女性ジャズ・ヴォーカリストの日。曲線と直線、両者の違いを誇張して言うなら、そう言えなくはないかな。

 まず、現在はコンコード(ものすごく間口を広げた今も、同社は伝統に則り、女性ジャズ・ヴォーカリストを厚遇しようとしている、とは言えるか。ニーナ・フリーロンの近く出る新作も相変わらずの水準をキープ)と契約しているNY州出身のモンハイトを見る。ピアニストと縦ベーシストをバックに、細心の心持ちのもと山と谷のあいだを移っていき、綺麗な放物線を描くような歌を笑顔で(なんか、ちょっとした所でお茶目なキャラクターの持ち主であるのも伝わってくる)披露。やっぱり物理的な歌のうまさを超えるサムシングを多大に出していて、大スタンダード「ザッツ・オール」の素晴らしさをびっくりするぐらい再確認させられたり、コリーヌ・ベイリー・レイの可憐な「ライク・ア・スター」がしっとりした大人の歌に変わっていてホオっとなったり。ジョビン曲「3月の雨」のときは、ピアニストはドラムを叩いた。

 前回みたときは写真とゲンブツの体つきの落差にびっくりしちゃって、そのことばかり書いているはず(そのときの日付がわからい)だが、太っていても(この日も、身体の線がしっか出る格好ナリ)しっかりと名声を獲得しているわけで、本当に喉の作法で居場所を得ている人という感を強くする。そんな彼女には、歌を習ってます風な女性を含め、しっかりと支持者がついているようで、会場はとても入っていた。実はこの晩は、旦那さんでもあるドラマーが急病で出演できずにピアノとベースのバッキングとなったようだが、それもなんら問題はなく。逆に、下手をうってはイカンと普段以上に出演者はプロの矜持とともに気持ちを入れてやるはずで、貴重と言えるかもしれない。帰り際、お詫びでチャージ無料の優遇チケットを渡された。丸の内・コットンクラブ、ファースト・ショウ。

 続いて、現在米国ではエマーシィ/ユニヴァーサルからアルバムがリリースされている、イタリア出身のガンバリーニ(2008年9月16日、2009年4月22日)を南青山・ブルーノート東京で見る。例によってカラダを張っていて、この晩は薄手のワンピース。そして、よく整備されたピアノ・トリオをバックに思うまま、歌っていく。けっこう、その場で臨機応変に曲を決めている感じもあり、まさに悠々。スキャットも往々にかまし、やっていることの難易度はモンハイトより彼女の方が高い。が、それゆえ、情緒的にゆったりしているモンハイトのほうが少し攻撃的な姿勢を持つ彼女よりくつろげて聞けていいという人も少なくないだろう。だが、それでも私はきっちりインプロヴィゼイショナルな歌に向かうという覚悟のようなものもガンバリーニには感じ、ぼくは冒頭で直線という形容を用いたわけだが。それと、今はNYに住むとはいえ、イタリアで生まれてジャズ歌いを激マジで志したという経歴はその姿勢に繋がっているかもしれない。本場のジャズの流儀をモノにしたい、どうせやるなら核心に通ずることを志したい……その純にして澄んだ気持ちはよりオーセンティックなジャズ・ヴォーカル表現に向かわせているところはあるんじゃないだろうか。