南青山・ブルーノート東京で、大御所ブラジリアン・シンガー・ソングラ
イターのジョイス(2004年7月15日、2005年7月13日)を見る。ブルー
ノート東京のことを気にいっていて彼女は毎年夏場にやってくるわけだが、
いろんな有名人やゲストを同行させる過去来日時と違って、今年は彼女のグ
ループ単独による。そして、それは彼女なりのブラジリアン・ジャズを提出
した、旦那でもあるドラマーのトゥッチ・モレーノとの双頭作である新作『
サンバ・ジャズ&オウトラス・ボッサス』の内容を披露しようとするものと
なる。

 ジョイス夫妻にプラスして、ピアノとスタンダップ・ベースというカルテ
ットにて。簡素と言えなくもないが、それらが重なった演奏はそれだけで十
分なもの(“サラリ”と“密度濃厚”が同義となるような。と、書いちゃっ
たりして)で、ある側面のジョイスの魅力とブラジルの素敵は口惜しいほど
に伝わってくる。とともに、本当にジャズも好きなんですという風情も出し
ていたそれは、米国ジャズ様式の素晴らしさも再認識させるものであったか
な。

 インスト部に力を入れた実演だとジョイスのギターのうまさが実感できる
。あっさり弾いているんだけど、確かなグルーヴというか、リズム感を持っ
ているし。また、随所で全開になるスキャットもいい感じで、彼女の根にあ
るものを見事に伝える実質主義のとても充実したパーフォマンスだったと思
う。ジョイスと旦那とのデュオなんかもあったが、これも二人とは思えない
味わいにあふれたものだった。ただ、70年初頭のカエターノ・ヴェローゾ(
2005年5月23日)のアルバムに参加していたりもするモレーノのドラミング
は総じてぼくにとっては少し謎。ちょっと違和感を感じさせるアクセントを
持っていて、名前のない人だったらヘタという烙印を押しちゃうかも。そこ
らへん、ブラジル音楽にどっぷりの人はどう聞いたろうか。

 そして、丸の内・コットンクラブに移動して、ベニン出身のギタリスト
/シンガーのリオネル・ルエケ(2002年7月3日、2005年8月21日)を見
る。いかにも喧嘩が弱そうな白人リズム隊を従えてのもの。ジャズやアフリ
カ音楽その他を水に溶けさせその上澄みを濾過したような、随所に肉声がつ
いた生ギター主体の繊細表現を淡々とルエケは披露する。もう少し破天荒に
なってェと思わなくはないが、もう一つ先にワープしたものを僕は求めたい
という意思がそこにはあったような。なんにせよ、うれしい“綾”の感覚と
微風があったのは間違いがない。アルバムだと、ブラジルっぽさを感じさせ
るときもあるが、この日はあまり感じず。それは、その前にジョイスを聞い
たせいもあったろうか。