キリスト品川教会・グローリアチャペルで、別回路を自然体で持つシンガー・ソングライターのジョアンナ・ニューサム(2010年2月8日)を見る。フル・ハウス、立ち見が出ていた。

 バンドでいろいろと楽器を持ち替えるライヴに悪いものはない。と、過去に書いたことがあるが、まさにニューサムのショウもそう。ハープとピアノの間を行き来しながら歌う当人は当然のこと、ライアン・フランチェスコーニ(この人だけは名前を知っている)はギターやバンジョー等複数の弦楽器や一部ピアノやカリンバなどを扱い、ドラマーはドラム・セットとキーボードを掛け持ちし、2人の女性はヴァイオリンやヴィオラやコーラスやキーボードなどを担当する。それが曲ごとに変わるのだから、興味深くてしょうがない。2曲続けて、同じ編成でやる場面はなかったのではないか。持ち楽器の変化は意図したものだろう。

 ニューサムの物腰は優美、かつどこかおきゃん。こんなに生理的に弾けたというか、曲によってはケイト・ブッシュを想起させるような歌い方をしていたっけかと感じる。が、後で改めて2015年作を聞いてみたら、とくに1曲目はそういう感じなんだな。なんにせよ、いろんな音楽要素や経験を踏まえた、もう一つの風景を見せてくれるアメリカの音楽であるのは間違いない。彼女は途中、チューナーを用いてハープのチューニングをした。

▶過去の、ジョアンナ・ニューサム
http://43142.diarynote.jp/201002090914248826/

 この晩はもう一つ、テキサス州出身トランペッター/フリューゲルホーン奏者であるロイ・ハーグローヴ(2003年2月18日、2003年9月21日、2004年12月2日、2007年9月10日、2008年9月16日、2009年6月24日、2011年2月22日、2012年3月23日、2014年2月19日)のクインテット表現を聞く。ブルーノート東京(セカンド・ショウ)、こちらも盛況だった。

 当人に加え、アルト・サックスのジャスティン・ロビンソン(2011年2月22日、2012年3月23日、2014年2月19日)、ピアノのサリヴァン・フォートナー(2010年5月30日、2011年2月22日、2012年3月23日、2014年2月19日)、ベースのアミーン・サリーム(2011年2月22日、2012年3月23日、2014年2月19日)、ドラムのジェレミー・クレモンスという面々。ドラマー以外はここのところ、同じ奏者が起用されている。

 トランペットとアルト・サックスの二管による、堂々のメインストリーム表現。ソロのあり方、バンド員の相互関係の取り方、レパートリーの持ち方、ジャズ・マンとしての矜持や韜晦の表れ方やエンターテインメント性の出し方……等々。前に彼のライヴの項で同様のことを書いたことがあるが、そうした様々な観点において、ストレート・アヘッドな王道ジャズ表現の“定点観測ユニット”とするべき質や手応えを、ハーグローヴ・カツテットは持つ。いやあ、頼もしい、尊い。実際、プロの奏者たちもお客のなかに散見されたな。

 うち1曲はかなりアブストラクトな方向に出た曲をやって、その際のロビンソンの爆発方向に走らないソロはすごかった。ヤラれた。その曲のソロのとき、ハーグローヴはオーネット・コールマン(2006年3月27)の「テーマ・フロム・ア・シンフォニー」のテーマを歌い込む。うしし。それから、ハービー・ハンコック(2000年3月14日、2001年12月27日、2003年8月23日、2005年8月21日、2012年3月3日、2014年9月7日、2015年9月6日)の1974年エレクリック・ジャズ曲「アクチュアル・プルーフ」をやったのにはニヤニヤしちゃう。このとき急にバスドラがばかすかなり出して、笑った。この曲、昨年秋にはECM契約ピアニストのマルチン・ボシレフスキ(2005年10月26日、2015年9月24日)のトリオも演奏していた。来日アーティストの同曲のアコースティック版を、この半年の間にぼくは2度も聞いているのだな。ハンコックのアーティスト・パワーってすごい。
 
 話は飛ぶが、ディアンジェロの『ヴードゥー』(ヴァージン、2000年)におけるヴェールのような魅惑的なホーン音はハーグローヴが作った。また、同作にはチャーリー・ハンター(1999年6月22日、2002年1月24日、2006年4月17日、2009年1月16日、2015年2月18日)も重要奏者として関与している。新作『ブラック・メサイア』でジャズ・マンを採用したと騒ぐ風潮もあるが、そうしたスタンスは14年前も同じ、いやもっとはっきりしていた。とともに、サウンドの突出性は『ヴィードゥ』のほうが上でしょう。

 最後のほうは、例により、ハーグローヴはうれしそうにヴォーカルも取る。サム・クックの「スース・ミー」も披露。余芸には違いないが、どんどん堂々と歌うようになっているな。また、いつものようにたっぷりパフォーマンスし、90分越え。最後はハーグローヴとロビンソンが一緒に吹きながらステージをまず降り、以下時間差でピアノ、ベースと続く。そして、最後はドラマーのクレモンス君が残り、少しソロを披露した。彼えらが、こうエンディングをしたのは初めてですね。

▶過去の、ロイ・ハーグローヴ
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-2.htm 18日、ディレクションズ・イン・ミュージック
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-9.htm 21日
http://43142.diarynote.jp/200412111742300000/
http://43142.diarynote.jp/200709171108570000/
http://43142.diarynote.jp/200809171409066704/
http://43142.diarynote.jp/200906300951327850/
http://43142.diarynote.jp/201102240921561671/
http://43142.diarynote.jp/201203260806527228/
http://43142.diarynote.jp/201402201343247604/
▶過去の、ジャスティン・ロビンソン
http://43142.diarynote.jp/201102240921561671/
http://43142.diarynote.jp/201203260806527228/
http://43142.diarynote.jp/201402201343247604/
▶過去の、サリヴァン・フォートナー
http://43142.diarynote.jp/201006071814015815/
http://43142.diarynote.jp/201102240921561671/
http://43142.diarynote.jp/201203260806527228/
http://43142.diarynote.jp/201402201343247604/
▶過去の、アミーン・サリーム
http://43142.diarynote.jp/201102240921561671/
http://43142.diarynote.jp/201203260806527228/
http://43142.diarynote.jp/201402201343247604/
▶過去の、オーネット・コールマン
http://43142.diarynote.jp/200603281335030000/
▶過去の、ハービー・ハンコック
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2000-3.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2001-12.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2003-8.htm
http://43142.diarynote.jp/200508230545510000/
http://43142.diarynote.jp/201203062005542291/
http://43142.diarynote.jp/201409100930206205/
http://43142.diarynote.jp/201509220833541918/
▶過去の、マルチン・ボスレフスキ
http://43142.diarynote.jp/200511130011570000/
http://43142.diarynote.jp/201509250943244179/
▶︎過去の、チャーリー・ハンター
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/livejune.htm
http://www.myagent.ne.jp/~newswave/live-2002-1.htm
http://43142.diarynote.jp/200604181149370000/
http://43142.diarynote.jp/200901171017206901/
http://43142.diarynote.jp/201502230940316504/

<今日の、能書き>
 上で触れたマルチン・ボスレフスキは『Spark of Life』(ECM、2014)でも「アクチュアル・プルーフ」を取り上げている。その理由は以下のとおり。
「僕たちもこんなにおもしろいものになるとは思いもしなかった。(電気のハンコックも好きなの?)聞いたよね。けっこう、フェンダー・ローズもきらいじゃない。あの音色は今も人気があるし、ちょっと弾こうかなと考えなくもない。でも、やはりピアノのはっきりした音が僕は好きだけどね」