うわー、これはすごい。フランス発の騎馬劇団“ジンガロ”(馬術家のパルタバスという人が84年に旗揚げしたという)の新作「バトゥータ」を、清澄白河・木場公園内ジンガロ特設シアターで見る。同じ敷地内には東京都現代美術館があるが木場公園は広いようで、円形の劇場(劇場外の馬が待機する準備スペースとかもそうとう必要なはず)や別練ホワイエとかが設営されていて、3月下旬までの期間限定のものながら規模は立派だ。3年前にも日本上陸したことがあったが、話題になるのも納得。ヒネたぼくもいろいろ驚きつつ、わあと楽しみまくりました。

 かなり傾斜がついた円形客席が囲む中央に土が敷き詰められたステージ(その中心には、水の柱状のものが逆噴水のごとく降り注ぐ)と馬場レーンがあり、そこにいろんな馬と人間が次々に出てきてぐるぐる回る。出し物の基本はそれだが、人と馬の絡みがかなりアクロバティックにして、設定が視覚的にもいろいろとねられていて多彩で、うまく説明ができないが1時間半近いものを一気になんら飽きる事無くドキドキ見させてしまう。人間と馬の精気と肉体感が効果的な重なり……まさに手間と鍛錬とアイデアとウィットが効いた、ダイナミックな大人のエンターテインメント。これは、勧めるにたる。

 馬車が出てきたり出演者はロマを想起させる格好をしていたりもして、ロマの文化様式を借りているところもあるのか。実は音楽面でもけっこう凝った設定がなされていて、レーンを挟んで向かい合うように二つの楽団が位置し、交互に演奏して場を盛り上げる(対峙するように、一緒に演奏したりしたときも)。で、その二つは在ルーマニアのロマの楽団。うち、モルドヴァ地方のファンファーレ・シュカールはファンファーレ・チョカリーア(2008年10月13日、他)のようなブラス・バンド(全10人)で、もう一つのトランランシルヴァニア地方出身のタラフ・ドゥ・トランシルヴァニアはタラフ・ドゥ・ハイドゥークス(2007年9月26日、他)のように弦楽器アンサンブル(5人による彼らはけっこう上品に整った演奏もする)だ。ともに、まっとうな演奏を聞かせてくれて、音楽好きならうれしさが倍加すること請け合い。

 しかし、馬って賢いんだナ。見た者、誰もがそう思うんじゃないか。寝転がったりとかちゃんと演技をするときもあるし、様々な疾走シーンもソツなくこなす。予想外の動きをされ、人が落ちるなんてシーンもなかったし。けっこうハラハラしちゃう場面はあります。そして、これを見るとヨーロッパは騎馬文化圏だというのがよく伝わるりもする。乗馬好き、馬好きの人だとどう感じるのだろう? ともあれ、見終わったあと、いろいろ同行者とは感想で話が弾みまくるんじゃないかな。

 そして、丸の内・コットンクラブ、セカンド・ショウ。LA育ち、今はNY在住となるジャズ・シンガーで、リオネル・ルエケ(南カリフォルニア大学で一緒だったよう、2007年7月24日、他)作やケニー・バロン(2009年1月7日、他)作に客演していたりもする女性。ルックスはなんとなく東欧っぽい感じを与える。ピアノ・トリオを従えてのもので、なんとピアニストは俊英アーロン・パークス(2008年11月22日)ではないか。ベース奏者は全曲ウッドを用いたが、パークスは電気ピアノを弾く場合が多かった。技巧派ではないが雰囲気派でもなく、なかなか説明に困る人かな。途中から見たので、なかなか感想の像が結びにくいというのはあるナ。だが、なんか美意識とか審美眼とかには長けていて、透明度の高い私の考える今のジャズ・ヴォーカルを淡々と開こうとしていたのは間違いない。ウェイン・ショーター曲やスティヴィー・ワンダー曲を取り上げたりも。ベーシストの曲も歌っていたようだが、彼とはプライヴェイトな関係があるのか否か。