11時半から某ホテルで、エスペランサ・スポルディング(2008年9月5日)の取材。わあ、気だて良く、頭の回転も早そう。完全、スッピンでした。前回同様に、テリ・リン・キャリントンのバンド(2008年12月1日)の一員として来日。東京ジャズに出演するキャリントン・バンドは全員女性で、モザイク・プロジェクトと名付けられている。

 午後1時半から代官山・晴れたら空に豆まいて。基本ECMと契約するノルウェイ人重鎮ベーシスト(これまでは、アリルド・アンダーセンと日本では表記されてきた)の公演を見る。テナー・サックス奏者とドラマーを率いてのパフォーマンス。剛毅に疾走したりアウトしたりするするものから、メロディアスなぽわーんとしたものまで、臨機応変に自分たちの信じるジャズの形を人間味を出しつつ送り出す。うぬ、さすがの実力者たちではありましたね。実は午前中の同所には、今年のフジ・ロックに出演したジャガ・ジャジストのメンバーで、ECMからリーダー作も出しているマティアス・アイクのグループが出演したはず。彼ら、今朝の9時半に成田に着くとの話をきいたが。両方を見た過剰なジャズ・ファンじゃない知り合いはマティアスのほうが面白かったと言っていた。アンダーシェンのバンドもアイクのバンドも明日の東京ジャズの無料ステージの出演者ですね。

 一息入れて日暮れに、渋谷・オーチャードホール。ベルギー王立モネ劇場制作とお題目された「アポクリフ」という、3人の踊り手による舞台を見に行く。演出と振付をシディ・ラルビ・シェルカウイというモロッコの血の入ったベルギー人ダンサーが担い、さらに日本人の首藤康之とフランス人のディミトリ・ジュルドが絡む。で、そこに音楽担当者として登場するのがア・フィレッタ(2010年8月25日)の面々、ということでぼくは見に行ったのだ。ア・フィレッタの面々はデザインされた空間のいろんな所に出てきて(←それが、とても効果的。動的であったり、空間的であったりする変化/風通しを何気に舞台に与える)アカペラで歌うわけだが、なるほどコレは見ることができて良かった。宗教的な事を題材とするようだが、そんなの抜きに(いや、暴言を吐くなら、知らない方が吉と出るのではないか)、発想と肉体力の限りを尽くしたコンテンポラリー・アート表現に野郎7人の歌唱行為は合うし、よりエッジィかつ人間的な感興をそこに加えていたのではないか。いや、彼らがいてこその出しモノと感じる人も少なくなかったのでは。やはりア・フィレッタは、島の伝統的歌唱グループではなく、先にごんごんと飛び出して行くクリエイティヴ集団なのは間違いなし。そんな彼らをかなり感心しちゃう使い方で起用したシェルカウイという人も鋭い。まあ、かように欧州の進歩的なアート・サークルにおいてア・フィレッタの神通力は認知されているということかもしれないが。

 そして、またハシゴで、南青山・ブルーノート東京に。「アポクリフ」が60分ちょいで終わったので、余裕でセカンド・ショウ(土日は8時45分からと早い)に間に合う。ニっ。こちらの出演者は翌日の東京ジャズの昼の部に出る、冒頭で触れたテリ・リン・キャリントンの女性バンド。受け付け階に降りて行くと、エミ・マイヤー(2010年5月31日、他)がニコニコいる。あれ、なんでいるの? なんでも、米ワシントン州で開かれているジャズのサマー・キャンプみたいのに今年も含めずっと参加していて、そこでの彼女の先生であるイングリッド・ジェンセンがモザイク・プロジェクトの一員ゆえに見に来たのだとか。彼女、エスペランサは素敵♡と言ってました。

 出演者の内訳は、ドラマーのキャリントンに加え、ベース奏者(もちろん、一部では歌う)のエスペランサ・スポルディング、米国人トランぺッターのイングリット・ジャンセン(とても毅然とした人。結構、マイルス・デイヴィス・マナーを持つ)、オランダ人サックス奏者のティネカ・ポスマ(2007年10月10日)、ピアノやキーボードを弾くヘレン・サン(ウェイン・ショーターのグループに抜擢されてもなるほどと思わせる指さばき也)という演奏陣に、我が最愛の女性歌手の一人であるノーナ・ヘンドリックス、そしてブラジル人新進のパトリシア・ロマニアというシンガーも加わる。二管をフィーチャーしたもろジャズ演奏(芸がないと言えなくもないか)から、ノーナ(60歳半ばは行っててもおかしくないのに、そんなに老けていない)の芸人感覚爆発のR&B曲までいろいろ。盛りだくさんすぎたが、ヘンドリックス姐さんの勇士が見れてこの私になんの文句がありましょうか。どんッ。