの帰りだろうか、それとも学生/研究職についている? そんな彼らは器用に日本語で会話していて、思わず彼らをさりげなく見つつ、聞き耳を立ててしまう。なんか、いろいろ地下鉄の乗り換えについて、あーだこーだと言っている。とくに、1人はイントネーションもほぼ完璧で感服。その彼、英語の単語に関しては、英語のイントネーションで話していた。その後、最寄り駅から地上に出ると、パジャマ姿(でも、革靴をはいていた)で傘2本を持ち誰か(家族なのかな)を待っている親父に遭遇。おとうさーん、着替えてよ〜。いやー、自由だなー。ぼくはマンションのゴミ置き場にも、パジャマで出られません。