トム・ハレル

2015年6月23日 音楽
 ハレルは、1946年生まれの熟達白人トランペット/フュリューゲルホーン奏者。ジャズの美点がすうっと浮かび上がる(それはテーマ部の提示の仕方にもさりげなく盛られる)ような自作曲を素材に、まろやかにして、どこか発展の種を持つソロが悠々と乗せるアルバムをいろいろと発表している名士だ。今回の同行者はECM発アルバムも持つテナー・サックスのマーク・ターナー、アコースティック・ベースのウゴンナ・オケゴォ、ドラムのアダム・クルーズ(2015年4月28日)という、アフリカ系かラテン系の有色の奏者。その二管を擁するピアノレス・カルテットは、ハレルの新作『Trip』(High Note、2014 年)と同一だ。

 悠々、ひたひた。それほど凝っていないようで含みのある、淡々としているようでどこか広がりも持つ演奏が繰り広げられる。そして、その端々から、美意識や野心もこぼれ出る。言葉を超えた部分で、これは良い純ジャズのありかただと思わせられるな。ブルース崩しの曲も2曲やる(1曲はシャッフル・ビート)が、グルーヴィさはあるがブルースではないところもこの場合はなんかくすぐる。

 ターナーの吹き口は抑え気味であるのに、雄弁。なるほど、いい吹き手であると思わされる。そういえばこの前にロイ・ヘインズ(2015年5月18日)のバンドに同行して、その聞き味の良さでぼくを驚かせたアルト・サックスのジャリール・ショウもハレルの2013年作『Colors of Dream』(High Note。そのリズム隊はエスペランサ・スポルディング〜2008年9月5日、2008年12月1日、2010年9月4日、2011年2月17日、2012年3月7日、2012年9月9日〜とジョナサン・ブレイク〜2009年9月3日、2011年5月5日〜が勤めた。スポルディングは肉声も多用)に起用されていたことがあり、逆引き的にショウもまた秀でた奏者であると同業者から評価を受けていると再認識したりもする。

▶過去の、アダム・クルーズ
http://43142.diarynote.jp/201504291258084057/
▶過去の、エスペランサ・スポルディング
http://43142.diarynote.jp/200809071430380000/
http://43142.diarynote.jp/?day=20081201
http://43142.diarynote.jp/?day=20100904
http://43142.diarynote.jp/201102190814495504/
http://43142.diarynote.jp/?day=20120307
http://43142.diarynote.jp/201209191229057579/
▶過去の、ジョナサン・ブレイク
http://43142.diarynote.jp/200909120646397236/
http://43142.diarynote.jp/201105101010399933/

<今日の、驚き>
 おお、ハレルのステージ上の様はすごい。まず、動きがとってもゆっくり。それはなんか、ザ・バンドのガース・ハドソン(2013年8月2日)のステージ上でのスピード感と重ねたくなるかも。そして、譜面をめくるスピードも遅い。ただし、ハレルの場合はハドソン同様に立派な白い髭は蓄えているものの、頭髪は青年のようにフサフサで、太ってもいないわけであるが。そして、ここからが真骨頂なのだが、彼はずっとうつむいてステージ上に立ち、顔をあげて客のことは一切見ない。だけでなく、メンバーと顔を見合わせることもない! アンコール曲以外は曲目も決まっていたのだろう、曲を一切伝えることもなく、控え目にテンポを出し、それにバンド員が戸惑うこともなくついてくる。MCも本編最後に、サンキューと言って、簡素にメンバー紹介をしただけ。こんな人は初めてだあ。彼はビートとともに身体を揺らすこともないし、顔は見えないが表情も一切変わることはなかったのではないか。でも、クルーズは先のカルデラッツォ公演のときよりうれしそうに演奏していた。
▶過去の、ガース・ハドソン
http://43142.diarynote.jp/201308110826574632/