J.T.テイラー

2006年11月27日
 J.T.テイラーにはこれまで良い印象を持ったことがない。彼が所属したク
ール&ザ・ギャングはとっても好き。だが、ぼくが愛でているのは70年代中
期までのディライト時代。ようは、無骨なホーン隊を揃えてファンク・グル
ーヴを追求していた時期で、J.T.がフロントに立った70年代後期以降はがち
んこなセルフ・コンテインド・ファンク・バンドとしての矜持を捨てさった
悪夢のような時期であり、J.T.は軟弱化したクール&ザ・ギャングをアイデ
ンティファイする存在なのだ。昨年に続いての来日であり、過去にも何度も
来日しているはずだが、ぼくは今回初めて見る。前にも書いたが、ここに出
るキャリア組の実演って本当にいい気分にさせてくれるし、ぼくも大人にな
ってブラック・ミュージック観もだいぶ変わってきているから。丸の内・コ
ットンクラブ(セカンド)。

 なぜか、ステージ中央に椅子が3つ置いてある。定時にバック・バンドた
ちが出てくる。立派な体躯の女性が出てきたと思ったら、彼女はなんとドラ
マー。バカみたいに力まかせの演奏はそれだけでお金が取れるかもと、ドラ
マー・フェチであるのを最近やっと気付いたぼくは思った。バッキング・バ
ンドはキーボード2、ギター、ベース、ドラムという布陣。

 で、黒いスーツに白いシャツと白いネクタイをしているJ.T.が登場する。
ほう、お洒落にまとめていると思ったら、途中からモロマジなウェデイング
ドレス姿の女性たちが麗々しく出てきて椅子に座るじゃないか。へええ。彼
女たちはバッキング歌手なのだが、こういう酔狂な設定は初めて接した(P
−ファンクで女装の花嫁姿のおバカさん;アンドレ・フォックスはいたが、
それとはあまりに位相がちがいます)。フフフフ。絶対にロックではありえ
ない、ソウル実演の美学。最初はサングラスをしていたJ.T.の風体はなんか
小柄なフィリップ・ベイリーという感じだが,サングラスを取ると腫れぼっ
たい垂れ目があってああJ.T.だァとなる。ファンではないぼくでも、人気者
だった彼の顔ぐらいは知っている。でもって、ヒットした曲が多かったよう
で聞いたことがある曲が多いな。大ヒット曲「ジョアンナ」はもろにホール
&オーツの曲みたいだった。

 数曲やって、コーラス隊とJ.T.は一度ステージを去る。で、お召し替えの
間バンドはぼくが心酔する旧時代の曲をインストでする(「ジャングル・ブ
ギー」だったかな。高揚の繰り返しでわすれちゃった)。興味深かったのは
、ギター奏者が途中で用いたエフェクター。口に管をくわえないのに、フッ
トペダルのコントロールだけでヴォイス・モジュレイター音を出していた(
判らない人は?だろうが、しょうがない。車に縁がない人にマニュアル・シ
フトとオートマの説明をするようなものだから)。今、そういうエフェクタ
ーもあるのか? 

 聖から俗へ。戻って来たヴォーカル陣は黒色基調で、ちょい悪オヤジとミ
ニスカのビッチという出で立ち。で、4人はそろって愛嬌ある振りをつけま
くり。また、ときにセックスを想起させる絡みをしたり、女性陣は腰をブン
ブン振ったり。これもR&Bショウの醍醐味なり。客も、大沸き。それから
途中で4人はマスクとマントを身につけ、シアトリカルにパフォーマンスし
たりも。喜んでもらえることだったら何でもやります……ほんと、あんたた
ちは偉いっ。
 
 締めは、80年全米1位曲「セブレイション」。全然いい印象がない曲だったが、鬼のようにキャッチーな好曲でびっくり。ライヴでは途中で、ゴスペル調になる。どんな歌詞を持つのか知らないが、ゴスペル的祝福曲が都会的にコペルニクス的展開をすると、こんな曲になるのかと思わせるものがあったな。グッド・ニューズ! ぼくはなぜか福音に触れた気持ちになり、えも言われぬ気持ちになった。

 ぼくはライヴに行き、また極上な心持ちを得てしまった。