米国ニュージャージーをベースにする、2枚のリーダー作を持つ女性歌手だが、これほどまで味がいいとは! 過剰に綺麗なわけでもなく、メロディを作れる人でもなく(新作では半数近くの曲に歌詞を提供していたが)と、取り用によっては只の歌うだけのお姉さんになってしまうわけだが、それを承知でぼくは頭を足れた。……フツーにいい曲を、ジャズの素養も持つアコースティックなしっとりサウンドを介して、ちゃんと歌う。その歌はとっても芯を持ちつつ誘いを持つものだが、スキャットをかましたりは一切せず、4ビート曲もゼロで、その総体は広がりある大人のポップ・ヴォーカル表現と言うべきものだろう。でも接していて、彼女はどんなふうに歌い繋いで行くんだろうと興味を持たせるわけで、そこまで聞き手にサムシングを与えるシンガーはそうはいないはず。音程も正確だ。

 そして、それを引き出しているのは、実にいい感じの伴奏。皆なにげに腕がたつゾと感心してたら、実は辣腕奏者ぞろいぢゃん。それも、グラハムの潜在能力あってこそのものか。彼女の新作をプロデュース(主に曲も書いていた)してもいたジョン・カウハード(ピアノ/バッキング・コーラス)はリズ・ライト(2003年9月17日)やブライアン・ブレイド・フェロウシップ(2008年9月4日)の重要奏者も勤めているし、ウッド・ベーシストのリチャード・ハモンドはアンジェリーク・キジョー(2002年8月2日〜4日、2004年8月5日、2007年12月12日)やキアラ・シヴェロ(2008年1月24日)で来ているし、ドラマーはノラ・ジョーンズ〜ジェシー・ハリス関連でおなじみのダン・リーサー(2009年3月1日、他)だ。黙々と生ギターを爪弾いていたダグラス・グラハムだけは無名の人だったが、旦那か血縁なのかな。でも、彼の演奏もまっとう。そのギターがより活きたボサ調は4曲やって、うち3曲で彼女はポルトガル語で歌ったんではないか。

 唯一困ったチャンだったのが、ときにアリッサ・グラハムが見せた、格好悪いアクション。それ、レトロな大仰系ロック歌手が見せそうな感じのもので、目のやり場に困りました。でも、いい人そうなのもよく伝わってきたし、ぼくはおおいに彼女に拍手を送る。丸の内・コットンクラブ。セカンド・ショウ。