スワンプ・ドッグでもいいし、ジョニー・ギター・ワトソンでもいいし、チャールズ・ミンガスでもいい。ツっぱって、自分の音楽/領域を持ったアフリカン・アメリカンには変てこさ〜強固な個性と表裏一体のクールネスをたたえた人が散見されのは間違いない。ちゃんと見えているからこそ、ストリートに根ざしたところで頭が切れるからこそ、彼らは一見突拍子もない諧謔を伴った蛮行(それは、良質のエンターテインメント感覚に転化する場合が多い)に撃って出て、それは妙味と視点ある音楽として花開く。やはり、それを導く最大の要因は白いアメリカのカラードに対する差別であるのか。

 70年代後半から80年代にかけてきっちり天下を取っていたキャミオを率いるラリー・ブラックモンもまた、酔狂さ/マンガの奥に抗しがたいクールネスを感じさせる人物だ。アトランタ・アーティスツという事務所を持っていた(いや、今も持っているのかな?)彼は、90年前後に同社の日本部門を設立したがっていて(日本人ソウル系アクトを制作したり、サポート奏者を仕出しするという、目論みを持っていた。結局、実現しなかったはず)、公演とは別に複数回来日した事があった。そうしたおり、一度インタヴューする機会を得たが、趣味の良いチェックのシャツを着た彼はこなれた黒人エグゼクティヴ感覚がむんむん。ステージでの姿との落差は清々しいぐらい大アリ。そして、きっりちと視点(と、確かな音楽知識。彼はブラック・ミュージックのメインストリームの変遷にも確かな見識を持っていた)を抱えて音楽活動にあたっているのが手に取るように判る発言を連発してくれたっけ(←そういう人が繰り出すファンクだけに、アンダーワールドのカール・ハイドも大好きだったはず。2010年6月24日、参照)。その尽きぬ意欲の様に、すでにちゃんとエスタブリッシュされているのに凄いですねみたいなことをぼくが言うと、「いや、マイケル・ジャクソンみたいな成功を収めないと、成功したとは言えない」と、真顔で答えたのは印象に残っている。で、彼はまだまだ上昇していくはずと思っていたら、すうっと前線から消えてしまったんだよなー。

 丸の内・コットンクラブ、ファースト・ショウ。個人的には、90年代初頭に横浜で公演をやったとき以来(きっちりショウアップされていたはずの実演のことよりも、帰りに車に乗せてほしいという人が複数いて定員オーヴァーで東京に戻ってきたこと、第3京浜をおりてからの深夜の環八がハンパなく渋滞していたことのほうが、鮮明に覚えているなー)見るキャミオのショウ。ステージ後方に位置するドラマーと二人のキーボード以外、フロントに立つ2ヴォーカル、2ギター、ベースは全盛期の顔ぶれ。もう、ぼくはジミ・ヘンドリックス耽溺野郎のチャーリー・シングルトン(昔は、左利き用のストラトを逆さにして、弾いていた。右利き用ギターを逆さにして弾いていたサウスポーのヘンドリックスの逆ですね。関係ないけど、ブラック・ロック・バンドの24-7スパイズのギタリストはヘンドリックスとエディ・ヘイゼルの名を取り、ジミ・ヘイゼルと名乗っている)がいるだけで大盛り上がり。そのシングルトンは右利き用のギターを持っていたものの、それはバンジョーをサイバーに加工したような特注ギター。でもって、メタリックの仮面をしつつ、上半身ははだけていて、ツっぱった変な黒人度数はぜんぜん衰えておらす、感激。演奏はヘンドリックス調ギター・ソロをとってもいたって危なげない常識的演奏でガッカリさせてくれたが。当のブラックモンはあんまし老けたという感じはないが、少し太っていた。股間にはかつてのトレードマークであった赤色のカップを未だ付ける。また、ベースのアーロン・ミルズは頭に王冠をつけていて、ベース・ソロは首の後ろにジミ・ヘンドリックスのようにベースを回し、涼しい顔して手弾き演奏をする。おお、ベースでそういうことをやる人を見るのは初めてのような。拍手。

 演奏曲は当然、ヒット曲群連発。それをノンストップ気味に、開いて行く。ちょいスロウ目の曲にはホーン音が欲しいと感じたりもしたが、すうっとマイルズ・デイヴィスのミュート音が聞こえてくる気がした局面も。それ、88年作『マチズモ』にデイヴィスが客演していた事実が頭にあるからか。ブラックモンの父親が体つき貧相コンプレックスだったデイヴィスのボクシングの先生をしていたことがあって、両者は顔見知りであることから、その共演は実現したんだっけか。演奏時間は60分ちょうどで、アンコールはなし。ブラックモンが“ナショナル・アンセム”と言ってやった「ワード・アップ!」が最後の曲。アメリカの「名前のない馬」と並ぶ、史上最も単純な構造を持つ(ある意味、魔法が働いている)大ヒット曲。さすが、このあたりで場内はほぼ総立ちになったが、このハコのブラック・アクト系オーディエンスには珍しく、お客さんはけっこうおとなし目。こういうときもあるんだァという感じ。

 この後に南青山・ブルーノート東京で見たUKインスト・バンドのザ・サウンド・スタイリスティックスは知名度ということにかけてはキャミオの足元にも及ばないが、熱心な聞き手がついているのか、最初から客席側がわいていたな。

 英国のセッション系奏者が集まっているんだろう、6管(2トロンボーン、2トランペット、2サックス〜うち、一人はバリトンを多用)を持つ大所帯バンド。打楽器奏者を除いては皆30代か。MCは手慣れた感じでトランペット奏者がするが、タイト&ファンキーなビートのもと、菅のセクション音が屈託なく踊る様には、難しいこと考えることなく、のせられる。テナー・サックス、キーボード、ギター、ベース、ドラムあたりはなかなかの手練。イギリス人もやるな。好ファンク曲の要素を上手く抽出した(たぶん)オリジナル曲をやるなか、ジャクソン5の「ウォント・ユー・バック」とアイズリーズの「イッツ・ユア・シング」のメドレーも。前者は少し手を加え過ぎで、少し気持ち悪かった。