東銀座のシネマート試写室で、フランス人監督オリヴィエ・アサイヤスの「クリーン」を見る。カナダ人ロック・スターの、やはりロッカー志望だった(?)我がままな妻(香港映画界出身のマギー・チャン)が夫のドラッグ死の後、どうまっとうに生きるかを問い直しつつ、夫の親に預けていた子供といかによりを戻そうとするかを描いたもの。で、事前の情報で母と子の関係、母の生き方の再生の物語という<お涙頂戴路線>が強調されていたが、確かにそれはそうなんだけど、相当なロック映画でびっくり。冒頭はカナダのライヴ・ハウスのシーンであり、エンディングの場所はサンフランシスコのレコーディング・スタジオだもの。アサイヤスはフランスの音楽フェスのキュレイターをまかされたり(それは、ソニック・ユースの派生プロジェクト他のギグが映し出された『NOISE』という映画になった)もし、ロック・ミュージック好きの監督として知られているみたいだけど。始まってすぐに、年配の人がこんなの見てられっかという感じで試写室を出ていったなー。あははは。

 そのタイトルの「クリーン」だって、主人公の生き方が明らかになっていくことや純粋なことを示唆するとともに、ヤク中である主役(彼女がヘロインを打つシーンもあり)が“ドラッグから抜ける”という意味を重ねているみたいだし。という指摘の仕方は、非常に時代遅れな、ステレオタイプなものか。いまさら、“セックス、ドラッグ&ロックロール”の時代でもねーしな。でも、1955年生まれのアサイヤスは年相応にけっこう古いロック観を持っているのは確か。冒頭のほうで夫婦やマネイジャーの間で延々とやりとりされるレコード契約の話なんてまさにそう。メジャーは善でインディはしょぼい、なんて今思っている音楽業界中枢にいる人はそうはいないだろう。それとも、この40代の夫婦が化石のような業界観を持っていることを、それで示したかったのか。また、白人ロッカーと結婚した東洋系の主人公に対する周辺の悪評判のあり方を、かつてのヨーコ・オノ(2009年1月21日。近く、プラスティック・オノ・バンドの新作が出ます)の白人層からのやっかみ/悪口とダブらせて描いているのは間違いない。脚本もアサイヤスが書いている。

 人生撒き直しを求める新天地の舞台は、かつて主人公が住んでいたことがあるという設定のパリ。チャンはちゃんとフランス語もしゃべっていてすげえ。資料には、フランス語の台詞は苦労したみたいな本人コメントものせられているが、実は彼女とアサイヤス監督は実生活で結婚していたのか。これを撮る前にとっくに別れていたようだが。この04年発表映画で彼女はカンヌ映画祭の主演女優賞を受けて、名声を高めたようだ。お、アサイヤスさん、見事なオトコとしての責任の取り方?

 カナダ人バンドのメトリックやトリッキー(2001年7月27日。かつてインタヴューしたとき、英国ブリストルから米国ニュージャージーに住むようになり、一人娘の相手をするのが一番の愉しみ、なんて危ない見かけで言っていたな)など、実名で出てきてライヴのシーンをみせたり、少し演技したりも。効果音的などってことない音は、アンビエント音楽の巨匠で名プロデューサー(U2、デイヴィッド・バーン他)のブライアン・イーノが担当。アサイヤスにとってイーノに音楽を付けてもらうのは夢だったようだ。また、チャンも歌を歌っている。……なんか、少女マンガにありそうなストーリー(あくまで僕のずさんなイメージにおいて)なんて思わせるが、アサイヤスは女っぽい感性を持つ監督なのではとも、これを見て感じました。

 そして、南青山・ブルーノート東京で、大御所サンダース(2006年8月23日、他。最初の来日はまだ生きていた時のジョン・コルトレーンのグループだったようだ)のカルテット(1ホーン)編成ギグを見る。1曲目はシンプルなバッキングで訥々と歌心あるブロウを聞かせ、2曲目は延々と開放系スピリチュアル・ジャズ調曲をやる。もーテナー・サックスのソロ延々、ピアノのソロを含めると30分を超えていたろう。3曲目は比較的普通なジャズ曲。そして、カリプソ調の4曲目はずうっとがなり続け、客とコール&レスポンスをする。どんどん若いファンの要求に答えるようになっている?

 次は六本木・ビルボードライヴ東京で、初来日していこう本当に良く来日するソウライヴ(2008年7月22日、他)。不動の3人に加え、レタス(2003年11月17日)のライアン・ゾイディス(テナー、バリトン)と一時はソウライヴのメンバーだったこともありやはりレタスにも属するサム・キニンジャー(アルト)が付いてのもの。二人の管奏者は昨年のソウライヴ公演にも同行していたが、今回はより活躍する場を与えられていて、ほぼ全部の曲でセクション音を入れたり、ソロを取ったりしていたんではないか。そのぶん、ニール・エヴァンス(キーボード)の演奏が全体に占める比率は明らかに減っている。彼は当たらし目のハモンド・オルガンと左手で弾くベース音専用のキーボードと、クラヴィネットを並べる。クラヴィネットはあまり使わず(はったりかませたい音をだしたいとき、少しだけ右手で弾く)、また右手によるオルガンは上のほうの鍵盤しか使わず。MCもやるアラン・エヴァンス(ドラム)はかつては真横を向いてドラムを叩いていたが。今回はかなり客席側を向いて座っていた。エリック・クラズノウ(ギター)も前ほどはソロを取らなくなったような。アンサンブル中心に聞き手を引っ張る今のソウライヴ……そんな指摘が出来るかも。