東京ジャズ

2010年9月5日 音楽
 この日は、ずっと有楽町の東京国際フォーラム界隈にいて、東京ジャズの出しものに触れる。明るいうちは地上広場と名付けられたスペースで開かれている無料ステージでうだうだ。まず、昼下がりダヴィッド・ラインハルト(2010年9月1日)のトリオ。オルガン奏者(普段はピアノを弾いているそう)とドラマーを率いて、懐古主義に陥らない、ギターが前にいるオルガン・ジャズ表現を正々堂々繰り広げる。それ、もう何年も続いているワーキング・バンドだそうだ。奏者としてのエゴをだしつつも、ちゃんと聞き手に対して腕を広げる柔らかさもあり、彼らはアンコールにも応えていた。ダヴィッドは今年1月に同い年のマヌーシュの女性と結婚したばかり、秋にニューカレドニアで演奏することになっていて、2時間だけ成田に滞在するそう。他にも、マダガスカルでもやるとか、いろんな所から呼ばれるんだな。

 その後に登場したのは、NYフリー・ジャズ系ヴァイオリン奏者のビリー・バン(1999年12日12日、参照)。彼は今、羽野昌二(ドラム)とトッド・ニコルソン(ベース)と日本ツアー中で、その単位での出演。アヴァンギャルドな演奏もやればベタなスタンダード演奏もあり(それで、保守的な聞き手に対するツカミはOK)、いろいろ場数踏んでいるんだろうなと思わせる演奏を“いいオヤジ”度数(キャップとシャツはNYヤンキースのロゴ入り。日本だと、読売巨人軍の帽子をかぶって場外馬券場にいそうな風情?)横溢のもと披露。蛇足だが、いまビル・ラズウェル(2007年8月3日、他)も東京にいる(彼も、東京ジャズに出ちゃえば良かったのに。2005年には大々的にかかわっているし)が、ビリー・バンもノーナ・ヘンドリックス(2010年9月4日)も80年代上半期にラズウェルにはたいそう世話になっていますね。彼らは今回、東京で会っているだろうか。

 やはり、暑い。知人たちとまったり飲食をしたのちまた広場に行くと、アイヴィン・オールセット(2003年6月28日、2008年11月14日)がやっている。お、ツイン・ドラムの変則編成でレディオヘッドみたいなことやってんじゃん。興味深〜いと思ったら、最後の曲で、演奏は終わってしまった。残念! この後、ここの無料ステージには前日に触れたアーリル・アンダーシェンやマティアス・アイク(彼もツイン・ドラム編成だったそう)が登場したはずで、今年のこの日の、東京ジャズの無料ステージの顔ぶれの充実し具合は尋常ではない。よくぞ、ブッキングしたな。近くの丸ビルでもフリー・ステージが開かれていたはずだし、送り手側はその太っ腹さをもっとアピールしてもいいのでは。ジャズに興味を持つ背伸びしたい中坊が友達と気軽に見に来るというのは大あり。斑尾のジャズ・フェスに子供のころ家族と見に行きヤラれPe’zのリーダーはジャズ・トランぺッターを志したように、そこからまた新しい芽が出たらいいよなー。

 で、夜はメインとなる会場である、国際フォーラムのホールAに。まず、出てきたのは、欧州フリー・ジャズの大御所である、オランダ人ドラマーのハン・ベニンク。アイデアと茶目っけと技量がすうっと重なる、独創的にして人間味あふれるソロ・パフォーマンスを披露。これも、敏感なコドモが見たら無限大の啓発を受けるだろうなーと思わずにはいられず。やっぱ、イバラの世界で突出できた人は凄いと実感。

 2番目はジョシュア・レッドマン(2003年1月16日)の、マット・ペンマン(2008年11月19日、他)とグレゴリー・ハッチンソン(2008年9月29日、他)というリズム隊を率いたピアノレス・トリオ。ストロング、甘さを排し、ときに思索しつつ疾走。

 3番目は、渡辺香津美のマイク・マイニエリが制作した80年名作『TO CHI KA』を20年ぶりに再現する、いや同作をフォロウする日本ツアーを同様のメンバーで今に持ってこようとする出し物。ヴァイブラフォンのマイク・マイニエリ(サイド・ギターならぬ、サイド・ヴァイブと言った感じの演奏にはかなり感心させられた。都会性がすうっと出る。やっぱ、才あるんだ)、キーボードのウォーレン・バンハート、ベースのマーカス・ミラー(2010年9月3日、他)、ドラムのオマー・ハキム(2010年9月1日、他)という顔ぶれによる。MCによれば、マーカスと竹馬の友であったハキムはスティーヴ・ジョーダン(2006年12月22日、他)の代役で、その来日ツアーが初の華々しい活動だったよう。渡辺は「マイニエリは尊父のような存在で、ハキムは可愛い息子のよう」なんても、言っていたか。当時フリー・ジャズやブラック・ジャズは片手間に聞いていても、フュージョンにはほとんど触れていなかったぼくではあったが、同作のリード曲「ユニコーン」はリアルタイムで耳馴染み。というのも、当時オーディオ・コンポのTV-CMに使われ、本人も画面に登場していたから。飲み屋で隣のおじさんからまじまじと見つめられたりして、(お茶の間に顔を出した)あの頃は恥ずかしかった、なんて、彼は言っていたこともあったはず。サイド・メンは本当に20年ぶりに演奏する曲だろうが、きっちり重なる。それなりにリハもやったのだろうけど、みんなプロ。それは『Tochika』の真価や20年という時の流れの襞を浮かび上がらせるものでもあったか。とともに、あの頃の渡辺はかっとぶ鮮烈ギタリストとというだけでなく、ギターの素敵を出しまくれる好フックを持つ曲や美曲を作れる作曲家として冴えまくっていたのではないか、なんてことも、ぼくはこの晩の演奏に触れて思った。

 トリはザ・クルセイダーズ(2005年3月8日)。喉を潤したくて目がかすんできたので、退出。いっぱいライヴ見たなー。