P−ファンクの黄金表現を支えたウィザード鍵盤奏者?の、ショーケース
・ライヴ。渋谷のタワーレコード7階の本売り場の一角にて。カラフルな格
好の彼は昔から老けた顔つきだし、全然変わってないな。ちょっとアブない
感じは減じたかもしれない(90年代あたま、グラマヴィジョンから『ファン
ク・オブ・エイジズ』を出すときにNYで取材したことがあって、かなりそ
のときの物腰は正体不明だった)が、電波系じじいとしていい感じに歳を取
ってるんではないか。彼は10分弱、モーグ・シンセサイザーとピアニカ(
いつも、持ち歩いているらしい)を演奏。とってもぽかったけど、短すぎ。
普通だったら、あっけなさすぎて本欄に多分書かないだろうが、8月はあま
りライヴ予定もないので、一応書いておこうかという気になった。今回の来
日(って、いつ以来なんだろう)は、ビル・ラズウェル(2004年9月5日、
2005年7月30日、2005年8月20日、2006年11月26日、他)ご一行として
のものらしい。本売り場にはラズウェルたちの姿も。彼は暑いのに長袖ジャ
ツにベストという恰好。ほんと、ラズウェルも変人だよな。
 南青山・ブルーノート東京、セカンド・ショウ。近年出た新人女性ジャズ
歌手のなかではひとつ抜きんでた人気/セールスを得ている、20代半ば前の
カナダ人。あ、カナダ人と書いていいのかな? もともとロシア生まれで、
閉塞的な体制から逃れるために家族と子供のころイスラエルに引っ越し、高
校のとき政情不安でさらにカナダに移住したという経歴を持つ人だから。ゆ
えに、3つの国の言葉を出来るということだが。

 スタンダードやアルバムに入っていたロシア民謡やゲス・フーのカヴァー
とともに、本編最後にはジ・エヴァリー・ブラザーズの「バイ・バイ・ラヴ
」(サイモン&ガーファンクルのヴァージョンでぼくは聞き親しんだが)も
、いい感じで披露。新作でも冴えた編曲/楽曲を提出していたキャメロン・
ウォーリス(ピアノ)を擁するカルテットがサポートしているが、MCによ
ればミュージカル・ディレクターはリード奏者とか。まあ、微妙なバンド内
力学があるんだろう。それはともかく、昨年のショーケース・ライヴ(2006
年5月30日)のときより、破格に成長。基本的にかなりオーソドックスな線
をなぞりつつ、敷居の低い親しみやすさやとっつきやすさ〜ジャズのある種
の魅力を明快に出している。これからも成長するだろうし、息の長いシンガ
ーになっていく感じは大。健気さも、ずっと持ちつづけますように。
 この週末のサマーソニニックに出演するブラック・アイド・ピーズ(2001
年2月7日,2004年2月11日)のリーダーにして、超売れっ子プロデューサー
のウィル・アイ・アムがソロ作『ソングス・アバウト・ガールズ』を出すとい
うことで先乗り(取り巻き、多そうだったな)。本人解説つきの、プレス向け
試聴会をやった。現在32才というウィルは表情豊かで、健全な人に見えた。
今、マライア・キャリーやホイットニー・ヒューストンの仕事もやっていると
いう。

 当人の曲解説はサウンドやサンプリングのネタ(ジャクソン5の「帰って
ほしいの」を使っているのもあったな)などへの言及はほぼなく、歌われる
歌詞の内容や背景についてに終始。そして、曲が終わると判を押したように
「クール!」と自賛する。ハハ。ブラック・アイド・ピーズと差別化できる
ものにしようしたというアルバムは総じてポップで、歌モノ中心。1曲イン
スト曲もあったが、それはザ・ファミリー・スタンドの荘厳なバラードを思
い出させるような曲調だった。なんでも、彼は19歳のときに28歳の日本人女
性とつきあっていたんだとか。今はいい友達だというその女性は駆け出しの
ころのザ・ブラック・アイド・ピーズを題材とした本を出すという。そんな
ことを彼は最後にわざわざ女性の実名を出して、発言した。
     
 ところで、会場は六本木(ヒルズにある)・グランドハイアット東京。ホ
テル好き(普段から一休やヨヤQを見て、掘り出しモノ探してますよお)/空
港好き(空港で働いてもいいなと行くたびにいまだ思うほど、なんとなく好
き)のぼくとしてはまだ行ったことがなかったので、足を運びたかった。お
お、ここ完全バレー・パーキングなのね。偉そうな玄関に車を乗り捨てるの
は気分がいい。が、そのぶん出庫には時間がかかる。そういやあ、一昨年六
本木ヒルズの某企業と仕事をしたときヒルズの駐車場を何度か使ったが、集中
管理みたいな時間がかかる車預かりのシステムをとっていたな(結論、目新
しいが、つかえねえ)。ホテルのトイレはちょっとスタイリッシュな作りと
色使い(すこし客室も見たくなったか)。が、高級ホテルならではのハンド
・タオル群は置いてなく、普通のトイレに備付けになっているようなのペー
パー・タオル設置でとても興ざめ。

サマーソニック

2007年8月11日
 例により、幕張メッセと千葉マリーンスタジアムにての開催。が、ステー
ジの設定などいろいろ変更あり(それは、年々リファインしようとしている
んだなと思わせるか)、これまでで一番専有面積の広いサマーソニックとい
うこともできるか。

 今回、初めて電車で行く。海浜幕張駅からの道すがら、チケット売ってく
ださいと書かれた紙を持った人を何度も見かける。ダフ屋も同様に。おお。
普段はクルマで行き一番近くの駐車場に止めていたためかそういう光景に触
れなかったが、それは毎度の事なのかな。炎天下のもと我慢強く待機してい
る人たち、ならば関係ない人も外から見れるビーチ・ステージに行けばいい
のにと思ったが、お目当てのアーティストが見たいのか。

 その、ぼくが大好きなビーチ・ステージは畳スペースなどが新設されてい
たが、公共の浜への入口が少し意地悪になっていて(リスト・バンドないと
が浜に入れないと、気弱な人なら錯覚しそう)、バツ印を。毎年同様のこと
を書いているが、公の場を専有しちゃってるだろうここぐらいおおらかに運
営されてもいいではないか。ぼくが行ったときのビーチ・ステージにはいろ
んな国籍の人がいるGANGA ZUMBA が出演。マルコス・スザーノ(2006年12月
28日、他)他らによる多国籍型サウンドはこういう開放的な場にはとても向
き。が、MCでも「(前の出演者のときより)客が帰ってしまッた」なんて
言っていたけど、けっこう空いていた。実は、ぼくが今回顔を出したステー
ジはどれも楽にふるまえる入り。一方で、横を通ったときダンス・ステージ
には入場規制がしかれていたりもしたので、混んでいるところは混んでいた
ろうけど。

 4時少しまで会場にいて、同じJR京葉線の新木場駅へ。5時集合となる
、知り合いの知り合いが企画する、東京湾大華火祭を屋形船で楽しむ会へ。
会費27.000円也、オトナ遊びじゃ。屋形船は、かなり昔に隅田川の花火大会
のときにに乗って以来。同駅に舟屋さんから2台のバスが迎えにきていて、
東雲から屋形船に乗り東京湾の花火観覧ポイントまで行く。なんだけど、運
河のようなところを行くときから屋形船はかなりの揺れ。湾のほうに出ると
、船が通ったとき発生する波でより派手にグワングワン揺れる。派遣コンパ
ニオンの娘たちもこんなに揺れるの初めてです、と言っていたもんなあ。

 船はポイントで停泊。あたりには、同様の船舶がいっぱい。そのうち、船
に弱いぼく(はしゃいで、がんがん飲み食いしていたんだが)はだんだんや
ばいかもと思うようになってくる。花火は7時に始まり、最初は船首のベス
ト・ポイントに出て見ていたのもののなんか気分がすぐれず、船内に戻る。
で、途中の30分は畳に横たわり、ぐだぐだ。そのときは、来るんじゃなかっ
たァと思ったか。約1割の参加者は同様に船酔い気味となっていたのではな
いか。コンパニオンのなかの一人の東工大二年生娘もグロッキー寸前です、
と言っていた。が、時間が進むにつれ、船の行き交いがなくなったせいもあ
り、船もあまり揺れなくなり、途中から復活。朗らかに花火を堪能。にっ。


 丸の内・コットンクラブ、ファースト・ショウ。シカゴ出身(デルマーク
から複数枚出したりも)の若手テナー・サックス奏者がカルテットで登場。
ときにかなり音は軽め(盤上だとどこかホンカー的煽情性を感じさせる部分
もあったが、実演ではそういうテイストはあまりない)だが、確かな吹き口
を持つ人。当人はずんぐりむっくり、これでルックスがよかったら、もっと
話題を呼んでもおかしくない。

 バンドのメンバーは主役よりもっと若く、みんな20代半ばではないのか。
ギター、電気ベース(音が大きすぎ、でした)、ドラムという編成。それで
、わりと普通の4ビート曲っぽいものから(ジョン・コルトレーンのマナー
をほんの少し踏襲しようとしたものも)、すこし尖り気味のフュージョン調
(グリーン・デイ曲カヴァーも)までを屈託なく披露。初々しさもあり(今
回、彼らがやったなかで一番綺麗なヴェニューであり、一番いいホテルに泊
まったのでは)、これも今のノリのジャズの一局面かと少し思ったりもした
。ともあれ、総じて明快な伴奏の上に、ちゃんとしたジャズ的ソロを乗せよ
うとするパーフォーマンス。その簡便な編成もあり、今のジャズ研所属学生
が見たら大いに刺激を受けるものなのではないのかとも感じた。

SUPERFLY

2007年8月22日
 ラヴ・サイケデリコのように、女性シンガーと男性ギタリストという構成
の日本人デュオ・ユニット。まだ、メジャーからはシングルのみでアルバム
は出していないようだが、渋谷・O−イーストは相当な入り。カーティス・
メイフィールドの有名サントラ曲「スーパーフライ」が流されるなか、彼ら
は登場する。オープナーはハンブル・パイ曲のカヴァー。それに表れている
ように、オールドなどすこい〜手作りロック(米国も英国も区別なしに愛好
といった感じか)を健気にやろうとするユニット。なんの芸もないけれど、
ちょい胸が騒ぐところあったな。若い人たちがやるから価値が出るわけであ
って(バック・バンドも若そう。ベースは女性)、オヤジがやってもお客は
集まらないんだろうな。

ALO。TOYONO

2007年8月23日
 現在はジャック・ジョンソン(2003年9月30日、2005年5月25日、200
7年4月6日)ファミリー入りしているサンフランシスコ拠点の中堅4人組
(2007年4月6日)だが、本国ではジャム・バンド需要がデカいバンドなん
だろうな。2セットで、正味2時間半近くやったもん。でも、腕はたつし(
生ギターでいろんな電気ギター的な音を出すギタリストは酔狂にして驚異的
)、気持ちはあるし、曲調は豊かだし、グルーヴもあるし、飽きずにニッコ
リ見れちゃったよな。今、トップ級のアメリカン・ロック・バンドと言うに
ぼくはやぶさかではありません。渋谷・クラブクアトロ、客の反応が熱烈な
のが救いだったが、入りはあまりいいものではなかった。昨日のO−イース
トのそれとあまりに落差がありすぎで、胸が痛む。

 その後、青山・プラッサオンゼに、ブラジル音楽語彙/情緒を介する女性
シンガーのTOYONO(1999年6月3日)を見にいく。彼女の3作目『pe
licano heaven 』をリリースを祝うもので、レコーディングに参加していた
マルコス・スザーノ(1999年8月11日、他)他を従えてのもの。ALOのシ
ョウが長かったので、セカンド・セットの途中からしか見れなかったが、い
い感じのヴァイヴと、しなやかに舞うヴォーカルがしっかりあって楽しかっ
たな。アンコールではスザーノもシング・トークを披露する。この日、カイ
ピリーニャの砂糖抜きという頼み方があるのを知る。←ちょっと嬉しい。
   
 うひょう。びっくりするぐらい力があり、ひきつけられた。こんなに凄い
人だったのか。

 音楽家庭に育ち(1950年、メンフィス生まれ)、74年に日本のトリオ・レ
コードで録音した以降は、アトランティック、エレクトラ、ポリグラム/ユ
ニヴァーサルとずっとメジャーに在籍し続けるジャズ・シンガー(2003年
8月1〜2日。ずっとパリに住んでいるのかな)。当初は広がりあるフュー
ジョン調バッキング音で歌っていた彼女だが、成熟した現在も正調ジャズ路
線としなやかな拡大路線をうまく併置して取っているという印象をぼくは持
つ。今回のバンドは生ベースのアイラ・コールマン(2000年3月14日、2004
年10月29日)他いろんな肌の色をした奏者を雇ってのもので、やはり普通
のジャズの枠には納まらない演奏指針を取るものだった。

 乱暴に言えば、エラ・フィッツジェラルドからJBまで自在に行き来しち
ゃってるようなパフォーマンス。でもって、最新作はマリ録音だったりして
、奥にアフリカを想起させるときもあり。お洒落な衣服を身にまとった彼女
はがんがん動いたりもするが、音程は全然乱れない。とにかく、あらゆる歌
い方や喉の使い方ができ、そのどれもが堂にいっていて、多大な訴求力を持
つ。オールマイティという形容もアリで、それだと器用貧乏的で個性が薄い
ような感じがしてしまうが、何を歌っても強固に威厳ある自分を打ち出すの
だから降参。今後、日本に来たときは全部チェックしなきゃ、と思った次第。

 唯一マイナスに感じたのは、彼女の芝居っ気たっぷりのMC。それは過剰
すぎて、少し引きました。会場はお盆休みの間に少し改装された、南青山・
ブルーノート東京。まあ、秀でたプロには関係ないのかもしれないが、公演
初日のファースト・セットでこの度を超した濃密具合。すごすぎ、です。

木下航志

2007年8月29日
 ここのところ、少し秋っぽい感じも出てきて、少し過ごしやすくなって来
ている。この日は雨天気味。品川・品川教会。1989年生まれの、盲目のシン
ガー/ピアニスト。スティーヴィー・ワンダーが大好きで、散々聞いて自分
の表現の土台を作ってきたきた人なんだろうな思わせるパフォーマンスを2
部構成にて。子供づれからそれなりに年配の人までかなり客層は広い。

 1部は基本ベースと生ギターを従えて、オリジナル曲を中心に披露。ギタ
ー奏者は不要だったかもしれない。声質はけっこう太い、そう感じるのはス
ティーヴィー・ワンダーのそれと比較してしまうせいか。ちょっとぼくにと
っては不自然に感じる声の張り上げ方をするが、それもスティーヴィー・ワ
ンダー耽溺から来ているんだろう。楽曲も同様にアイドルのそれを通過して
いるのがよく分かる。が、そのうえにもう一つの澄んだ情感、切実さを彼は
持つ。最後には、「竹田の子守歌」のアダプト曲を。それを聞きながら、彼
なりのソウル表現の引き金はいろんなところにあるんだろうなと思う。もし
、彼がスティーヴィー・ワンダーではなく、例えばハマったのがビリー・ジ
ョエルだったら……。これだけ高い咀嚼能力を持つ人、それはそれで質の高
い普遍的なポップ・ミュージックの担い手になったんじゃないか。なんてこ
とも、休憩時に感じた。

 2部はもう少し大きな編成(ながら、フル・ドラムは用いず、やはりアン
プラグドのり。それは会場の制約だろう)にて、ソウル曲カヴァーを真っ直
ぐに披露。確か冒頭2曲はオルガンとのデュオだったが、その設定かなり良
し。おもしろいのは、「ワイルド・ホーシズ」(ストーンズ)、「サマー・
ブリーズ」(シールズ&クロフツ)、「明日にかける橋」(サイモン&ガー
ファンクル)ら、ロック有名ヒット曲を取り上げていたこと。彼はアリシア
・キーズやアイズリーズ他、R&Bカヴァー・ヴァージョンでそれらの曲の
存在を知ったようだけど。それら手触りのいい実演に触れながら、高校の勉
強なんかおろそかにしていいから、どんどんいろんな音楽に触れて(結局、
それはいろんな世界や価値観や機微に触れることになるはず)“木下航志と
いう太い音楽回路”を隆々と築きいてほしいナと思う。本当に今、伸び盛り
だろうし。